【医師監修】部分入れ歯の料金相場|保険と自費の違い・費用の目安を徹底解説

歯を失った際に「できるだけ費用を抑えたい」「見た目や使い心地にもこだわりたい」と思いませんか。保険診療であれば5千〜1.5万円程度で治療できますが、自費診療では100万円を超えることもあります。

保険診療と自費診療の金額の違いは、素材の良し悪しだけではありません。入れ歯の快適さや寿命、残された大切な歯の未来までも左右する治療の精度などが費用に反映されています。

この記事では、部分入れ歯の保険と自費の料金からメリット・デメリットを解説します。費用で失敗せず、快適で長持ちする入れ歯を実現するために正しい知識をつけていきましょう。

この記事を監修した医師

脇田奈々子
Wakita-Nanako

大阪大学歯学部卒業後、同大学予防歯科学教室にて医員として勤務。

現在は大阪市内の歯科医院で、予防歯科からインプラント、矯正治療まで幅広く対応している。治療の先の心のケアにもつながる“医療としての美容歯科”として、ボツリヌス治療、ヒアルロン酸注入、リップアートメイクにも注力している。
「口元の健康と美を通じて、最後まで美味しく食べ、自信を持って笑える人生」をサポートすることを理念としている。


保険適用の部分入れ歯の料金

保険適用が受けられる部分入れ歯は、どの歯科医院で治療を受けても、基本的な料金体系が同じになるよう国で定められています。しかし、口の状態により費用は変動し、患者さん全員が一律の金額ではありません。

保険適用の部分入れ歯の費用に関する以下の3つの要点を解説するので、参考にしてください。

  • 保険適用の入れ歯の種類
  • 本数や位置によって費用が変わる理由
  • 保険診療でかかる費用目安

保険で使える入れ歯の種類(レジン床)

保険診療で作製できる部分入れ歯は、レジン床義歯と呼ばれるタイプのみです。レジンとは、歯科治療で使われるプラスチック素材です。

レジン床義歯の構成や特徴を以下の表にまとめました。

部位部位の説明特徴
床(しょう)歯ぐきに接するピンク色の土台部分厚みがあり、装着初期に違和感を覚えることがある
人工歯失った歯を補う白い歯の部分長期間の使用で摩耗や変色が起こることがある
クラスプ入れ歯を固定する金属のバネ金属製で、位置によっては笑ったときに見えることがある
バー奥歯の入れ歯や両側とも歯がない場合に使う、上あごや下の歯茎の内側に沿うような金属の板金属製で違和感を覚えることがある

保険適用の入れ歯は素材に制限がありますが、多くの症例に対応可能で、費用も抑えられます。

本数・位置によって費用が変わる理由

本数・位置によって部分入れ歯の費用が変動するのは、以下の内容が原因です。

1.失った歯の本数に応じて入れ歯の規模が変わる

2.本数・位置によって設計工数が変わる

失った歯の本数が多いほど、入れ歯の規模も大きくなります。大きな入れ歯を使えば、使用する材料が増えるため費用も増大することが明白です。

部分入れ歯は、噛む力が偏らず、クラスプが安定するよう設計しなければなりません。本数や位置によって最適な設計が異なるため、設計にかかる時間が変動します。複雑な設計ほど時間がかかり、費用が増加するでしょう。

保険診療で実際にかかる費用目安

保険診療を受けた場合、窓口で支払う金額は治療総額に自己負担割合をかけたものです。

以下の表に、自己負担割合ごとの費用の目安をまとめました。

欠損した歯の本数自己負担割合が3割自己負担割合が1割
1〜3本約5,000~8,000円約1,700~2,700円
4〜8本約8,000~12,000円約2,700~4,000円
9本以上約12,000~15,000円約4,000~5,000円

上記の金額に加えて、初診料や再診料、検査費用、調整費用などは別途必要になります。

虫歯や歯周病の治療が必要な場合も、処置に伴う追加の費用がかかります。詳しい費用は、治療計画の説明時に、歯科医師へ確認しましょう。

自費診療の部分入れ歯の料金

自費診療の部分入れ歯の料金は、約30〜100万円が目安です。自費診療の部分入れ歯には以下の4種類があり、それぞれ特徴と費用が異なります。

①金属床義歯(きんぞくしょうぎし)

②ノンクラスプデンチャー

③コーヌスクローネ

④インプラントオーバーデンチャー

①金属床義歯

金属床義歯は、口腔内と接する床部分が金属でできている部分入れ歯です。以下のような特徴があります。

特徴内容
薄くて快適な装着感床を薄くでき、装着時の違和感や圧迫感が少ない
熱が伝わりやすい金属のため食べ物や飲み物の温度を感じられる
丈夫で長持ち金属であるため強度が高く、噛んでもたわみにくい

使用する金属は、コバルトクロムやチタンが主流です。特にチタンは軽く、金属アレルギーのリスクが低い素材です。費用の目安は約30~60万円ですが、使用する金属の種類や入れ歯の設計に応じて変動します。

②ノンクラスプデンチャー

ノンクラスプデンチャーは、金属バネのクラスプがない部分入れ歯であり、特殊な樹脂で固定するタイプです。金属バネがないため、口を開けても入れ歯が目立たず、つけたときの締め付け感もほとんどありません。金属アレルギーの方にも適用可能である特徴も持ちます。

ただし、ノンクラスプデンチャーは脆い樹脂でできており、金属床義歯よりも割れが発生する確率が高いです。入れ歯の大きさや設計によって変動があるものの、費用の目安は15〜40万円程度です。

③コーヌスクローネ義歯

コーヌスクローネ義歯は、土台となる歯に内冠を被せ、その上部に外冠を装着する二重構造の部分入れ歯です。二重構造にすることで内冠と外冠に高い摩擦力が発生し、固定できる仕組みになっています。

コーヌスクローネ義歯の特徴は、以下のとおりです。

  • 優れた安定性と固定力
  • 残った歯を守る
  • 金属バネがなく気づかれにくい

コーヌスクローネ義歯は高度な技術を要するため、費用相場は約80万円以上と高額です。しかし、残った歯を保護できることに加え、長期間の安定した使用が期待できます。5年間使用しても、患者さんの86%で合併症がないという研究結果も報告されています。(※1)

④インプラントオーバーデンチャー

インプラントオーバーデンチャーは、埋め込んだインプラントで部分入れ歯を固定する治療法です。以下の表に特徴をまとめました。

特徴内容
優れた安定性インプラントで入れ歯を固定するため、外れにくい
天然歯に近い咀嚼力噛む力が高く、患者さんの満足度も高い(※2)
顎の骨が痩せるのを防ぐインプラントが骨に刺激を与えるため、骨が痩せるのを防ぎ、顔の輪郭維持に役立つ(※3)

ただし、インプラントオーバーデンチャーは外科手術が必要です。治療期間は長くなりますが入れ歯の安定性は優れています。費用の目安は約100万円以上であり、埋め込むインプラントの本数や上部構造の種類で大きく異なります。

自費入れ歯の費用目安

自費診療の部分入れ歯の費用目安を、以下にまとめました。

種類費用の目安主な特徴
金属床義歯約30~60万円・薄くて丈夫
・熱が伝わりやすく食事が楽しめる
ノンクラスプデンチャー約15~40万円・金属のバネがない
・見た目が自然で目立たない
コーヌスクローネ義歯約80万円~・高い安定性
・残った歯を保護できる
インプラントオーバーデンチャー約100万円~・高い安定性
・外れる心配がほとんどない

上記の費用は目安です。自身の希望や予算に合わせ、歯科医師とよく相談しましょう。

なぜ保険診療より費用が高くなるのか(素材・技術・審美性)

自費の入れ歯が高額になるのには、3つの理由があります。

1つ目は、高品質な素材を使用しているためです。保険診療ではプラスチックしか選べませんが、自費診療ではチタンや特殊樹脂など、軽くて強い自然な素材を選べます。

2つ目は、高度な技術と精密な工程が必要である点です。口にフィットさせるために精密な型取りが求められ、専門的な技術料と多くの時間がかかります。

審美性へのこだわりが、自費診療の費用が高くなる3つ目の理由です。自費診療では、保険診療よりも天然歯のようにリアルな美しさも再現できる傾向があります。

保険適用の部分入れ歯のメリット・デメリット

保険適用の部分入れ歯に関するメリットとデメリットの両方を正しく理解し、治療後の満足度を高くしましょう。

メリット

保険適用の部分入れ歯のメリットは、以下のとおりです。

  • 費用が安い
  • 治療期間が短い
  • 修理・調整がしやすい
  • 外科手術が不要

保険適用の場合、自己負担額は1〜3割となるため安い料金で治療を受けられます。工程が標準化されており、型取り〜入れ歯完成まで約1か月しかかかりません。

保険適用の部分入れ歯は多くの歯科医院で対応可能であり、修理・調整がしやすいです。インプラントのような外科処置が不要であり、持病のある方にも安心して使用いただけます。

デメリット

保険適用の部分入れ歯のデメリットを以下の表にまとめました。

デメリット具体的な内容
見た目の美しさ・歯に固定する金属のバネが目立つことがある
・前歯付近にあると、話したり笑ったりしたときに見えやすい
装着感・違和感・土台の厚みが口の中の違和感や、発音のしにくさにつながる
・食べ物の温度を感じにくく、食事の楽しみが減る可能性がある
低い耐久性・強い力で割れることがある
・数年ごとの作り替えが必要である
残っている歯への影響入れ歯を支える金属のバネは、残った歯に負担をかけ続ける

上記のデメリットも理解したうえで、口全体の健康を長期的に維持するための方法を歯科医師と相談しましょう。

自費診療の部分入れ歯のメリット・デメリット

自費診療の部分入れ歯のメリット・デメリットも解説します。

メリット

自費診療の部分入れ歯のメリットは、以下の表のとおりです。

メリット具体的な内容
見た目の美しさ・金属のバネがない治療法を選べる
・自然な口元の再現が期待できる
・天然歯に近い色や透明感を持つ人工歯の素材を使える
つけ心地と機能性・土台を薄く作れ、装着時の違和感が少ない
・発音がしやすく、食べ物の温度も感じやすい
・硬い食べ物でもしっかり噛める
残った歯を守る設計残っている歯への負担が少なく、保護する治療法もある
優れた耐久性と衛生面・丈夫な素材(チタンなど)を選べる
・長期間にわたって快適に使用できる
・汚れがつきにくく、清潔な状態を保ちやすい

自費診療では、バネの形や位置、土台の硬さなどを最適化でき、残った歯への負担を抑える設計が可能になります。

デメリット

自費診療の部分入れ歯のデメリットは、治療費が全額自己負担で高額であり、治療期間が長い傾向がある点です。部分入れ歯の製作に精密な工程が必要なため、完成までに時間がかかります。事前に、治療スケジュールや通院回数を歯科医師に確認しておくことが大切です。

費用や治療期間の観点だけでなく、修理や調整が複雑であることも自費診療のデメリットです。複雑な構造となっているため、破損した際の修理が難しいことが多く、修理できた場合でも高額になります。

自費診療の入れ歯は、患者さん一人ひとりに合わせて作られた精密な装置です。長期的に快適な状態を維持するためには、定期的な検診と調整が必要です。

治療精度によって費用は大きく変わる

部分入れ歯の費用は、治療の精度によって大きく変動します。治療精度に関わる内容は、以下の3つです。

①マイクロスコープを活かした精密な診断と型取り

②適合調整で入れ歯の長持ちが変わる

③支台歯のケアが将来の費用を左右する

①マイクロスコープを活かした精密な診断と型取り

入れ歯の治療精度を高めるには、残っている歯や歯ぐきの状態を正確に把握し、適切に型を採ることが欠かせません。マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)は、肉眼では見逃しやすい小さな虫歯や歯ぐきの炎症、支台歯の状態などを確認するのに役立ちます。これにより、型取り前の状態をより正確に診断でき、支台歯や歯ぐきの微妙な凹凸を考慮した精密な型取りが可能になります。

また、入れ歯の適合性を左右するのは、型取りの精度や使用する材料の品質です。個人トレーやオーダーメイドの型を用いることで、より正確な適合を実現し、装着後の違和感やズレを軽減できます。

②適合調整で入れ歯の長持ちが変わる

入れ歯は完成して終わりではなく、違和感や痛みを解消する調整(適合調整)が治療精度の向上に重要です。適合調整を行うことで、入れ歯の快適性と寿命が大きく変わります。

調整で重要なことは、噛んだときの力のバランスであり、主に以下の内容を調整します。

  • 噛み合わせの調整
  • 歯ぐきと接触面の調整
  • バネの調整

特定の歯に強い力がかからないよう、全体の高さをミクロン単位で調整し、歯や顎への負担を分散させます。歯ぐきと入れ歯との接触面は、入れ歯が歯ぐきに当たる部分を少しずつ削って滑らかにすることが大切です。入れ歯を支えるバネの強さは、快適な維持力を確保できるよう調整します。

適合調整の際に、マイクロスコープを活用する歯科医院もあります。患部を拡大しながら治療できるマイクロスコープを活用すれば、より精密な調整が可能です。(※4)

③支台歯のケアが将来の費用を左右する

部分入れ歯の寿命は、土台となる支台歯(しだいし)の健康に依存するため、将来の費用にも影響します。支台歯が虫歯や歯周病になると、入れ歯の作り直しが必要になり、再び高額な費用と長い治療時間がかかってしまいます。

支台歯を守るために行うべきケア項目を以下の表にまとめました。

ケア項目内容
バネ周辺の清掃バネの周りは汚れが溜まりやすいので、歯間ブラシやタフトブラシを使って丁寧に磨く
入れ歯本体を清潔に保つ
入れ歯に付着した細菌が支台歯に悪影響を及ぼすので、毎食後に専用ブラシで清掃し、就寝前はマウスウォッシュを使用する
定期的な歯科検診プロの清掃や噛み合わせチェックを定期的に受ける

大切な歯を守る日々のケアと定期メンテナンスが、将来の費用を抑えます。

費用負担を抑えるためにできること

費用負担を抑える方法は、以下の3つです。

①医療費控除の活用

②デンタルローン・クレジットカード払いの利用

③メンテナンスで再治療費を防ぐ

①医療費控除を活用する

部分入れ歯の費用負担を抑えられる方法の一つが、医療費控除の活用です。自費診療の入れ歯も、機能回復のための医療行為として認められており、医療費控除を利用できます。

医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)の医療費が高額になった場合に利用できる制度です。支払った医療費の合計が10万円(または総所得金額の5%)を超えた場合に、確定申告をすると納めた税金の一部が戻ってきます。

医療費控除で対象となるのは、自費・保険診療を問わず、入れ歯の作製や治療にかかった費用です。通院のための公共交通機関の交通費も含まれます。

ご自身の治療費だけでなく、生計をともにするご家族の医療費も、まとめて申告できます。歯科医院から受け取る領収書は、確定申告時に提出不要ですが、自宅で5年間保管する義務があるため、大切にまとめておきましょう。

②デンタルローン・クレジットカード払い

デンタルローンやクレジットカード払いを活用することで、月々の費用負担を抑えながら、希望する質の高い治療を受けることが可能です。

多くの歯科医院では、以下の支払い方法に対応しています。

支払い方法特徴メリット注意点
デンタルローン歯科治療専用のローンで、分割で返済する・一般のカードローンより金利が低め
・返済計画を立てやすい
審査が必要
クレジットカード払い通常のカード決済と同じ方法・手続きが簡単
・ポイントが貯まる場合もある
・分割やリボ払いでは手数料がかかる
・利用限度額がある

どちらの方法が適しているかは、治療費の総額やご自身の経済状況で異なります。歯科医師やスタッフに、遠慮なく相談してみてください。

③メンテナンスの徹底で再治療費を防ぐ

一度作った部分入れ歯をメンテナンスし続けることで、将来の作り直しを防ぎ、費用負担を抑えられます。日本歯科衛生士会が推奨する長持ちさせるためのケアを以下にまとめました。(※5)

ケアの種類内容・ポイント
自宅でのセルフケア・毎食後に入れ歯を外してブラシで清掃
・支台歯の周囲は歯間ブラシで丁寧に磨く
・就寝時は洗浄剤に浸して細菌繁殖を防ぐ
歯科医院でのケア・噛み合わせや入れ歯の適合を微調整
・バネの緩みを確認し、専門器具で徹底クリーニング

大切な歯と精密な入れ歯を守るため、自宅でのセルフケアに加えて歯科医院での定期検診を受けましょう。

まとめ

保険診療の部分入れ歯は費用を抑えられる大きなメリットがありますが、見た目や装着感には限界があります。一方で、自費診療の入れ歯は高額であるものの、見た目の美しさや快適性、残った大切な歯を守るための精密な設計が可能です。

部分入れ歯を選ぶ際は、目先の費用だけで判断しないことが重要です。自身の生活スタイルに合った入れ歯を選択することで、長期的な視点でお口全体の健康を守れるかを考えられます。

まずは信頼できる歯科医師に相談し、ご自身の希望や不安な点をしっかり伝えてみましょう。費用面で不安がある方でも、医療費控除や分割払いなどを活用して費用負担を減らす選択肢もあります。納得のいく治療法を見つけて、快適な毎日を取り戻してください。


参考文献

  1. Klotz AL, Hagspiel S, Büsch C, Zenthöfer S, Rammelsberg P, Zenthöfer A.Mid-term survival and complications of double-crown-retained removable dental prostheses placed in the dental practice – a retrospective study.Clin Oral Investig,2024,29(1),p.26.
  2. Avukat EN, Akay C, Mumcu E.Evaluation of bite force, quality of life, and patients’ satisfaction in elderly edentulous patients using implant overdentures.J Adv Prosthodont,2023,15(4),p.214-226.
  3. Elawady D, Adam MA, Allam H, Mahmoud II, Alqutaibi AY, Shon AA.Single Implant-Retained Mandibular Overdentures: A Literature Review.Cureus,2024,16(1),p.e52486.
  4. Wang P, Zhang L, Chen C, Yu Q.Impact of dental operative microscopes on precision in minimally invasive dental restoration procedures.Am J Transl Res,2024,16(8),p.3907-3914.
  5. 公益社団法人 日本歯科衛生士会:「部分(床)義歯を長持ちさせるための取り扱い・管理ポイント」.