【医師監修】インプラントの費用相場|1本あたりの価格と費用を抑えるポイント

インプラント治療を検討する際、多くの方がどのくらいの費用がかかるのか気になるのではないでしょうか。インプラントは失った歯の機能と見た目を取り戻せる優れた治療法ですが、高額な費用がかかるため、治療をためらってしまう方も少なくありません。

本記事では、インプラント治療の費用相場や価格が変動する6つの要素、自己負担を軽減するポイントを解説します。高額な治療だからこそ、正しい知識で不安を解消し、ご自身が納得できる最適な選択をしましょう。


この記事を監修した医師

明石 陽介
Akashi-Yosuke

愛知学院大学歯学部卒業

口腔外科、一般歯科診療に携わり
現在は、愛知県内の歯科医院にて訪問歯科診療を中心に活動。通院が難しい方にも安心して歯科治療を受けていただけるようサポート。
義歯治療や摂食嚥下の支援にも力を入れ、患者様一人ひとりの生活に寄り添った診療を大切にしている。

インプラント費用の相場

インプラント治療は失った歯の機能と見た目を取り戻せる優れた方法ですが、治療費は高額になりがちです。インプラント1本あたりの全国的な費用相場は、検査から被せ物の装着までを含めて約30~45万円です。原則として保険適用されず、自費診療となります。

インプラント治療の総額は、主に以下の項目で構成されています。

項目費用目安
検査・診断約1.5~5万円
インプラント埋入手術約15~35万円
インプラント本体と部品手術料に含まれることが多い
被せ物約5~20万円

インプラント本体と部品の費用が手術代に含まれているかは、歯科医院によって異なる点に注意してください。

インプラントは治療代に加えて、治療後のメンテナンス費用もかかります。メンテナンスを怠ると、歯周病に似たインプラント周囲炎という病気になるリスクがあります。(※1)

インプラントと他の治療法との比較

失った歯の機能を取り戻す方法には、インプラント以外にブリッジや入れ歯などがあり、以下のようにメリット・デメリット・費用が異なります。

治療法インプラントブリッジ入れ歯
費用相場(1本あたり)30〜45万円7〜15万円(保険適用外)0.5〜15万円
メリット・天然しに近い噛み心地と見た目
・周囲の歯を削らない
・治療期間が短い
・固定式で違和感がない
・費用が安い
・外科手術が不要
デメリット・治療期間が長い
・外科手術が必要
・保険適用外
・健康な両隣の歯を削る必要がある
・支えとなる歯に負担がかかる
・違和感や痛みが出やすい
・発音しにくいことがある
・硬いものが噛みにくい

多くのケースで、ブリッジは保険適用されるため自己負担額の軽減が可能です。保険適用された場合、1本あたりの費用は1〜3万円になります。それぞれの治療法を比較し、自身に合った方法を選択してください。

インプラントの費用が変動する主な6つの要素

インプラントは、個々の患者さんに合わせた治療を提供するオーダーメイド治療であるため、費用は均一ではありません。インプラントの費用を変動させる主な要素は以下の6つです。

①クリニックの立地・設備・保証制度

②歯科医師の治療計画

③インプラントメーカーの種類

④被せ物の材質

⑤インプラントの埋入部位

⑥骨造成やサイナスリフトなど追加手術の有無

①クリニックの立地・設備・保証制度

治療内容だけでなく、クリニックがどのような環境で医療を提供しているかによっても費用は変わります。主な要素は、立地・設備・保証制度の3つです。

まず、クリニックの立地です。都心部の一等地にあるクリニックは、地方のクリニックに比べて家賃や人件費などの経費が高くなる傾向があり、この差が治療費に反映される場合があります。

次に、安全で精密な治療を行うために導入している設備です。インプラントは高度な外科手術が必要であり、特別な医療機器が欠かせません。使用される主な医療機器は以下のとおりです。

医療機器概要
歯科用CT顎の骨の厚みや重要な神経・血管の位置を3次元で把握できる装置
サージカルガイドインプラント埋入の位置・角度・深さをガイドするための医療機器であり、CTデータをもとに作製したマウスピース型の装置
衛生管理設備手術器具の滅菌・消毒などを行う装置
デンタルマイクロスコープ肉眼の数倍〜数十倍に視野を拡大できる装置であり、より精密で安全な手術が可能

最後に、保証制度の有無や内容です。インプラントのトラブルに備えた保証は重要であり、保証期間が長かったり、保証内容が手厚かったりするクリニックは、費用が高くなる傾向があります。

②歯科医師の治療計画

インプラント治療の費用は、歯科医師がどのような治療計画を立てるかによっても大きく異なります。例えば、歯を抜いた後の治療方針でも以下の2つの方針があり、歯科医師ごとで判断が分かれがちです。

  • 抜歯即時埋入
  • 待時埋入

抜歯即時埋入は、歯を抜いた当日にインプラントを埋め込む方法です。治療期間の短縮が期待できる一方、骨の状態が良い患者さんにしか適用できません。

待時埋入は、抜歯後、歯茎や骨の治癒を待ってからインプラントを埋め込む方法です。抜歯即時埋入よりも多くの症例に対応可能で、確実性が高いとされています。

どちらの方法を選択するかは、歯科医師の知識、技術、経験に基づいた総合的な診断によって決まります。

③インプラントメーカーの種類

インプラントは、世界中に100社以上のメーカーが存在し、どのメーカーの製品を使うかによって費用が変わります。メーカーごとに研究開発の歴史や製品の品質、世界的なシェア、価格が異なります。

世界的に実績のあるメーカーのインプラントは、長年にわたる豊富な臨床データと研究実績があることが特徴です。採用しているクリニックも多いため、転居した場合でも転居先のクリニックでメンテナンスを受けやすい利点がありますが、価格は高い傾向です。

一方、後発メーカーは、比較的安価な価格のインプラントを提供しています。費用負担を抑えられますが、長期的な臨床データが十分でない場合があるでしょう。

インプラント埋入後に合併症が起こると、治療や再手術でかえって費用がかかるため、メーカー選びは慎重に判断することが大切です。クリニックによっては取り扱うメーカーが異なるので、診察前に確認してください。

④被せ物の材質

インプラント本体の上に取り付ける被せ物(上部構造)も費用を左右する大きな要素です。被せ物にはさまざまな材質があり、どれを選ぶかによって見た目の美しさや強度、価格が大きく変わります。

被せ物の材質と特徴、費用感は以下のとおりです。

材質の種類主な特徴費用感
ジルコニアセラミック人工ダイヤモンドとも呼ばれるほど強度が高い材質。変色しにくく、自然な白さを再現でき、金属アレルギーの心配もほとんどない。5〜20万円
オールセラミック透明感があり、天然の歯に近い見た目のタイプ。審美性が特に重視される前歯への使用が多い。7〜20万円
メタルボンド金属のフレームにセラミックを焼き付けたタイプ。強度が高い一方、歯茎が黒ずんで見えたり、金属アレルギーのリスクがあったりする。7〜15万円

どの材質を選ぶかは、インプラントを入れる場所(前歯・奥歯)や噛み合わせの強さ、審美性への希望、予算などを総合的に考慮して決めます。それぞれのメリット・デメリットを歯科医師とよく相談し、納得のいく選択をしましょう。

⑤インプラントの埋入部位

インプラントを前歯と奥歯のどちらに埋め込むかによっても、治療の難易度や工程が変わり、費用に影響します。

前歯は人から見えやすく、天然歯と見分けがつきにくいことが求められます。歯の色や形だけでなく、歯茎のラインを自然に見せられるよう精密な位置決めも必要です。一方、インプラントを支えるための骨が薄く、事前に骨を造成する処置が行われる場合があります。

奥歯は、食事の際に強い力が加わる場所なので、長期間にわたり耐えられる強度や耐久性が必要です。直径が太く、長めのインプラントを選択される傾向があります。一方、上顎の上に鼻に通じる空洞があったり、下顎に太い神経があったりし、手術に高い技術が必要です。

埋入する部位によって求められる技術や追加処置が異なることが、費用が変わる要因です。デンタルマイクロスコープを用いる手術であれば、費用が高くなる一方、より低侵襲で正確な治療が期待できます。

⑥骨造成やサイナスリフトなど追加手術の有無

インプラントを支えるための十分な量と厚みのある骨がなければ、追加手術が必要となり費用がかかります。歯周病が進行していたり、歯が抜けてから長い時間が経過していたりした場合に行われることが多いです。(※2)

代表的な追加手術には、以下のようなものがあります。

  • GBR(骨誘導再生法)
  • サイナスリフト/ソケットリフト

GBRは、骨が足りない部分に骨のもととなる材料(骨補填材)を入れることで、骨の造成を促す方法です。骨補填材を特殊な膜で覆い、脱落しないようにします。

サイナスリフトは上顎の骨を増やす方法です。上顎の奥歯の上にある空洞(上顎洞)の底に骨補填材を充填し、インプラントの埋入に必要な骨の高さを確保します。上顎の骨の厚みが比較的残っている場合に用いられる方法がソケットリフトです。

治療前のCT検査などで骨の状態を正確に診断し、追加手術が必要かどうかを自身で事前に確認することが、最終的な治療費を把握するうえで重要です。

インプラントの費用負担を軽減するポイント3選

インプラント治療の費用負担を軽くする方法として、以下の3つがあります。

①医療費控除の活用

②デンタルローンの活用

③例外的な保険適用の確認

①医療費控除の活用

インプラント治療の費用負担を軽減する方法の1つが医療費控除の活用です。

医療費控除は、自身や生計を同一にする家族のために支払った医療費が1年間で合計10万円を超えた場合に、納めた税金の一部が戻ってくる制度です。インプラント治療費はもちろんのこと、処方された薬代や通院に利用した公共交通機関の交通費も控除の対象となります。

医療費控除の控除額は、支払った医療費の総額から、保険金などの補填額に10万円を加えた金額を差し引いた費用です。

医療費控除額=(年間の医療費総額ー保険金などで補填された金額)−10万円という計算式で求められます。

ただし、総所得金額が200万円未満の場合は、10万円ではなく総所得金額の5%を差し引きます。

所得税率の詳細はこちらをご確認ください

②デンタルローンの活用

デンタルローンは、歯科治療にかかる費用を金融機関が立て替える商品であり、患者さんは分割で返済していくため毎月の自己負担額を軽減できます。まとまった自己資金がなくても、質の高い治療を受けられる点がメリットです。

デンタルローンの主な特徴は、以下のとおりです。

  • 歯科治療の費用にのみ利用可能
  • クレジットカードの分割払いに比べて金利が低い
  • 多くの歯科医院でスムーズに手続き可能

ただし、ローンであるため審査があり、金利手数料が発生します。総支払額は一括で支払うよりも多くなるので、契約前には金利や返済計画を十分に確認することが不可欠です。

③例外的な保険適用の確認

インプラント治療は、原則として公的医療保険が適用されない自由診療ですが、一部の特殊なケースに限り、例外的に保険適用で治療を受けられることがあります。

保険適用となる主なケースは、インプラント治療に至った原因が事故や後天的な病気であったり、生まれつきの病気であったりするときです。口腔がんの手術で顎の骨を広範囲に切除した場合や、先天的に顎の骨の1/3以上が連続して欠損している方に適用されます。

安いインプラントには注意が必要

インプラント治療の費用だけで歯科クリニックを選択すると、後悔する可能性があるため注意してください。安いインプラントには、以下のようなデメリットが隠されているかもしれません。

  • 経験の浅い医師が担当する
  • 品質の不明なメーカーの製品が使われている
  • 治療に対する保証がない

インプラント治療のクリニックを選ぶ際は、治療の実績や設備、カウンセリングの丁寧さなどから、総合的に判断することが大切です。クリニックのホームページから治療症例や設置設備を確認し、カウンセリングでわかりやすく説明してくれるかチェックしましょう。

まとめ

インプラント治療は高額な費用がかかりますが、安全で長持ちする治療を実現するために必要な金額です。費用の内訳や変動する理由を正しく理解することが、後悔しない治療選びの第一歩となります。

インプラント1本あたりの費用相場を見て、「自分では払えない」と諦める必要はありません。医療費控除やデンタルローンなどの制度を活用することで、自己負担額を軽減できる可能性があります。

まずは、近くの歯科クリニックで自身の口の状態にあった最適な治療計画を相談しましょう。相談の際には、この記事で解説した「費用の内訳」「支払い方法」「他の治療法との違い」について積極的に質問し、ご自身が納得できる説明をしてくれるクリニックを選ぶことが大切です。


参考文献

  1. Costa FO, Costa AM, Ferreira SD, Lima RPE, Pereira GHM, Cyrino RM, Oliveira AMSD, Oliveira PAD, Cota LOM.Long-term impact of patients’ compliance to peri-implant maintenance therapy on the incidence of peri-implant diseases: An 11-year prospective follow-up clinical study.Clin Implant Dent Relat Res,2023,25,2,303-312.
  2. 特定非営利活動法人 日本歯周病学会:歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス2018 P26