鏡を見るたびに、ふと気になってしまう前歯の隙間。コンプレックスを感じている方も少なくないでしょう。
放置すれば、見た目の問題が深まるだけでなく、発音や虫歯、さらには口臭といった深刻なトラブルにつながる可能性も潜んでいます。
この記事では、前歯の隙間(すきっ歯)ができてしまう意外な原因から、歯科医院で受けられるご自身に合った治療法までを徹底解説します。ご自身の状況と照らし合わせ、自信のある笑顔を取り戻すための第一歩を踏み出しましょう。
目次
この記事を監修した医師

医療法人あかり会歯科
脇田奈々子
Wakita-Nanako
大阪大学歯学部卒業後、同大学予防歯科学教室にて医員として勤務。
現在は大阪市内の歯科医院で、予防歯科からインプラント、矯正治療まで幅広く対応している。治療の先の心のケアにもつながる“医療としての美容歯科”として、ボツリヌス治療、ヒアルロン酸注入、リップアートメイクにも注力している。
「口元の健康と美を通じて、最後まで美味しく食べ、自信を持って笑える人生」をサポートすることを理念としている。
前歯に隙間ができる原因

前歯に隙間ができる原因には、以下のようなものがあげられます。
①生まれつき歯と歯のサイズが合っていない
②歯が小さい・形が特殊(矮小歯など)
③舌癖や指しゃぶりなどの習慣
④歯並び・噛み合わせの問題(出っ歯・過蓋咬合)
⑤歯周病による歯の病的移動
⑥永久歯が生えてこない・欠損がある場合
それぞれの原因を詳しく解説します。
①生まれつき歯と歯のサイズが合っていない
歯が並ぶ顎の骨の大きさと歯の大きさのバランスが崩れると、歯の間に隙間ができやすくなります。これは遺伝的な要因が関与していることとされています。
例えば、顎の骨の形や大きさは標準的でも、歯そのものが全体的に小さいと余分なスペースが生まれ、空隙歯列と呼ばれる状態になりやすくなります。逆に、歯が標準的な大きさであっても、顎の骨が広く大きい場合にも同じことが起こります。
広い顎のアーチに歯が並ぶことで、自然と隙間ができてしまうのです。
②歯が小さい・形が特殊(矮小歯など)
お口全体のバランスは良くても、特定の歯の形や大きさが原因になることもあります。代表的なのは「矮小歯(わいしょうし)」という、生まれつき小さい歯です。
矮小歯は、特に前から2番目の歯(側切歯)によく見られます。隣り合う歯との間に隙間ができたり、歯並びが乱れたりする原因になります。
また、歯の形が円錐状など特殊な場合も、隣の歯とぴったり接することができません。
③舌癖や指しゃぶりなどの習慣
毎日の生活の中で無意識に行っている癖が、少しずつ歯を動かして隙間を作ることがあります。力が弱くても、毎日繰り返されることで歯並びに影響を与えてしまうのです。
例えば、舌で前歯を押す「舌突出癖」は、食べ物や唾を飲み込むときや話すときに舌先で前歯の裏側を押してしまうもので、この習慣があると前歯が前方に押し出され、隙間ができやすくなります。
また、指しゃぶりや唇・爪を噛む癖も同様に、前歯に力が加わり出っ歯や隙間の原因となります。特に骨がまだ柔らかい子どもの場合は、こうした癖の影響を受けやすいため注意が必要です。
④歯並び・噛み合わせの問題(出っ歯・過蓋咬合)
もともとの歯並びや噛み合わせが、前歯の隙間を悪化させていることもあります。
「出っ歯(上顎前突)」は、前歯が前方に傾いて生えている状態です。歯が並ぶアーチが外側に広がるため、歯と歯の間に隙間が生まれやすくなります。
また、「過蓋咬合(かがいこうごう)」という噛み合わせが深い状態も原因です。下の前歯が上の前歯の裏側に強く当たり、突き上げる力が継続的にかかります。この力によって、上の前歯が少しずつ外側に押し出され、隙間ができてしまいます。
⑤歯周病による歯の病的移動
大人になってから前歯の隙間が目立つようになった場合に、特に注意したいのが歯周病です。歯周病は、歯を支える歯茎や骨(歯槽骨)が細菌によって破壊される病気です。
土台である骨が溶けると、歯は安定を失いグラグラと動きやすくなります。特に前歯は、噛む力や唇の力で前方に倒れやすく、扇状に開いてしまいます。これを「フレアーアウト」と呼び、歯周病が原因で隙間ができる典型的な状態です。
⑥永久歯が生えてこない・欠損がある場合
本来生えてくるはずの永久歯が、生まれつきないことを「先天性欠如」といいます。歯の本数が足りないとスペースができ、周りの歯が倒れ込んで隙間が生じることがあります。
また、永久歯があっても骨の中に埋まったまま出てこられない「埋伏歯」も原因です。特に、左右の前歯の間に余分な歯が埋まっている「上顎正中過剰埋伏歯」は要注意です。この歯が邪魔をして、真ん中の前歯の隙間が閉じなくなってしまいます。
その他、上唇の裏側にある筋(上唇小帯)が歯の間に伸びている場合も、前歯がぴったりとくっつくのを妨げ、隙間の原因となることがあります。
前歯の隙間(すきっ歯)を放置するとどうなる?

「少しの隙間だから大丈夫」「治療するほどではないかな」と考える方もいるかもしれません。しかし、前歯の隙間(すきっ歯)は見た目の問題だけでなく、心身の健康にも関わることがあります。
放置することで、コンプレックスが深まったり、お口のトラブルにつながることもあります。ここでは、前歯の隙間がもたらす3つの具体的な影響について解説します。
見た目のコンプレックスになりやすい
前歯はお顔の印象を大きく左右するパーツであるため、隙間があると他人の視線が気になり、心理的な負担につながりやすくなります。ご自身では気にしていないつもりでも、無意識のうちに行動を制限していることがあります。
例えば、人と話すときについ口元を手で隠してしまったり、写真を撮るときに歯を見せて笑うことをためらったりすることがあります。食事の際に口元が気になって心から楽しめなかったり、初対面の人と会うのを少し億劫に感じてしまうこともあるでしょう。
こうした経験が積み重なることで、徐々に自信を失ってしまうことがあり、前歯の隙間という一見小さな悩みが、日々のコミュニケーションの質を下げる原因となるのです。
発音に影響が出ることがある
歯と歯の間に隙間があると、会話中にそこから空気が漏れてしまうことがあります。これにより、特定の音が正しく発音しにくくなる「発音障害」が起こる場合があります。特に、歯と舌を近づけて出す音(歯擦音)に影響が出やすく、さ行やた行が発音しづらくなります。
自分でははっきりと話しているつもりでも、息が抜けたような音になりがちです。相手に「え?」と聞き返されることが増え、会話に消極的になる原因にもなります。
食べかすや汚れがたまりやすい
歯と歯の間に隙間があると、食べ物の繊維などが挟まりやすくなります。
挟まった食べかすは口の中に潜む細菌の格好の餌となり、やがて歯垢(プラーク)がたまってさまざまなトラブルを引き起こします。歯と歯の間の虫歯は鏡で見ても気づきにくい場所で進行しやすく、痛みなどの症状が出る頃には神経の近くまで進んでいることも少なくありません。
また、歯垢によって歯茎に炎症が起こると歯周病が悪化し、歯を支える骨が溶けて歯が動き、隙間がさらに広がるという悪循環に陥ることもあります。
さらに、溜まった歯垢の中で細菌が繁殖すると、不快な臭いのガスが発生し、口臭の原因にもつながります。
前歯の隙間を自分で治すことはできる?
「歯科医院に通わず、手軽に治したい」と考える方もいらっしゃるかもしれません。実際に通販サイトなどでは、ご自身で歯の隙間を治すためのグッズが見られます。しかし、以下のようなリスクがあるため自分で治そうとするのはおすすめできません。
| リスク・問題点 | 詳細 |
| 歯並びや噛み合わせが悪化 | ・歯は三次元的に動くため、前歯だけを自己流で動かすと噛み合わせがずれる ・顎の痛みや頭痛、肩こりなど全身の不調につながる |
| 歯や歯ぐきのダメージ | ・強い力が加わり歯ぐきが下がる ・歯根が短くなる「歯根吸収」を起こす危険がある ・一度失われた骨や歯根は回復が難しい |
| 後戻りのリスク | ・舌の癖や歯周病など根本原因を解決しないままでは再発する ・隙間を閉じても元の状態に戻りやすい |
安全で確実な治療のためには、まず専門家による正確な診断が不可欠です。必ず歯科医院を受診し、ご自身の状態に合った適切な治療法について相談しましょう。
子供の前歯に隙間がある場合の対応
子供の前歯に隙間があっても、心配する必要はありません。前歯の隙間は、永久歯が生えるためのスペースであり、成長とともに多くの場合は自然となくなります。
ただし、永久歯に生え変わっても隙間が埋まらなかったり、歯並びが心配だったりする場合は歯科医院に相談してください。先天性の欠如などの病気が隠れているかもしれないので、専門家による適切な検査が必要です。
歯科でできる前歯の隙間の治療法

前歯の隙間に対する歯科治療には、以下があげられます。
①矯正治療(ワイヤー矯正・マウスピース矯正)
②ダイレクトボンディング(樹脂で隙間を埋める)
③ラミネートベニアやセラミッククラウン
④インプラントやブリッジ(歯が欠損している場合)
それぞれの方法に利点と注意点があります。ご自身の状況に合う治療法を見つけるため、一つずつ見ていきましょう。
①矯正治療(ワイヤー矯正・マウスピース矯正)
歯並び全体が原因で隙間がある場合に、根本的な解決を目指す治療法です。ご自身の歯を削ることなく、歯を動かして理想的な位置に並べ直します。見た目だけでなく、正しい噛み合わせになる点もメリットです。
| 矯正治療 | 方法 | メリット | デメリット |
| ワイヤー矯正 | 歯の表面に装置をつけ、ワイヤーの力で歯を少しずつ動かす方法 | 幅広い歯並びに対応でき、ミリ単位での精密な調整が可能 | ・装置が見えることが気になる方もいる ・適応が限られる |
| マウスピース矯正 | 透明なマウスピースを定期的に交換し、段階的に歯を動かす方法 | 取り外し可能なため食事や歯磨きがしやすく、見た目にも分かりにくい単位での精密な調整が可能 | 治療効果は装着時間に左右されるため、自己管理が重要 |
矯正治療の費用の目安は、部分矯正で30〜70万円、全体矯正で70〜150万円です。原則として保険適用されず、自費診療である点に注意してください。
治療には、数か月〜3年程度かかりますが、後戻りを防ぐ保定装置(リテーナー)を使えば、整った歯並びを長く維持できるという大きなメリットがあります。
②ダイレクトボンディング(樹脂で隙間を埋める)
比較的小さな隙間を、短期間で手軽に改善したい場合におすすめの方法です。コンポジットレジンという歯科用のプラスチックを歯に直接盛り付け、隙間を埋めながら歯の形を自然に整えます。
この治療には、健康な歯をほとんど削らずに済み、多くの場合は麻酔も不要で1日で完了できるといった利点があります。さらに、1本あたりの治療費が約2〜5万円(自費診療)であり、セラミック治療などと比べて費用を抑えられる点もメリットです。
一方で、プラスチック素材のため数年経つと変色しやすく、強い力で欠けたり外れたりする可能性があります。長期的に美しさを保つには、定期的なメンテナンスや再治療が必要となります。
肉眼の数倍〜数十倍に拡大した視野で処置できるデンタルマイクロスコープを使用すれば、精密な治療が可能です。プラスチックと歯の隙間を減らし、治療後の二次的な虫歯のリスクも低減できます。
③ラミネートベニアやセラミッククラウン
歯の形や色も同時に改善し、理想的な口元を目指したい方に適した治療法です。天然の歯に近い透明感と白さを持つセラミック材料を使います。変色しにくく、美しい状態を長く保てるのが特徴です。
| 治療法 | 方法 | メリット | デメリット |
| ラミネートベニア | ・歯の表面を約0.5mm削り、薄いセラミック板を貼り付ける | ・削る量が少なく、歯へのダメージを抑えやすい ・隙間や形を自然に整えられる | ・薄くて割れやすい ・適応部位が前歯のみ ・健康な歯の表面を削る必要がある |
| セラミッククラウン | ・歯を全体的に削り、セラミック製の冠を被せる | ・形や向きを大きく変えたい場合に有効 ・神経のない歯の色改善にも適している | ・薄くて割れやすい ・健康な歯を大きく削る必要がある |
これらの治療は健康な歯を削る必要がありますが、2週間〜1か月と短期間で見た目を大きく改善できるという利点があります。1本あたりの費用の目安は、ラミネートベニアが8〜18万円、セラミッククラウンが10〜20万円です。どちらの治療も自費診療である点に注意してください。
ラミネートベニアは、デンタルマイクロスコープを使う歯科医院での治療がおすすめです。デンタルマイクロスコープを使った施術は歯を削る量を抑えられ、ラミネートベニアと歯の境目の段差をなくせるので、見た目はもちろん、虫歯リスクも低減できるでしょう。
④インプラントやブリッジ(歯が欠損している場合)
事故や虫歯で歯を失ったり、生まれつき歯が足りなかったりすることが原因で、隙間ができている場合に用いられる治療法です。歯がないスペースを人工の歯で補い、機能と見た目を回復させます。
| 治療法 | 方法 | メリット | デメリット |
| インプラント | ・歯を失った部分の顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上に人工歯を装着する | ・周囲の健康な歯を削らない ・自分の歯に近い感覚で噛める ・見た目も自然 | ・外科手術が必要 ・治療期間が長い ・保険適用外で費用が高額 |
| ブリッジ | ・両隣の歯を削って土台にし、一体型の人工歯を被せて固定する | ・外科手術が不要 ・比較的短期間で治療が完了する | ・両隣の健康な歯を大きく削る ・材質によって金属が見えることがある ・汚れがたまりやすい |
まとめ
鏡を見るたびに気になってしまう前歯の隙間は、生まれつきの骨格や歯の形だけでなく、無意識の癖や歯周病が原因のこともあります。見た目のコンプレックスになるだけでなく、発音や虫歯、口臭のリスクにもつながりますが、自己流で治そうとするのはとても危険です。
治療法は、歯を動かす矯正治療から、材料を足して隙間を埋める方法、被せ物で形を整える方法まで多岐にわたります。まずは歯科医院で専門家による正確な診断を受け、ご自身の原因や希望に合った最適な治療法を見つけることが大切です。
以下に、ユーザーの希望別のおすすめ治療法をまとめたので、参考にしてください。
| ユーザーの希望 | おすすめの治療法 |
| 費用を抑えたい | ダイレクトボンディング |
| 短期間で直したい | ダイレクトボンディングやセラミック |
| 原因を根本的に治したい | 矯正治療 |
一人で悩まず、自信を持って笑える毎日への第一歩を踏み出してみましょう。
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