編集部コラム | 【医師監修】親知らずの抜歯は後遺症が残るリスクも?メリットも考慮して判断を

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目次

神経に近い親知らずの抜歯には、見えないリスクが隠れている
CT画像を見て中止の判断も
メリットとリスク、より把握しやすく
記事執筆監修者のご紹介
 
img_1508557671親知らずを抜歯しようとレントゲンを撮ったら、「リスクが高いかもしれないからCTも撮りましょう」といった説明を受けることがあります。

CTは、歯や骨などの詳細な立体画像を作成するための診断機器。

すでにレントゲン画像で歯の状態はわかっているのに、どうして追加の治療費を払ってまで歯科用CTを撮らなければならないのでしょうか。

今回は、歯科用CTのメリットを詳しく解説します。
 

神経に近い親知らずの抜歯には見えないリスクが隠れている

 
img_1508557671親知らずを抜歯しようと歯医者に行くと、必ずパノラマレントゲン(大まかな歯や骨の状態を知るための口腔内全体のレントゲン写真)を撮ります。

そこには虫歯の治療跡はもちろん、これから抜く予定の親知らずの姿もしっかり写ってきます。

多くの場合、このパノラマレントゲンだけで事前の画像診断はおしまいとなり、抜歯へと移っていきます。

そのまま抜歯をしても、なにか不都合が起こることはほとんどありません。

ところが、中にはレントゲンだけではリスクがわからないからと、CTを撮ることを勧められるケースがあるようです。

CTは、Computed Tomography:コンピューター断層撮影の略で、X線を利用して身体の内部(断面)を画像化する検査です。

画像処理を行うことにより、身体を輪切りにしたような細かな情報を得ることが可能です。

コンピューターを用いて連続した画像を1枚に統合することで立体的な画像を得ることもできるため、脳や内臓の状態を確認するために活用されています。

ここ近年の技術の進歩により、CTの装置は小型化され、歯科用のCTも登場しています。

この歯科用CTを使うことで、歯やあごの骨の形、下の親知らずの近くにある下顎菅(かがくかん)という大きな神経や血管が入っている空洞の位置などが立体的に詳細に把握できるようになります。

対して、レントゲンは基本的には影絵のようなもので、歯と下顎管が近接した場合、重なり合った状態で投影されます。

下顎管との距離が十分に離れていて、そのまま抜歯をしても下顎管内の神経を傷つける恐れがないことが判るときにはレントゲンだけで画像診断を終わらせることができますが、もしも歯と下顎管が重なり合って写っている場合には、実際にはどのような位置関係になっているのかまでは、はっきり判りません。

歯と下顎管が接触している場合もあれば、見えていない角度で歯の根元が曲がっていて複雑な立体構造をしている場合もあります。

こうしたリスクについて十分判断できないまま抜歯をしてしまうと、極めてまれなケースですが、神経を傷つけ、痺れや違和感といった後遺症が残ってしまうことも考えられるのです。

3次元的な構造が可視化できる歯科用CTを活用することで、レントゲンだけではわからなかった親知らず抜歯のリスク把握に役立てられているのです。
 

CT画像を見て中止の判断も

 
img_1508557671歯科用CTを撮るかどうかの判断はレントゲン画像を見た歯科医師が行います。

親知らずが神経付近まで達していて、レントゲン画像だけではリスクが判断できない場合、歯科用CTにも健康保険が適用され5000円ほどの費用負担で受けることができます。

CTを撮って立体構造がわかるということは、抜歯をより安全に行えるということに他なりません。

これまでレントゲンには写っておらず、歯科医師の経験と勘に頼らざるを得なかった立体的な位置関係の把握が、CTによって事前にはっきりわかるようになったため、抜歯の手順も組み立てやすく、より安全に抜歯できるケースも増えてきたようです。

歯茎の切開や骨の切削範囲も必要最低限な設定が可能なため、抜歯処置の体への負担も軽減できます。

ただし、歯科用CTを撮ったからといってすべての歯を抜歯できるというわけではありません。

位置関係がわかった上で一般の歯科医院では対応が難しいと判断された場合、口腔外科を紹介されることもあります。

歯科用CTは照射範囲も小さく、一般的なCTよりもX線被ばく量が10分の1程度に抑えられるとはいえ、なるべく撮影の機会は少ない方がいいと思われます。

紹介状とともにデータをCDを添付してもらえる場合もあるため、その旨を申し出るか、あるいは、口腔外科への紹介が決まっている場合は、はじめから口腔外科で撮影してもらったほうがいいでしょう。

また、親知らずの根の形態がわかった結果、抜歯するメリットよりも、それに伴うリスクの方が上回った場合、抜歯の中止を勧められることもあります。

このように、親知らずの歯根と下顎管が複雑に絡み合っている立体画像を見ることができるようになったことで、歯科医師、患者間でのリスクの説明も円滑に行え、より相互理解が得られやすくなったようです。
 

メリットとリスク、より把握しやすく

 
img_1508557671レントゲン画像を見て、埋まっている親知らずの歯根が深い位置にあり、神経の近くを通っているかもしれないため、抜歯の際にリスクが伴うと感じたら、歯科医師は歯科用CTを撮ることを提案してくれるでしょう。

もし、専用の設備がない場合には、その撮影も含めて、親知らずの処置に長けた口腔外科や大学病院を紹介してくれることでしょう。

レントゲンとは別に歯科用CTを撮るのは、リスク把握を正しく行うためで、今や必須の時代です。

そのため、歯科医師から「このまま抜くのは危険だから」と撮影を提案されたら、より安全に治療を受けるため、その指示に従ったほうがいいように思います。

抜歯にはメリットだけでなく、常に大なり小なりリスクが伴います。

抜くメリットと考えられるリスクのバランスを慎重に判断して、抜歯をするのか、それとも中止するのかをしっかり担当医と相談し、進めていく必要があるのです。
 

この記事の執筆監修者

 
dr-hirakawa平河 貴大 先生 (ひらかわ歯科医院 院長)

■経歴

九州大学 農学部 卒業

九州大学 歯学部 卒業

九州大学病院にて研修後、ウェルカムデンタルクリニックにて研鑽

■所属学会

日本歯科保存学会

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