【医師監修】「歯が痛いだけ」と思ってない?虫歯と全身疾患の関係・与える影響について解説

「歯が痛いけど、歯医者は嫌だな」「まだしみる程度だから大丈夫」と、虫歯の治療を後回しにしていませんか。

虫歯を放置すると、心臓病や脳卒中といった病気の原因になることがあります。虫歯は細菌が引き起こす感染症で、原因菌が血管に入り込み全身を巡ることで、炎症を引き起こす可能性があります。

この記事では、虫歯が全身に及ぼす意外な影響と、未来の健康を守るための対策について詳しく解説します。

この記事の監修歯科医師

谷川 淳一 副院長

歯科医師。日本口腔インプラント学会専修医。小児歯科治療や小児矯正、インプラント治療を得意とし、他の歯科医師への指導も行う。
患者様一人ひとりと真摯に向き合って治療方針を決めていくことを信条としている。


虫歯を放置し続けるリスク

虫歯が進行すると内部の神経に細菌が侵入し始めるため痛みが強くなります。治療も歯を削るだけではなく、歯の神経を取る処置が必要になることもあります。

虫歯を放置し続けると歯の大部分が溶かされ、最終的には歯を失う可能性があります。

しかし、リスクはそれだけにとどまりません。虫歯は、口の中に細菌が繁殖する「感染症」の一種です。実際、歯科の緊急事態につながる感染症のほとんどは、虫歯から始まると考えられています。

また、虫歯菌が歯の根から血管内に入り全身に運ばれ、心臓や脳など、体のさまざまな場所で炎症を引き起こすことがあります。重症化すると全身の健康に大きな影響を及ぼす恐れがあるため、早めの対処が大切です。

虫歯が引き起こす可能性のある全身疾患

虫歯は、口の中にいる細菌が全身を巡りさまざまな感染症を引き起こします。虫歯が引き起こす可能性がある主な全身疾患は、以下のとおりです。

  • 誤嚥性肺炎
  • 歯性感染症
  • 感染性心内膜炎
  • 脳卒中
  • 糖尿病

ここでは、それぞれの疾患につながるメカニズムや症状について、詳しく解説します。

誤嚥性肺炎

食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまうことを、誤嚥(ごえん)といいます。誤嚥性肺炎は、唾液に含まれる虫歯菌や歯周病菌が肺に入り込み、肺の中で細菌が繁殖し、炎症を起こす病気です。

誤嚥性肺炎のリスクが高い方の特徴は以下のとおりです。

  • 食事中によくむせる、せき込む
  • 口の中に食べ物が残りやすい
  • 合わない入れ歯を使っている
  • 唾液が少なく、口の中が乾燥しやすい

ご高齢の方や脳梗塞の後遺症がある方、寝たきりの方など、飲み込む力が弱くなっている方は気管に入るリスクが高まるため、注意が必要です。

歯性感染症

虫歯を放置して悪化させると、細菌は歯の神経を通り抜け、根の先や顎の骨にまで感染を広げ、歯性感染症を引き起こします。感染が広がると、歯ぐきや顔が大きく腫れたり、強い痛みが出たり、膿がたまったりします。

重症化すると、感染が皮膚の下で広範囲に広がる蜂窩織炎(ほうかしきえん)や、顎の骨自体が炎症を起こす顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)という状態につながる可能性もあります。

歯の痛みだけでなく、顔や首が赤く腫れてくる、口が開きにくい、ものを飲み込むときに痛むといった症状が出た場合、感染が広がっている恐れがあるため、我慢せず、歯科や口腔外科を受診しましょう。

感染性心内膜炎

虫歯は、心臓の病気まで引き起こすことがあります。虫歯の原因菌が、抜歯の傷口や出血している歯ぐきから血管内に入ることがあります。血流に乗って心臓まで運ばれ、心臓の内側を覆う膜や弁に付着することで、感染性心内膜炎という炎症を起こします。(※1)

感染性心内膜炎は、発熱や倦怠感など、風邪に似た症状から始まります。原因のはっきりしない発熱が続く場合は、感染性心内膜炎が疑われるため医療機関を受診することが推奨されています。症状が続くと、心不全など命に関わる状態につながることもあるため、注意が必要です。

心臓弁膜症など、心臓に持病がある方や過去に心臓の手術を受け人工弁を入れている方などは、感染性心内膜炎のリスクが高くなります。歯科治療を受ける際は、事前に心臓の病気の有無について歯科医師に伝えましょう。

脳卒中

虫歯の原因菌が血管内に入り、炎症を引き起こして血管を傷つけたり、もろくしたりすると、血管が破れて脳出血を引き起こすことがあります。また、血の塊(血栓)ができやすくなり、脳梗塞につながるリスクを高める可能性も考えられています。

また、初期の虫歯に比べ、進行した虫歯を有する人では、脳卒中リスクが高いことも報告されています。(※2)

糖尿病

糖尿病と虫歯は互いに悪影響を及ぼしあう関係にあります。

糖尿病により血糖値が高い状態が続くと、体の免疫力が低下し、細菌への抵抗力が弱まるため、虫歯が悪化しやすくなります。また、糖尿病は唾液の分泌量を減らすことがあり、口が乾燥して虫歯菌が繁殖しやすい環境ができやすいです。

一方、虫歯が悪化して歯の根の周囲に炎症(根尖性歯周炎)が起きたり、併発しやすい歯周病が進行したりすると、口の中の炎症物質が血液中を巡ります。これがインスリンの働きを妨げ、糖尿病を悪化させる一因になることがわかっています。

虫歯が全身疾患に及びやすい人

虫歯が全身疾患につながりやすいかは、年齢や基礎疾患など体の状態によって異なります。

特に注意が必要な人の特徴は、以下のとおりです。

  • 糖尿病や心疾患などの基礎疾患がある人
  • 高齢者や免疫力が低下している人
  • 妊娠中で身体の状態が変化している人

糖尿病や心疾患などの基礎疾患がある人

糖尿病や心臓病、高血圧などの基礎疾患がある人は、虫歯が全身に影響を及ぼすリスクがより高いと考えられています。

糖尿病の方は、血糖値が高い状態が続くことで体の免疫機能が低下しやすく、虫歯菌などの細菌に抵抗する力が弱まり、感染が広がりやすくなる傾向があります。また、口の中の炎症が血糖コントロールをさらに悪化させ、悪循環に陥ることもあります。

心臓に疾患がある人の場合、虫歯菌が血液の流れに乗って心臓に達し、感染性心内膜炎を引き起こすリスクがあります。

高齢者や免疫力が低下している人

年齢を重ねると、体の抵抗力が低下していきます。また、以下の項目に当てはまる方は、免疫力が低下しやすく注意が必要です。

  • 病気やがん治療、ステロイド薬・免疫抑制剤の使用などで免疫力が低下している方
  • 栄養状態があまり良くない方
  • 寝たきりの状態の方

がん治療や自己免疫疾患の治療などで免疫を抑える薬を使っている方は、細菌に対する防御力が低下します。免疫力が低下している状態では、虫歯菌が体内で広がりやすくなり、重症化する可能性があります。

妊娠中で身体の状態が変化している人

妊娠中は、女性ホルモンのバランスが変化し、特定の歯周病菌が増えやすくなったり、歯ぐきが腫れやすくなったりします。

つわりも虫歯のリスクを高める要因の一つです。吐き気で歯ブラシを口に入れるのが辛くなり、歯磨きが不十分になったり、一度にたくさん食べられず食事の回数が増えたりすることで、歯が溶けやすい環境が続き、虫歯が進行しやすくなります。

妊娠中の口のトラブルは、お母さんだけでなく、お腹の赤ちゃんに影響を及ぼす可能性も指摘されています。(※4)

歯科を受診する際は、必ず妊娠していることと妊娠週数を伝えましょう。一般的に、安定期が比較的治療を受けやすい時期とされています。安心して出産を迎えるために、無理のないタイミングで歯科受診で相談することが重要です。

全身疾患を防ぐためにできる虫歯対策

全身疾患を防ぐためにできる虫歯対策で大切なのは、以下の3つです。

1.虫歯を放置せず、進行段階に応じて治療する

2.定期的に歯科医院で管理する

3.日々のセルフケアで予防する

これらを実践することで、口の健康だけでなく、全身の健康を守ることにもつながります。具体的な対策を、一つずつ確認していきましょう。

虫歯を放置せず、進行段階に応じた治療を行う

虫歯は、早い段階で治療するほど、患者さんにとってのメリットがあります。削る量が少なくご自身の歯を多く残すことができ、歯の寿命を延ばすことにつながります。治療にかかる通院回数や1回あたりの治療期間が短くなり、費用を抑えることもできます。

虫歯は、自然に治ることはありません。放置すればするほど、歯の内部で静かに進行していきます。

歯にしみる感じがする、食べ物が詰まりやすい、歯に小さな黒い点があるといった症状があれば、放置せず治療しましょう。

定期的な歯科受診で虫歯を早期に発見・管理する

定期的に歯科医院で検診を受けることで虫歯を早期に発見し、進行を防ぐことができます。ほかにも、定期的な歯科受診には、以下のメリットがあります。

定期受診のメリット詳細
虫歯や歯周病の早期発見自分では気づけないような、初期の虫歯や歯ぐきの変化を見つけてもらえる
専門的なクリーニング毎日の歯磨きでは落としきれない歯石や、細菌の膜(バイオフィルム)を専門の機械で除去することができる
セルフケアの質の向上歯磨きの癖を指摘してもらえたり、自身の口の状態に合った最適なケア方法を教えてもらえる

口の状態によって適切な検診のペースは異なります。まずは一度受診し、ご自身に合った通院頻度を歯科医師や歯科衛生士と相談して決めることをお勧めします。

正しい歯磨きやフッ素活用で虫歯を予防する

虫歯を予防するための基本は、原因となる細菌の塊を毎日の歯磨きで取り除くことです。回数や時間も大切ですが、磨き残しをなくすことが重要になります。

自宅でできる予防法として、歯ブラシだけでなく補助用具を使うことをお勧めします。歯と歯の間や、歯と歯ぐきの境目は、歯ブラシの毛先が届きにくい場所です。デンタルフロスや歯間ブラシを毎日必ず併用し、歯垢のたまりやすい場所をきれいにしましょう。

フッ素を活用することも虫歯予防としてとても大切です。フッ素は、歯の質を強くし、虫歯菌の活動を抑える働きがあります。フッ素入りの歯磨き粉を選び、歯磨きのあとは大さじ1杯程度(約15ml)の少量の水で5秒間ほど1回だけ軽くゆすぐと、口の中にフッ素が長くとどまります。逆に何回もゆすいだりすると口の中にはフッ素が残らず効果は出にくくなるので、正しい方法をしっかりと習慣化させましょう。

まとめ

虫歯は、細菌が血流に乗って全身を巡り、心臓病や脳卒中、糖尿病の悪化など、全身の健康に深刻な影響を及ぼす恐れがありますが、日々の正しい歯磨きや、歯科医院での定期的な検診によって十分に防ぐことができます。

痛みなどの自覚症状がなくても、口の健康を歯科医師にチェックしてもらうことが大切です。気になることがあれば放置せず、まずは気軽に歯科医院へ相談してみましょう。


参考文献

  1. 一般社団法人 日本循環器学会:「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン
  2. Ono Y, Chou YC, Chien WC, Sun CA.Association between severity of dental caries and the risk of stroke.Oral Dis,2024,30(5),3413–3421.

NPO法人日本臨床歯周病学会:「歯周病と妊娠

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