「根管治療」とは、深い虫歯になった歯の神経や根っこの感染を除去し、天然の歯を残すための治療法です。
保険診療の場合は数千円からと費用を抑えられますが、治療内容には制限があります。一方で自由診療は費用はかかるものの、高精度な設備や材料で歯の寿命を左右する成功率を大きく高めることができます。
今回は保険診療と自由診療の費用と成功率の違いを比較し、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
症状や予算、ライフスタイルに合わせて選択するための参考にしてください。
根管治療とは?

虫歯が歯の神経まで到達したときや、外傷によって神経が感染したときに行う治療を「根管治療」といいます。歯科医院では「歯の根っこの治療」と説明されることもあります。
治療方法は主に2種類あります。ひとつは「抜髄(ばつずい)」です。
歯髄(しずい)と呼ばれる歯の内部にある神経や血管などを取り除き、再感染を防ぐためにゴム状の材料で歯の内部(根管内)を完全にふさぎます。
ふたつめは「感染根管治療」と呼ばれ、再感染や症状の悪化などによって歯の神経が死んでしまったときに行います。
神経は死んでしまうと免疫力を失い、有害な細菌を抑えられなくなります。そのため治療を進めても効果が出にくく、抜髄よりも治療に時間やコストがかかる場合があります。
根管治療の費用と成功率のちがい

根管治療は、健康保険が適用される保険診療だけでなく、精密な治療を行う自由診療(自費診療)を選択するという方法もあります。
費用と成功率のちがいは以下の表をご覧ください。
【根管治療の費用の目安と成功率】
保険診療 | 自由診療 | |
前歯の治療費 | 3,000円 | 50,000~100,000円 |
奥歯の治療費 | 5,000~7,000円 | 100,000~150,000円 |
治療の成功率 | 30~50%程度 | 90%以上 |
治療費や成功率は目安であり、実際の症状や処置によって異なります。
保険診療の根管治療の特徴
保険診療を選択する場合、自己負担額は1~3割となり、根管治療の費用を抑えることが可能です。
ただし、1回の治療時間は15~30分と決まっており、使える材料や設備にも制限があります。
自由診療と比べると治療回数(通院回数)が多くなることと、成功率が低い点がデメリットです。
なお、東京科学大学(旧:東京医科歯科大学)が2011年に公表した調査では、従来の保険治療での根管治療の成功率は30~50%でした。
自由診療の根管治療の特徴
自由診療の根管治療は、全額自己負担なので保険診療よりも費用が高くなりますが、成功率は90%以上と非常に高い水準です。
なぜなら、1回60~120分と治療時間を確保できるため、時間をかけた精密な処置が可能になるからです。
そのため治療回数(通院回数)が保険診療よりも少なくなります。
さらに、肉眼では取り残していた部分まで見える「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」や、治療中に唾液の侵入を防ぐ「ラバーダム」、高い抗菌性と封鎖性を持つ「MTAセメント」を使用することで、再発を防止し成功率を高めています。
根管治療の費用を安く抑える方法

「自分の歯を残したい」「歯を抜きたくない」と考えるのは当然ですが、治療費や通院費の負担を減らすことも重要ですよね。
しかしながら、ご自分の大切な歯を長く使うには、目先の安さだけで治療法や歯科医院を選択するべきではありません。
保険診療と自由診療のどちらを選択するとしても、根管治療の費用の負担を抑えることは可能なので、以下の4つの方法を参考にしてください。
早めに受診する
まずは早めの受診が不可欠です。虫歯や歯の痛みを放置して症状が悪化すれば、それだけ治療も複雑になり、保険診療だとしても費用がかさみます。
歯に違和感があれば、早急に歯科医院を受診しましょう。
また定期健診も長期的にみればコストの削減につながります。歯科医院で検診を受けることで、歯科医が異変に気付き早期に対処してくれるでしょう。
複数の歯科医院を比較する
根管治療の費用は、医院や地域によって異なります。特に自由診療の場合は、医師の専門性や高性能な設備が導入されているかなどによって大きく差が出ます。
可能な限り、複数の歯科医院の見積もりをとるのがおすすめです。費用と治療内容のバランスを検討しましょう。ただし、たとえ費用が安くても治療の質が下がるリスクがあるため、医師の実績や経験、専門性などもチェックする必要があります。
設備が整った歯科医院で治療を受ける
マイクロスコープやラバーダム、歯科用CTといった高性能な設備が整っている歯科医院では、より精密な治療が可能です。
根管治療は難しい治療のため再感染の可能性が高く、初回の処置が非常に重要です。
高度な設備で治療を受けることで初回の成功率を上げ、結果的に再発を防ぐ可能性が高まります。また、通院回数を減らせるので、交通費や通院時間といった間接的な節約にもつながります。
医療費控除を申請する
根管治療の費用を直接的に安く抑える方法ではありませんが、医療費控除の申請によって、税金の支払い額を抑えることが可能です。
医療費控除とは、年間の医療費の支払い額が10万円(総所得金額が200万円以下の方は所得の5%)を超えた場合、超過金額を所得から差し引くことができる税制度です。
確定申告が必要ですが、医療費控除により所得税や住民税が安くなります。
医療費控除の対象となる費用
「根管治療の費用(病院で実際に治療でかかった費用)」と「病院までの公共交通機関の交通費」が医療費控除の対象です。
また、医療費控除では、同一生計の家族の医療費も合算して申請が可能です。
同一生計とは、同居・別居は関係なく、生活費を共有している家族を指します。
医療費控除の計算方法について詳しくは、国税庁HPをご覧ください。
医療費控除の対象とならない費用
医療費控除の対象となるのは、実際にかかった治療費と公共交通機関の交通費のみです。
歯のホワイトニングなどの美容目的、症状がない場合の検査費用、予防を目的にした費用は医療費控除の対象にはなりません。
また、交通費について、自家用車を使用した場合のガソリン代・駐車場代は控除の対象外です。
ただし、バスや電車などの公共交通機関が利用できない場合、タクシー代は控除の対象となります。