【医師監修】根管治療か抜歯かどっちを選ぶ?それぞれの特徴を徹底比較

歯科医師から、根管治療するか抜歯するかを尋ねられ、迷っていませんか。ご自身の歯を1本でも多く残せるかどうかの大切な決断です。

歯を残すための根管治療の成功率は、マイクロスコープなどを用いた精密治療によって90%以上に高まるデータもあります。(※1)抜歯を選ぶと、治療法によっては高額な費用がかかる場合もあります。

この記事では、治療期間・費用・成功率・将来のリスクなどを比較し、後悔しない選択をするための判断基準を解説します。ご自身の歯の未来を決めるために、正しい知識を身につけていきましょう。

この記事を監修した医師

脇田奈々子
Wakita-Nanako

大阪大学歯学部卒業後、同大学予防歯科学教室にて医員として勤務。

現在は大阪市内の歯科医院で、予防歯科からインプラント、矯正治療まで幅広く対応している。治療の先の心のケアにもつながる“医療としての美容歯科”として、ボツリヌス治療、ヒアルロン酸注入、リップアートメイクにも注力している。
「口元の健康と美を通じて、最後まで美味しく食べ、自信を持って笑える人生」をサポートすることを理念としている。


根管治療と抜歯の選び方|判断前に知っておくべき4つのポイント

根管治療は「自分の歯を残す」ための治療です。抜歯は、「残すことができない歯を取り除く」治療を指します。それぞれの治療がどのようなものか、全体像を理解して選ぶことが大切です。

以下では、根管治療と抜歯に関する知っておきたいポイントを4つ解説します。

  1. ①根管治療の内容と治療の流れ
  2. ②抜歯後の3つの治療選択肢
  3. ③根管治療と抜歯の適応条件と判断基準
  4. ④外科的歯内療法(歯根端切除術)という選択肢

①根管治療の内容と治療の流れ

根管治療は、重度のむし歯が歯の神経(歯髄)まで達した場合や、過去に治療した歯の根の先が再び感染した場合に行います。歯の内部には「根管(こんかん)」と呼ばれる、神経や血管が通る細く複雑な管があります。

根管の中に細菌が侵入すると、激しい痛みや歯ぐきの腫れなどのつらい症状を引き起こします。根管治療の目的は、感染源になった細菌や汚染物質を徹底的に取り除くことです。

根管治療の流れは以下のとおりです。

順番治療内容詳細
1.診断と麻酔・レントゲンやCTで歯の根の状態を精密に確認
・その後、治療中に痛みを感じないように局所麻酔を実施(明らかに神経が死んでいる場合は麻酔なし)
2.感染部分の除去・むし歯や古い詰め物などを削り取り、根管の入り口を探す
・治療の精度を高めるため、ラバーダムというゴムのシートで治療する歯を隔離し、唾液中の細菌が侵入するのを防ぐ(多くの場合、自由診療で使われる)
3.根管の洗浄・消毒・「ファイル」という専用の細い器具で、感染した神経や汚染物質を丁寧に掻き出す
・同時に、薬剤を使って根管の隅々まで洗浄・消毒
・この工程が治療の成否を分ける最も重要な部分
4.根管充填(こんかんじゅうてん)・根管内をきれいにした後、隙間を密閉
・「ガッタパーチャ」というゴムのような材料を使用
5.土台と被せ物・歯の強度を補うための土台(コア)を立て、その上から被せ物(クラウン)を装着
・噛む機能を回復させる

治療期間は歯の状態によって異なりますが、根管内を消毒する期間が必要なため、一般的に2〜4回程度の通院が必要です。

②抜歯後の3つの治療選択肢

抜歯した場合、失った歯の機能を補う治療が必要です。歯がない状態を放置すると、隣の歯が倒れ込んできたり、噛み合う相手の歯が伸びてきたりして、全体の噛み合わせが崩れる原因となります。

抜歯後の治療には、主に以下の3つの選択肢があります。

治療法特徴見た目の自然さ耐用年数の目安
インプラント・顎の骨に人工歯根を埋め込む
・自分の歯のようにしっかり噛める
・周りの歯に負担をかけない
◎:天然歯に最も近く美しい10年以上
ブリッジ・両隣の健康な歯を削り、橋渡しのように人工歯を固定する
・比較的、治療期間が短い
〇:保険の場合は金属が見えることがある(自費なら自然な見た目にできる)7〜8年程度
入れ歯・取り外し式の装置
・周囲の歯にバネをかけて固定する
・手術が不要で体への負担が少ない
△:金属のバネが見えることがある(自費なら目立たないタイプも選択可能)4〜5年程度

これらの治療法には、それぞれメリットとデメリットが存在します。費用はもちろん、治療期間、噛み心地、見た目の自然さなどを考慮し、ご自身のライフスタイルに合った方法を選びましょう。

③根管治療と抜歯の適応条件・判断基準

根管治療と抜歯、どちらの治療法を選ぶかは、主に以下の基準をもとに総合的に判断します。

治療法選択される主なケース
根管治療・歯の根が十分に丈夫な場合
・歯のヒビや割れが軽度な場合
・歯を支える骨が十分に残っている場合
抜歯・歯が縦に割れている(歯根破折)
・むし歯が歯ぐきの下深くまで進行している
・歯周病が重度で歯がグラグラな場合
・根の先の病巣が大きすぎる場合

最終的な治療法の判断は、歯やその周りの組織の状態を歯科医師が正確に評価したうえで行われます。

④外科的歯内療法(歯根端切除術)という選択肢

通常の根管治療や再治療で症状が改善しない場合に検討されるのが外科的歯内療法(歯根端切除術)です。歯根の先端に外科的にアプローチし、感染源を除去したり根管を封鎖したりすることで歯を保存できます。

【外科的歯内療法の流れ】

  1. 1.局所麻酔をして歯肉を切開する
  2. 2.歯根の先端が見えるように、少し骨を削る
  3. 3.歯の根の先端にある感染源を除去する
  4. 4.防腐剤や封鎖材を充填して、再感染を防ぐ
  5. 5.歯肉を元に戻して縫合する

歯をできるだけ残したいと考える方は、抜歯の前に外科的歯内療法を検討してみるのもいいでしょう。

根管治療と抜歯の選択で迷った時のチェックポイント5つ

根管治療と抜歯のどちらを選択するのか、迷った時に確認すべきポイントは以下の5つです。

  1. ①治療期間と通院回数
  2. ②保険適用と自費診療の違い
  3. ③治療中・治療後の痛みの程度
  4. ④成功率と再発リスク
  5. ⑤見た目(審美性)と食事のしやすさ

それぞれ特徴を正しく理解し、ご自身が「何を優先したいのか」を明確にしましょう。

①治療期間と通院回数

治療にかかる期間や歯医者に通う回数は、お仕事や日常生活にも影響するため、重要なポイントです。それぞれの治療法の通院回数と治療期間の目安は以下の表を参考にしてください。

項目根管治療抜歯(歯を抜くだけ)抜歯後(インプラント)
治療期間数週間~数か月1日~1週間3か月~1年程度
通院回数3~5回以上2回程度5回以上

根管治療は、歯の内部にある複雑な管を丁寧に清掃・消毒する精密な治療であり、複数回の通院が必要になるのが一般的です。

根管内の細菌を完全に取り除き、無菌的な状態にするには、一定の消毒期間が欠かせません。特に、根の形が曲がりくねっていたり、感染が根の外まで広がって膿が溜まっていたりすると、治療期間はさらに長くなる傾向があります。

抜歯は通常1回で完了し、翌日に傷の確認のため再診する程度です。ただし、歯を失った後は機能回復のための補綴治療が必要になり、方法によって全体の治療期間は大きく異なります。

特にインプラント治療は、顎の骨と人工歯根が結合するのを待つ期間があるため、全体の治療期間は根管治療よりも長くなることがあります。

②保険適用と自費診療の違い

治療費は保険適用と自費診療で大きく違いがあります。また、治療費は総額で比較するのが大切です。

根管治療には、保険が適用される治療と、より成功率を高めるための自費診療があります。費用の比較は以下の表のとおりです。

診療の種類金額の目安
保険適用約7,000~30,000円
自費診療約70,000~150,000円

自費診療の場合、マイクロスコープなどを用いて精密な治療を行います。治療費に加えてセラミックなどの質の高い被せ物の費用がプラスされます。

抜歯の場合、治療自体は保険適用で、3割負担の場合で数千円程度です。抜歯後の治療にかかる費用の目安は以下の表を参考にしてください。

抜歯後の治療法費用の目安(3割負担の保険適用)費用の目安(自費診療)
ブリッジ約20,000円~300,000円~
部分入れ歯約5,000~15,000円200,000円~
インプラント保険適用外300,000~500,000円(1本あたり)

このように、抜歯自体は安価でも、治療法によっては総額が根管治療よりも高額になることがあります。長期的な視点で費用を考えることが重要です。

③治療中・治療後の痛みの程度

2つの治療法の治療中・治療後の痛みや対処法を表にまとめました。

治療法治療中の痛み治療後の痛み対処法
根管治療治療前に必ず局所麻酔をするため、治療中に痛みを感じることはほとんどない・麻酔が切れると、痛みを感じることがある
・根管内を器具で清掃した刺激による一時的な炎症が原因
・通常、痛みは2〜3日で落ち着く
・噛んだ時に響くような痛みが1週間ほど続くこともある
・処方された鎮痛剤を服用する
・痛みが長引く、我慢できないほど強い場合は歯科医院へ連絡する
抜歯・局所麻酔をするため痛みはない
・歯を抜く際に押されたり、引っ張られたりする感覚がある
・麻酔が切れると、傷口に痛みが出る
・痛みのピークは抜歯当日〜翌日
・通常は2〜3日でおさまる
・場合によっては顔が腫れることもある
・処方された鎮痛剤や抗生物質を指示通りに服用する
・抜歯当日は、飲酒や激しい運動など、血行が良くなることは避けて安静に過ごす

④成功率と再発リスク

根管治療の目的は「歯を残す」ことですが、残念ながら100%成功するわけではありません。一次根管治療の成功率は68〜85%程度という報告があります。(※2)一次根管治療とは、その歯に対して初めて行う根管治療のことです。

根管治療後の再発とは、歯の根の中の細菌を完全に除去できなかった場合、数年後に再び根の先で細菌が繁殖し、膿んでしまうケースです。再発した場合は、再治療(再根管治療)が必要になります。再治療を繰り返しても改善しない場合は、最終的に抜歯となる可能性もあります。

抜歯は、問題のある歯を取り除くため、その歯の痛みが再発することはありません。 しかし、「歯を1本失う」こと自体が、お口全体の健康にとって以下のようなリスクを伴います。

  • 噛み合わせが崩れる
  • 周囲の歯への負担が増える
  • 顎の骨が痩せる

リスクを比較したうえで、治療方法を選択しましょう。

⑤見た目(審美性)と食事のしやすさ

治療後の口元の見た目や、これまで通りに食事を楽しめるかどうかも、日々の生活の質(QOL)を左右する大切な要素です。

見た目と食事のしやすさで比較した結果は、以下の表のとおりです。

治療法見た目の特徴食事のしやすさ
根管治療・時間とともに少しずつ黒っぽく変色する
・被せ物で色や形を整えることが可能
・自費診療のセラミックなどであれば自然な仕上がりになる
・自分の歯に近い感覚で噛める
・食べ物が挟まりやすい場合もある
抜歯(ブリッジ)・比較的自然
・保険適用の材料では、土台の歯との境目が見える場合もある
・麻酔が切れると、傷口に痛みが出る
・痛みのピークは抜歯当日〜翌日
・通常は2〜3日でおさまる
・場合によっては顔が腫れることもある
抜歯(入れ歯)・金属のバネが見える場合がある
・自費診療なら目立たないタイプも選択可能
・固いものや粘着性があるものが食べにくくなる
・違和感やズレが出やすい
抜歯(インプラント)・自然な仕上がり
・他の歯と見分けがつきにくい
・自分の歯とほぼ同じように噛める
・違和感が少ない

抜歯の場合は、歯を補う治療法によって見た目や食事のしやすさが大きく異なるので、理解してから治療法を選択しましょう。

後悔しない治療選択のためのポイント3つ

治療を選択するうえで知っておきたいポイントは以下の3つです。

  1. ①自分の歯を残すことの長期的メリット
  2. ②成功率を高める精密治療の活用
  3. ③納得するまで相談できる歯科医師の選び方

①自分の歯を残すことの長期的メリット

自分の歯を1本でも多く守ることには、想像以上に大きな価値があります。自分の歯を残すメリットとして、以下のことが挙げられます。

  • 歯根膜が残存するため繊細な食感を楽しめる
  • 周囲の健康な歯の寿命を守る
  • 顔の印象と全身の健康を支える

「歯を1本くらい抜いても、まだたくさんあるから平気」と考えず、1本1本を大切にしましょう。なるべく長い間、自分の歯で食事を楽しむ意識を持つことで、食の満足度や生活の質も向上します。

②成功率を高める精密治療の活用

マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)や歯科用CTなど、医療技術の進歩により、治療の成功率を大きく向上させることが可能です。

マイクロスコープとは、肉眼の最大20倍以上の視野を拡大できる顕微鏡です。感染源の取り残しを大きく減らし、治療の精度を高められます。

歯科用CTは、従来の平面的なレントゲンではわからなかった情報を、三次元(3D)で立体的に把握できる装置です。治療前に歯の根の正確な本数、複雑な形、骨の状態を把握できるため、精度の高い治療計画を立てることができます。

これらの精密機器を使った治療は、多くの場合、保険適用外の自費診療です。しかし、再治療を繰り返す身体的・時間的・経済的な負担や、抜歯に至る可能性を考えれば、歯の寿命を延ばす価値ある投資です。

③納得するまで相談できる歯科医師の選び方

最善の治療を選ぶためには、歯科医師の技術はもちろん、患者さんの気持ちに寄り添い、何でも相談できる信頼関係が不可欠です。

信頼できる歯医者を選ぶためのチェックリストは以下のとおりです。

  • レントゲンやCT画像を見せながら、現在の歯の状態をわかりやすく説明してくれるか
  • 治療のメリットだけでなく、デメリットやリスクも公平に説明してくれるか
  • 治療にかかる費用や期間の目安を、治療開始前に書面などで明確に提示してくれるか
  • 質問や不安に対して、時間を取って丁寧に答える姿勢があるか
  • 精密治療に必要なマイクロスコープやCTなどの設備が整っているか、またその使用実績は豊富か

上記のチェックリストはあくまで目安なので、参考程度にしましょう。今通っている歯科医院で「抜歯しかありません」と言われても、すぐに諦める必要はありません。

治療方針に少しでも疑問や不安を感じたら、「セカンドオピニオン」を活用しましょう。これは主治医を裏切る行為ではなく、ご自身が納得して治療を受けるための正当な権利です。

他の歯科医師の意見を聞くことで、治療法への理解が深まることもあります。また、根管治療で歯を残せる可能性が見つかるケースもあります。ご自身の大切な歯を守るために、納得できるまで情報を集め、信頼できる歯科医師に相談しましょう。

まとめ

根管治療と抜歯、どちらの治療法を選ぶべきか、悩ましい決断だと思います。大切なのは、目先の費用や期間だけでなく、「ご自身の歯を1本でも多く残す」長期的な視点を持つことです。

ご自身の歯には、食事の繊細な食感を味わうための大切な組織「歯根膜」があり、何にも代えがたい価値があります。最終的な判断は、歯科医師とよく相談することが大切です。

少しでも疑問や不安があれば、納得できるまで質問し、セカンドオピニオンも積極的に活用しましょう。後悔のない選択をするために、この記事が大切な歯と向き合うきっかけになれば幸いです。


参考文献

1.Zesis A, Lin S, Fuss Z.[Endodontic surgery (apicoectomy)–success rate of more than 90% using dental operating microscope and ultrasonic tips].Refuat Hapeh Vehashinayim (1993),2005,22,1,p.33-41,86.

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