【医師監修】インプラントで「やらなきゃよかった」と後悔する理由と防ぐためのポイント

インプラント治療後に「やらなきゃよかった」と後悔されている方を聞き、不安になっていませんか。「手術後の痛みが予想以上に長引く」「人工歯の見た目が不自然で笑えない」など、後悔の声は決して少なくありません。

この記事では、インプラントで後悔が生まれやすい理由や後悔を未然に防ぐためのポイントを紹介します。満足度の高い治療を受けるために、まずは後悔の原因を知ることから始めましょう。

この記事を監修した医師

明石 陽介
Akashi-Yosuke

愛知学院大学歯学部卒業

口腔外科、一般歯科診療に携わり
現在は、愛知県内の歯科医院にて訪問歯科診療を中心に活動。通院が難しい方にも安心して歯科治療を受けていただけるようサポート。
義歯治療や摂食嚥下の支援にも力を入れ、患者様一人ひとりの生活に寄り添った診療を大切にしている。


インプラント治療で後悔する主な理由6選

インプラント治療を心から満足できるものにするためには、どのような場合に後悔が生まれやすいのかを事前に知っておくことが大切です。患者さんが後悔しやすい代表的な理由は以下の6つです。

①手術後の痛み・腫れ・神経麻痺の長期化

②不自然な見た目

③噛み合わせの違和感や食事のしにくさ

④インプラント周囲炎による歯茎の腫れ・出血・脱落

⑤インプラントの固定不足による再治療

⑥想定外の追加費用や高額な治療費

①手術後の痛み・腫れ・神経麻痺の長期化

インプラント治療は、歯茎を切開して顎の骨に人工歯根を埋め込む外科手術です。手術後は痛みや腫れが出ますが、多くは数日で治まり、腫れも1週間ほどで治っていきます。

ただし、感染や血管・神経への影響があると長引くことがあります。特に下顎の神経を損傷すると、唇や舌のしびれが残る可能性があるため注意が必要です。

これらを防ぐには、手術前にCTで骨や神経の位置を正確に把握し、安全な治療計画を立てることが大切です。手術の際にも、患部を拡大できるマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使用することで、神経損傷のリスクを低減できるでしょう。

②不自然な見た目

インプラント治療をしたのに「見た目が不自然で思い切り笑えない」と感じてしまうことがあります。見た目に関する問題は、生活の質に直結する深刻な悩みです。

具体的には、以下のような場合に不満を抱きやすくなります。

  • 周りの天然の歯とインプラントの色の不一致
  • 人工歯の大きさや形の不自然さ
  • 歯茎との境界に金属が露出

こうした問題は、歯科技工士と歯科医師の連携不足や、歯茎の状態を十分に考慮しない設計が原因になることがあります。自然で美しい見た目を長く保つためには、インプラントと歯茎などの軟らかい組織がしっかりとなじむことが大切です。マイクロスコープを使えば、より自然な見た目に近づけるでしょう。

③噛み合わせの違和感や食事のしにくさ

インプラント治療後に噛み合わせの違和感が残り、食事を楽しめなくなる後悔も少なくありません。

違和感の原因は、天然の歯とインプラントの構造的な違いにあります。天然歯の根っこの周りには歯根膜(しこんまく)という薄い膜があり、噛んだときの力を吸収したり、硬さや感触を脳に伝えたりする役割を果たしています。

一方、インプラントは顎の骨に直接固定されているため、歯根膜がありません。歯根膜がないと、噛み合わせがほんのわずかに違っても力が直接骨に伝わり、以下のような問題につながる可能性があります。

  • 過度な力がかかり、人工歯が欠けたりネジが緩んだりする
  • 特定の食べ物が噛みにくい、または詰まりやすくなる
  • 顎の関節に負担がかかり、顎関節症や頭痛、肩こりの原因になる

治療後の後悔を避けるには、インプラント1本だけでなく、お口全体の噛み合わせのバランスを精密に調整することが不可欠です。マイクロスコープを使うことで、インプラントの精密な位置調整が可能となり、噛み合わせの違和感を抑えられます。

④インプラント周囲炎による歯茎の腫れ・出血・脱落

インプラントは虫歯にはなりませんが、歯周病とよく似たインプラント周囲炎という病気になるリスクがあります。インプラント周囲炎は、インプラント治療後に注意すべき合併症の1つです。

インプラント周囲炎は、インプラントの周りの組織が細菌に感染して炎症を起こす病気です。天然歯の歯周病と比べて進行が速い特徴があります。(※1)進行するとインプラントを支える顎の骨が溶け、最終的にはインプラントがぐらついて抜け落ちてしまいます。

インプラント周囲炎の主な原因は、日々のセルフケア不足による歯垢(プラーク)の蓄積です。歯垢の蓄積による症状の段階は以下のとおりです。

段階主な症状
初期・歯茎の腫れ
・歯磨き時の出血
中期・歯茎から膿が出る
・インプラントが少し動く感じがする
重度・顎の骨が大きく溶ける
・インプラントが明かにぐらつく、脱落する

インプラント周囲炎の怖いところは、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。気づいたときには、すでに手遅れになっているケースも少なくありません。予防のためには毎日の丁寧な歯磨きに加え、歯科医院での定期的なメンテナンスが必要です。

マイクロスコープ治療により、細菌が侵入できるインプラントと骨との隙間を無くせるので、インプラント周囲炎を抑えられるでしょう。

⑤インプラントの固定不足による再治療

インプラントが顎の骨としっかり結合しないと、ぐらついたり固定されず、撤去や再治療が必要になることがあります。インプラントが固定するには「オッセオインテグレーション(インプラントと骨の結合)」が欠かせません。

結合が不十分になる原因としては、骨の量や質の不足、糖尿病・骨粗しょう症などの全身疾患、喫煙、手術の不備や過度な負荷などが挙げられます。骨が足りない場合には骨造成手術が必要になることもあります。

そのため、事前のCT検査で骨の状態を詳しく確認し、適切な治療計画を立てることが大切です。マイクロスコープ治療も、オッセオインテグレーションを早期に獲得するための重要なポイントです。

⑥想定外の追加費用や高額な治療費

インプラントは保険がきかない自由診療のため、治療費が高額になりやすい治療です。治療を受けたあとに「思っていたより費用がかさんだ」と感じることもあります。

こうした不満を避けるためには、治療前に次の点を確認しておきましょう。

  • 治療費の総額
  • 骨造成や抜歯など追加費用の有無
  • 保証制度の内容

費用の内訳を明確に説明し、納得できるまで相談に応じてくれる歯科医院を選ぶことが、安心して治療を受けるための大切なポイントです。治療の出戻りによる費用の増額を防げるよう、マイクロスコープ治療を受けることをおすすめします。

インプラント治療による後悔を防ぐための6つのポイント

インプラント治療による後悔を防ぐためのポイントは、以下の6つです。

①治療前にしっかりと検査を受ける

②歯科医師の経験・実績が豊富か確認する

③他の治療法と比較検討する

④費用総額・保証制度を事前に確認する

⑤治療後にしっかりとメンテナンスを行う

⑥マイクロスコープ精密治療で失敗リスクを限りなくゼロにする

①治療前にしっかりと検査を受ける

治療前にしっかりと検査を受け、ご自身の口の中の状態を正確に把握することが、インプラント治療の成功への第一歩です。特に重要なのが、歯科用CTによる3次元的な検査です。

レントゲン写真だけでは、骨の厚みや神経の位置関係を正確に把握できません。CT検査をせずに手術を行うと、神経を傷つけ麻痺が残ったり、血管を損傷したりするなどの重大な事故につながる危険があります。

インプラント治療を受ける前に、以下の検査項目があるかチェックしてください。

検査項目検査する理由
CT検査神経や太い血管の位置をミリ単位で把握し、手術の安全性を高めるため
歯周病検査インプラント周囲炎の原因になるため
噛み合わせの検査インプラントや他の歯に過度な負担がかかり、破損や脱落の原因となるため
全身疾患に関する問診糖尿病や骨粗しょう症などの持病は、治療結果に大きく影響を与えるため

これらの検査を丁寧に行い、綿密な治療計画を立てることが、インプラント治療の成功に不可欠です。

②歯科医師の経験・実績が豊富か確認する

インプラント治療を「やらなきゃよかった」と後悔しないためには、歯科医師の経験・実績が豊富かを確認することが大切です。

インプラントは、歯科医師の技術や知識で結果が大きく左右される専門性の高い治療です。経験豊富な歯科医師であれば、さまざまな症例に対応してきた実績があります。過去の経験にもとづき、万が一のトラブルにも的確に対処できる可能性が高いでしょう。

歯科医師の経験・実績を確認するための具体的なチェックポイントは、以下のとおりです。

チェックポイント理由
所属学会と専門資格日本口腔インプラント学会や日本歯周病学会などの専門医・指導医の資格は、知識と技術の一つの指標になる
公式サイトの症例数や写真どのような症例を扱ってきたか、治療前後の写真が豊富に掲載されているかで確認できる
カウンセリングでの説明専門用語を避け、わかりやすい言葉で丁寧に時間をかけて説明してくれるかが、患者に寄り添った医師かの判断指標の一つになる
治療設備の充実度安全・精密な治療に不可欠な歯科用CTや、後述するマイクロスコープなどの設備が整っているほど、高度な治療ができる

特に、歯周病が進行していたり、噛み合わせが大きく乱れていたりするような複雑なケースでは、高度な技術が求められます。幅広い知識と経験を持つ歯科医師を選ぶことが、満足のいく治療結果につながります。

③他の治療法と比較検討する

失った歯を補う方法にはブリッジや入れ歯などもあるため、後悔を防ぐにはインプラントと比較検討することも重要です。ご自身の口の状態やライフスタイル、価値観に合った治療法を選択しましょう。

それぞれの治療法のメリット・デメリットを、以下の表にまとめました。

治療法メリットデメリット
インプラント・自分の歯のように自然に噛める
・見た目が美しい
・周りの健康な歯を削らない
・顎の骨が痩せるのを防ぐ
・治療期間が長い
・外科手術が必要である
・費用が高額である(自費診療
ブリッジ・固定式で違和感が少ない
・治療期間が比較的短い
・保険が適用される場合がある
・両隣の健康な歯を削る必要がある
・支える歯に負担がかかり、将来的に失うリスクがある
・清掃しにくく、虫歯や歯周病になりやすい
入れ歯・健康な歯をほとんど削らない
・比較的安価(保険適用)
・取り外して清掃できる
・違和感や異物感が出やすい
・噛む力が天然歯より落ちる
・留め具が見えることがある
・顎の骨が痩せる原因になる

それぞれの治療法の特徴を正しく理解したうえで、歯科医師とよく相談しましょう。ご自身にとって最も納得のいく治療法を選ぶことが重要です。

④費用総額・保証制度を事前に確認する

金銭的な後悔をしないために、インプラント治療開始前に費用総額と保証制度を確認しましょう。インプラントは基本的に自由診療のため、費用が高額になりがちです。

費用・保証制度に関して確認すべき内容は、以下のとおりです。

  • 提示された金額に含まれる範囲はどこまでか?
  • 追加費用の可能性はあるか?
  • 支払い方法にはどのような選択肢があるか?
  • 保証制度の有無と内容は?
  • 保証が適用されない条件は何か?

クリニックごとに費用や保証制度が異なるので、治療前に確認してください。

⑤治療後にしっかりとメンテナンスを行う

治療後にしっかりとメンテナンスを行うことも、インプラントで後悔しないためのポイントです。

インプラントは、治療が終わったら完了ではありません。長い間快適に使い続けるためには、治療後の定期的なメンテナンスが必要です。メンテナンスを怠り、インプラント周囲炎になると、最悪の場合はインプラントが抜け落ちる恐れもあります。

インプラント治療後に行うべきメンテナンス方法には、主に以下の2つがあります。

メンテナンス方法内容
プロフェッショナルケア(定期検診)歯科医院でインプラントや骨の状態や噛み合わせの確認、自分では落としきれない汚れの除去をしてもらう
セルフケア(日々の歯磨き)歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやタフトブラシ(毛先がつにまとまった小さなブラシ)などを使い、インプラントの周りを丁寧に清掃する

どんなに優れた材料を用いても、日々の丁寧なケアがなければ効果を維持できません。

定期検診は、3〜6か月に1回程度受けてください。定期検診だけに頼らず、自宅で毎日丁寧にケアすることも大切です。

⑥マイクロスコープ精密治療で失敗リスクを限りなくゼロにする

インプラントで後悔しないためには、肉眼の最大20倍以上で患部を拡大できるマイクロスコープでの治療が重要です。これまで挙げた後悔の理由の多くは、実は「人間の目の限界」に起因しているためです。

マイクロスコープ精密治療のメリットを以下の表にまとめました。

メリット具体的な内容
神経麻痺のリスクを低減神経や血管の位置を立体的に把握できるCTでの診断に加え、マイクロスコープで実際に見ながら手術を行うことで、神経損傷のリスクを回避する
見た目の後悔を防ぐ歯茎のライン形成や、インプラントと人工歯の連結部の仕上げをミクロン単位で行うことで、天然歯と見分けがつかないほどの自然で美しい仕上がりを実現する
細菌感染・脱落を防ぐマイクロスコープによる精密な処置は、骨へのダメージを抑え、インプラントと骨の結合を促進する。人工歯との間に細菌が侵入する隙間も作らないため、インプラント周囲炎のリスクを低減できる(※2)

インプラントで絶対に後悔したくないと考えるなら、「マイクロスコープを用いた精密治療」を行なっているかは、歯科医院選びの重要な基準の一つといえます。

インプラントで後悔した場合の主な対処法

インプラント治療後に問題が発生して後悔した場合は、落ち着いて現状を改善するための方法を探すことが大切です。主な対処法には、「①通院中のクリニックに相談する方法」と「②別の専門家の意見を聞く方法」があります。ご自身の状況に合わせ、納得できる次の一歩を踏み出しましょう。

①通院中のクリニックで再治療や修正を相談する

インプラントに問題が起きたときは、まず担当の歯科医師に相談することが大切です。担当医はCT画像や手術記録、使用したインプラントの種類などのデータを持っているため、原因を把握しやすいからです。

相談するときは、今出ている症状や改善してほしい点、そして治療や今後に関して不安に思うことを整理して伝えるとスムーズです。炎症であれば専門的な清掃や外科処置が必要になることもありますし、見た目や噛み合わせの問題なら人工歯の調整や作り直しで改善できる場合もあります。

悩みや不安を率直に伝えることで、歯科医師も状況を正しく理解し、適切な対応や再治療を検討しやすくなります。気になることは遠慮せずに相談することが、解決につながります。

②セカンドオピニオンで他院の歯科医師に相談する

担当医に相談しても説明に納得できなかったり、提案された再治療に不安を感じたりする場合には、セカンドオピニオンを検討してみるのもよい方法です。

セカンドオピニオンとは、別の専門医から客観的な意見を聞くことで、今後の治療についてより広い視点で判断できるようにするものです。担当医を疑う行為ではなく、自分が納得して治療を進めるための前向きな選択といえます。

セカンドオピニオンには、以下のようなメリットがあります。

  • 今の状態を第三者の目で確かめてもらえる
  • これまでとは違う治療の選択肢に気付ける
  • 治療に対してより安心して向き合える

セカンドオピニオンを希望する場合、現在の担当医に紹介状やレントゲン、CTなどの資料を提供してもらうのが一般的です。別の専門家の意見を聞くことは、より良い治療の選択肢となる可能性があります。

まとめ

インプラント治療でやらなきゃよかったと後悔しないためには、治療前の準備が何よりも大切です。後悔の多くは信頼できる歯科医師選びや精密な検査、他の治療法との比較検討、費用や保証の十分な確認などの事前の情報収集と納得によって防げます。

インプラントは治療が終わったら完了ではありません。大切な歯を長持ちさせるためには、治療後の丁寧なセルフケアと定期的なメンテナンスが不可欠です。

この記事を読んで、インプラント治療への不安がさらに増してしまったかもしれません。しかし、大切なのは、治療後の後悔の多くは「事前の準備と正しい歯科医院選び」で防げることです。一人で悩まず、まずは信頼できる専門家に相談することから始めてみてください。


参考文献

  1. Lisa J A Heitz-Mayfield.Peri-implant mucositis and peri-implantitis: key features and differences.British Dental Journal,2024,236,10,p.791-794.
  2. Chiang Y-C, Sirinirund B, Rodriguez A, Velasquez D, Chan H-L.Operating microscope-assisted reconstructive strategy for peri-implantitis: A case series report.Clin Adv Periodontics,2024,14(3),149-156.