【医師監修】インプラントと入れ歯の違いとは?費用と見た目の特徴を詳しく紹介

歯を失ったときの治療の選択肢として、よく挙がるのがインプラントと入れ歯です。どちらもメリット・デメリットのある治療ですが、その違いを理解することで治療後の日々の食事の満足度が大きく変わります。

初期費用は数十万円単位で変わりますが、将来の再治療リスクや残った歯への影響まで含めた生涯コストで考える視点も必要です。この記事では、費用や見た目といった表面的な違いだけでなく、それぞれのメリットやデメリット、選び方を紹介していきます。

この記事を監修した医師

明石 陽介
Akashi-Yosuke

愛知学院大学歯学部卒業

口腔外科、一般歯科診療に携わり
現在は、愛知県内の歯科医院にて訪問歯科診療を中心に活動。通院が難しい方にも安心して歯科治療を受けていただけるようサポート。
義歯治療や摂食嚥下の支援にも力を入れ、患者様一人ひとりの生活に寄り添った診療を大切にしている。


インプラントと入れ歯の違いを徹底比較|選び方の5つのポイント

インプラントと入れ歯では、費用や見た目、使い心地など、さまざまな違いがあるため、「自分にはどちらが合っているのだろう」と悩む方も多いです。ここでは、インプラントと入れ歯のどちらを選ぶべきか考えるための5つのポイントを、それぞれ比較しながら解説します。

1.見た目の自然さと装着時の快適さ

2.噛む力と食事の満足度の違い

3.治療費用(保険適用の有無)と期間の目安

4.周囲の健康な歯への影響と寿命の比較

5.長期的な費用対効果(再治療リスク)

見た目の自然さと装着時の快適さ

治療後の見た目の美しさと、口に入れたときの心地よさは、毎日の生活の質(QOL)に関わる重要なポイントです。

インプラントと入れ歯では、以下の点で違いがあります。

項目インプラントの特徴入れ歯の特徴
見た目天然の歯に近く、非常に自然バネが見えることがある(自費で目立たないものも選択可)
快適さ異物感が少なく、自分の歯に近い異物感があり、慣れが必要
安定性骨に固定され、ぐらつかないずれたり、外れたりすることがある

噛む力と食事の満足度の違い

毎日の食事を楽しく、美味しく味わうために、しっかり噛めることは重要です。

インプラントと入れ歯では、噛む力(咀嚼能力)と満足度に以下の違いがあります。

インプラントの噛む力と満足度入れ歯の噛む力と満足度
・天然の歯があったときと同じくらい(※1)
・食事の種類の制限なく、満足度高い
・天然の歯の20〜30%程度(※2)
・入れ歯と歯ぐきの間に食べ物が挟まり痛むことがある

治療費用(保険適用の有無)と期間の目安

インプラントと入れ歯では、保険が使えるかどうかという大きな違いがあります。

インプラントと入れ歯の費用と期間は以下のとおりです。

治療法費用の目安保険適用治療期間の目安
インプラント35万~50万円/本不可3か月~1年
入れ歯(保険)5,000円~15,000円可能約1か月
入れ歯(自費)15万円~不可約1か月~

どちらの治療も、年間の医療費が10万円を超えた場合に所得控除を受けられる医療費控除の対象となる場合があります。

周囲の健康な歯への影響と寿命の比較

治療法によって、周囲の歯への影響と、治療した歯の寿命が異なります。

インプラントは失った部分の骨に単独で埋める治療のため、周囲の歯を削る必要がありません。また他の歯にバネをかける必要もないので、周囲の歯への影響は少ないです。

インプラントの寿命としては、10〜20年といわれています。

入れ歯は部分入れ歯の場合、金属のバネを健康な歯にかける必要があるので、食事のたびに揺さぶるような力がかかります。その歯がぐらつくようになることで、むし歯や歯周病のリスクが高まることがあります。

入れ歯の寿命として、3〜5年で調整や作り直しが必要になることが多いです。

長期的な費用対効果(再治療リスク)

長期的な費用対効果として、インプラントは1度治療が完了すれば、適切なケアを続けることで、長期間安定して使用できる可能性が高いです。

数年ごとに作り直す必要がないため、修理や再治療にかかる費用や通院の手間を抑えることができます。自分の歯のように快適に食事や会話を楽しめるという、生活の質への貢献も大きな価値です。長期的に見れば、結果として費用対効果が高いと感じる方も多いです。

入れ歯の費用対効果として、保険適用の入れ歯は初期費用を抑えることができます。しかし、顎の骨や歯ぐきの変化に合わせて、数年ごとに調整や作り直しが必要になるのが一般的です。

そのたびに費用が発生するため、長期的には総額が高くなってしまうケースがあります。また、入れ歯を支えている歯が弱くなることで、抜歯が必要になることもあります。そうなるとさらに大きな入れ歯を作り直すことになり、治療費がかさんでいく可能性もあります。

初期費用だけでなく、10〜20年という単位で見たときの総費用や、生活の快適さを考えて選択することが必要です。

インプラントと入れ歯で悩む人が多い理由

歯を失ってしまったとき、インプラントと入れ歯のどちらを選ぶべきか、多くの人が悩むところです。

ここでは、多くの人が選択を迷う理由を解説します。

医院ごとに提案が異なり判断しづらい

同じ口の状態で相談しても、ある歯科医院ではインプラントを、別の歯科医院では入れ歯を勧められることがあります。

提案が異なる主な理由は、以下のとおりです。

  • 歯科医師の専門性や経験の違い
  • 医院の設備の違い
  • 治療に対する考え方の違い

このように、歯科医師の専門分野や技術、歯科用CTがあるかなどの設備環境面、手術を積極的にするかどうかなどの医師の考え方の違いにより提案が異なることがあります。

費用差だけで判断できないから

インプラントと入れ歯を選ぶ際、費用の違いは大切な視点になります。一般的に、自由診療であるインプラントは高額になりやすく、保険が適用される入れ歯は費用を抑えることができます。

しかし、単純な金額の差だけで治療法を決めてしまうと、後悔する可能性があります。

治療法を選ぶ際は、初期費用だけでなく、以下のような視点を持つことも必要です。

比較する視点確認したいこと
機能性自分の歯と同じようにしっかり噛めるか、会話に支障はないか
快適性装着時の違和感はどうか、毎日の取り外しの手間は苦にならないか
見た目の自然さ人から見て治療したことが分かりにくいか、笑顔に自信が持てるか
健康への影響周囲の残っている歯に負担はかからないか、将来的に他の歯を守れるか
生涯コスト修理や作り直しは必要か、メンテナンス費用を含めた総額はどうか

治療法別に見るメリット・デメリットと治療の流れ

インプラントと入れ歯は、歯を失ったときの代表例として挙げられますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。

ご自身に合った治療法を選ぶためには、それぞれの特徴や治療全体の流れを理解することが大切です。

インプラント治療|流れ・費用・受けられないケース

インプラントは、失った歯の代わりにチタン製の人工歯根を顎の骨に埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。自分の歯のようにしっかりと噛めるのが最大の特徴です。

インプラント治療のメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリットデメリット
・天然の歯に近い機能と見た目
・周囲の歯の負担が少ない
・顎の骨が痩せるのを防ぐ
・食事の選択肢が広がる
・外科手術が必要
・費用が高額になる
・治療期間が数か月〜1年と長期
・インプラント周囲炎のリスクがある

治療の流れは以下のとおりです。

1.カウンセリング・精密検査

2.治療計画の立案

3.インプラント埋入手術

4.治癒期間

5.人工歯の装着

6.定期メンテナンス

なお、重度の全身疾患(コントロール不良の糖尿病など)がある方や、顎の骨の量が極端に少ない方、口の清潔が保たれていない方は、インプラント治療を受けられない場合があります。

入れ歯(保険)|特徴・費用・注意点

保険適用の入れ歯は、費用を抑えて歯の機能を補うことができる、最も一般的な治療法の一つです。部分入れ歯と総入れ歯があります。

入れ歯(保険)のメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリットデメリット
・費用負担が少ない
・身体への負担が少ない
・治療期間が短い
・バネが見え、見た目が悪いことがある
・装着時の違和感がある
・周辺の歯への負担がかかる
・噛む力が低下する
・定期的な調整
・作り直しが必要

治療の流れは以下のとおりです。

1.カウンセリング・型取り

2.噛み合わせの記録

3.試適(仮入れ歯の装着)

4.完成・装着

入れ歯(自費)|ノンクラスプなどの選択肢

自費診療の入れ歯は、より良い見た目や快適性を追求できるのが特徴です。素材の種類と特徴は以下のとおりです。

種類特徴
ノンクラスプデンチャー・歯ぐきに近い色の樹脂で歯に固定する部分入れ歯
・審美性、装着感の良さがメリット
金属床義歯・薄い金属でできている入れ歯
・違和感が少なく、食事の温度を感じやすい
高性能ポリマー義歯・医療用プラスチック「PEEK」などを使用した入れ歯
・金属アレルギーの心配がなく、非常に軽い

インプラントオーバーデンチャー|入れ歯の固定源にする選択肢

インプラントオーバーデンチャーは、総入れ歯とインプラントを組み合わせた治療法です。顎の骨に2〜4本ほどのインプラントを埋め込み、それを土台として総入れ歯をしっかりと固定します。

インプラントオーバーデンチャーのメリットとデメリットは以下のとおりです。

メリットデメリット
・入れ歯が安定する
・噛む力が向上する
・インプラントと比較すると費用が抑えられる
・外科手術が必要
・自費診療になる
・両方のメンテナンスが必要

この治療法は、総入れ歯が合わなくて困っているけれど、すべての歯をインプラントにするのは費用的に難しいという方に適しています。

快適さは治療の精度で変わる

治療後の噛み心地や見た目の自然さは、治療の精度により大きく変わります。ここでは、快適な生活のために欠かせない、治療の精度について解説します。

適合精度の差が「噛める・痛くない」に直結

インプラントの被せ物や入れ歯が、どの程度口に合ってるかを適合精度といいます。適合精度は、治療後の快適さを決める重要な点になります。

適合精度が低いと、以下のような問題が起こりやすくなります。

  • 痛みや違和感 
  • うまく噛めない
  • 外れやすい・話しづらい
  • 食べ物が挟まる

治療の精度が高ければ、このような不快な症状を防ぎ、ご自身の歯のように自然に使うことができます。

マイクロスコープによる精密治療の強み

治療の適合精度を高めるために、歯科医療の現場で活用されているのが、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)です。これは、治療する部分を肉眼の数倍〜20倍以上にまで拡大して見ることができる特別な顕微鏡です。

マイクロスコープを使うことで、以下のようなメリットがあります。

  • 精密な土台の形成
  • 精度の高い型取り
  • 健康な歯の保護 

マイクロスコープを用いた精密な治療は、インプラントや入れ歯の快適性や寿命に大きく関わります。治療法だけでなく、どのような設備を使って、どれだけ精密な治療を行っているかという点も、歯科医院を選ぶ際の重要な基準です。

迷ったときの選び方|あなたに合う治療はどっち?

インプラントと入れ歯は、どちらも失った歯を補うための優れた治療法です。治療法を選ぶ際には、費用や期間といった数字だけでなく、ご自身のライフスタイルや今後の生活で何を一番大切にしたいかを考えることが重要です。

ここではいくつかの視点から、迷ったときの選び方を紹介していきます。

  • 日常生活の快適さを最優先するならインプラント
  • 周囲の歯への負担を最小限にしたいならインプラント
  • 持病や口の環境に不安があるなら入れ歯も選択肢
  • 急いで治したい・費用を抑えたいなら入れ歯

日常生活の快適さを最優先するならインプラント

今までの食事や会話、見た目の美しさを優先するのであればインプラントがおすすめになります。インプラントは顎の骨に直接固定するため、自分の歯とほとんど変わらない感覚で毎日を過ごすことができます。

日常生活におけるインプラントのメリットには、以下のような点が挙げられます。

  • 食事の満足度が高い
  • 自然な見た目
  • 会話がしやすい
  • お手入れが楽

周囲の歯への負担を最小限にしたいならインプラント

残っている周囲の歯への負担をかけたくない方にとっても、インプラントが有力な選択肢となります。

インプラントは、歯を失った部分の骨に人工歯根を埋め込むため、他の歯に負担をかけることが少ないです。

ブリッジのように健康な歯を削る必要がなく、部分入れ歯のようにバネをかけて支えの歯に負担をかけることもありません。これは、口全体の健康を長期的に守るうえで大きなメリットです。

実際に、奥歯がない状態(短縮歯列)を治療せずに放置すると、咀嚼能力や咬合力が低下することが研究で示されています。(※3)

インプラントのような治療でしっかりと噛める状態にすることは、残っている歯を守り、口腔機能の低下を防ぐことにもつながるのです。

持病や口の環境に不安があるなら入れ歯も選択肢

インプラントは優れた治療法ですが、外科手術が必要なため、全身の健康状態が悪い方や口の中の環境によっては、リスクが高いと判断されることがあります。

このような場合は、安全性を最優先し、身体への負担が少ない入れ歯を選択することが望ましいです。

インプラント治療が難しい具体例は以下のとおりです。

  • コントロールが難しい重度の糖尿病の方
  • 骨粗しょう症の治療薬(ビスフォスフォネート製剤など)を使用している方
  • 心臓や腎臓に重い病気がある方
  • 顎の骨の量が著しく不足している方
  • 重度の歯周病がある方
  • 喫煙の習慣がある方

外科手術を伴わない入れ歯は、このような身体的な負担を避けたい方にとって、安心できる治療法です。

しかし上記に当てはまる場合でも、かかりつけ医と連携し、お体の状態を安定させることで治療可能になるケースもあります。まずは歯科医師に相談することをおすすめします。

急いで治したい・費用を抑えたいなら入れ歯

できるだけ早く歯を入れたい方や治療費はなるべく抑えたい方も入れ歯が適しています。特に保険適用の入れ歯は、費用面での負担が少ないのが大きなメリットです。

入れ歯の治療期間は数週間〜1か月程度と比較的短期間で治療が完了します。

費用面においても保険適用で3割負担であれば、数千円〜1万5千円で制作が可能です。

急なイベントなどで早く見た目を整えたい方や、長期間の通院が難しい方、費用を抑えて歯の機能を回復させたい方にとって、入れ歯は現実的な選択肢になります。

後悔しない医院の選び方

インプラントと入れ歯どちらの場合であっても、どの歯科医院で治療を受けるかは重要です。

ここでは、インプラントや入れ歯の治療で後悔しないために、どのような視点で医院を選べば良いのか、3つのポイントをご紹介します。

  • 複数の選択肢を提案してくれる
  • マイクロスコープやCTなど設備が整っている
  • 治療後のメンテナンス体制がしっかりしている

複数の選択肢を提案してくれる

特定の治療法だけを提案するのではなく、複数の選択肢を挙げる歯科医院を選ぶと後悔しづらいです。

なぜなら、口の状態はもちろん、ライフスタイルや価値観、将来の希望は一人ひとりで異なるからです。

インプラント、入れ歯(保険・自費)、ブリッジなど、考えられる治療法の選択肢をすべて提示し、それぞれのメリット・デメリットを丁寧に説明してくれる医院を選びましょう。

説明時に以下の点があるか確認してください。

  • 考えられる治療法を複数あげてくれるか
  • それぞれのメリットだけでなく、デメリットやリスクも隠さず説明してくれるか
  • あなたの希望や生活について、丁寧に話を聞いてくれるか
  • 使用する素材の選択肢についても説明があるか

マイクロスコープやCTなど設備が整っている

治療の精度や安全性は、歯科医師の技術に加えて、どのような設備を使っているかも大切です。特に、インプラントや精密な入れ歯治療では、診断と治療のための設備が整っているかが重要な判断基準になります。

以下の設備が整っていると精密な治療が受けやすくなります。

  • CT(歯科用CT)
  • マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)
  • 口腔内スキャナー

治療後のメンテナンス体制がしっかりしている

インプラントや入れ歯は、治療が終わった後のメンテナンスも大切になります。

インプラントの場合、天然の歯と同じように歯周病(インプラント周囲炎)になるリスクがあります。これは自覚症状がないまま進行することがあるため、歯科医院での定期的なプロのクリーニングが必要です。

入れ歯の場合も、口の中は少しずつ変化します。顎の骨が痩せて入れ歯が合わなくなったり、バネをかけている歯が弱ったりするため、定期的な調整とチェックが快適さを保つために重要です。

特に、複数のインプラントで歯を支えるブリッジのような治療では、単独の場合よりもネジの緩みといった機械的なトラブルが起こりやすいです。何かあったときにすぐ相談でき、定期的に口の状態をチェックしてくれる、信頼できるかかりつけ医を持ちましょう。

治療後のメンテナンス体制が整っているか以下の点を確認してください。

  • 定期検診の案内など、継続的に診てくれる仕組みがあるか
  • 歯科衛生士による専門的なクリーニングを受けられるか
  • 治療後の保証制度は整っているか
  • 急なトラブルにも対応してくれるか

まとめ

今回は、歯を失ったときの治療法であるインプラントと入れ歯について、それぞれの特徴や選び方のポイントをご紹介しました。

どちらの治療法にもメリットとデメリットがあり、どちらか一方が優れているわけではありません。大切なのは、費用や見た目の美しさ、食事の楽しさ、残っている歯の健康など、ご自身が今後の生活で何を大切にしたいかを考えることです。

まずは信頼できる歯科医院で相談してみてください。


参考文献

  1. Abe M, Wada M, Maeda Y, Ikebe K. Ability to adjust occlusal force in implant-supported overdenture wearers. J Prosthodont Res, 2021, 65(1), 106-114.
  2. Shala K, Tmava-Dragusha A, Dula L, Pustina-Krasniqi T, Bicaj T, Ahmedi E, Lila Z. Evaluation of Maximum Bite Force in Patients with Complete Dentures. Open Access Maced J Med Sci, 2018, 6(3), 559-563.
  3. Yoshimoto T, Hasegawa Y, Mya Khaing AM, Sta Maria MT, Hattori H, Kishimoto H, Shinmura K, Ono T. Effects of the shortened dental arch on oral function in older adults: A prospective cohort study. Heliyon 10, no. 24 (2024): e40897.