MTAセメント治療の費用はいくらかかるのか?保険適用と自由診療の違いを徹底解説

歯科医療の進歩により、従来なら抜歯しか選択肢がなかった歯も「MTAセメント治療」という方法で救える可能性が大きく広がっています。しかし、「MTAセメント治療はどのくらいの費用がかかるのだろう」とと思っていませんか?

本記事では、歯の神経を守り、歯の寿命を延ばすMTAセメント治療の保険適用の条件や自由診療との違いを解説します。自由診療の費用の抑え方や事前に知っておくべき重要ポイントも紹介するので、後悔しない治療選択の参考になるでしょう。


この記事を監修した医師

脇田奈々子
Wakita-Nanako

大阪大学歯学部卒業後、同大学予防歯科学教室にて医員として勤務。

現在は大阪市内の歯科医院で、予防歯科からインプラント、矯正治療まで幅広く対応している。治療の先の心のケアにもつながる“医療としての美容歯科”として、ボツリヌス治療、ヒアルロン酸注入、リップアートメイクにも注力している。
「口元の健康と美を通じて、最後まで美味しく食べ、自信を持って笑える人生」をサポートすることを理念としている。

MTAセメント治療の費用相場と決まる要因

MTAセメント治療の費用は、保険が適用されるか、自由診療となるかで大きく異なります。お口の中の状態や治療の難易度によっても変動するので、全ての患者さんで同じ金額にはなりません。

ここでは、①保険適用の条件と費用目安、②自由診療の費用相場とクリニック間の価格差を、一つひとつ丁寧に解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、納得して治療を選択するための判断材料にしてください。

①保険適用の条件と費用目安

MTAセメント治療は、全ての症例で保険が適用されるわけではありません。現在の保険制度で適用が認められているのは「直接覆髄(ちょくせつふくずい)」という治療法のみで、歯が以下の条件を満たす状態の必要があります。

  • 歯の神経が生きていること(生活歯髄)
  • 偶発的な神経の露出であること

直接覆髄は、虫歯治療の際に神経がわずかに露出してしまったものの、神経自体はまだ健康な状態を保っている場合に、MTAセメントで保護する処置です。

上記の条件を満たせば、前歯・奥歯を問わず保険が適用されて患者さんの自己負担額を抑えることが可能です。MTAセメントが適用される直接歯髄保護処置の診療報酬点数は、令和6年度で一歯あたり154点(※1)で、3割負担の方であれば462円となります。(令和6年時点)

ただし、診療報酬点数はMTAセメントの処置にかかる費用のみで、初診・再診料、レントゲン撮影、麻酔、治療後の詰め物や被せ物(補綴物)の費用が別途必要になる点にご注意ください。

保険診療には国が定めたルールがあり、使用できる材料や一人の患者さんにかけられる時間に制約があります。実際には保険ではほとんどMTAは使用されず、水酸化カルシウム系の材料を使用することが多いです。

より精密で時間をかけた治療を希望される場合は、後述する自由診療も検討してみましょう。

②自由診療の費用相場

より複雑な症例では、保険が適用されず、自由診療(自費診療)での対応となります。例えば、以下の表に示す治療法が自由診療に該当します。

治療法の名称内容
根管穿孔(こんかんせんこう)の封鎖過去の根管治療で歯の根に穴が開いてしまった場合に、その穴を塞ぐ処置
逆根管充填(ぎゃくこんかんじゅうてん)通常の根管治療では治らない根の先の病巣に対し、外科的に歯茎側からアプローチして根の先端を塞ぐ処置
断髄(だんずい)感染した神経の一部のみを取り除き、健康な神経を残す処置

自由診療の費用は国による一律の定めがなく、各クリニックが独自に設定しています。1歯あたり50,000~150,000円程度が自由診療の費用相場といわれていますが、実際は、土台(コア)や最終的な被せ物(クラウン)の費用が別途発生することが一般的です。

MTAセメントが高額になる理由

自由診療のMTAセメント治療が比較的高額になる理由として、①生体親和性の高い特殊な材料の使用と②高度な専門技術が必要な点があげられます。

①生体親和性の高い特殊な材料の使用

MTAセメントは、優れた封鎖性、殺菌性、そして身体とよくなじむ高い生体親和性を持つ特殊な歯科材料です(※2〜3)。これらの優れた性能を実現するため、開発や製造にコストがかかっており、一般的に使用されるセメントと比較して材料費が高価になります。

②高度な専門技術が必要

MTAセメント治療の費用が高くなる大きな理由が専門技術料です。MTAセメントは、粉と液体を精密な比率で練り合わせて使用しますが、操作が難しく、適切な硬さになるまでのタイミングの見極めが重要です。

特に、歯根の中のような暗くて狭い空間で処置を行うには、マイクロスコープを駆使して患部を20倍以上に拡大し、緻密な作業を行う必要があります。マイクロスコープ下での作業は、歯科医師の豊富な経験と熟練した技術が必要です。

MTAセメントの費用を抑える方法(医療費控除の活用)

自由診療で高額な費用がかかった場合でも、「医療費控除」という経済的な負担を軽減できる公的な制度があります。

医療費控除とは、1年間(その年の1月1日〜12月31日まで)に支払った医療費の合計額が一定の基準を超えた場合に、所得税や住民税の一部が還付される制度です。医療費控除を活用するためのポイントを以下の表にまとめました。

ポイント内容
対象となる金額原則として、年間に支払った医療費の合計が10万円(その年の総所得金額などが200万円未満の方は、総所得金額などの5%)を超えた場合に申請できます。
家族の分も合算可能自身の医療費だけでなく、生計を一つにする配偶者や親族のために支払った医療費もすべて合算して申告できます。
申請方法自身で確定申告を行う必要があり、会社の年末調整では手続きできません。
保管が必要なもの歯科医院が発行した領収書は、申請の際に必要となるため、大切に保管しておきましょう。通院にかかった交通費(公共交通機関)も対象になる場合があります。

MTAセメント治療費だけでなく、その年にかかった他の病気や怪我の治療費、薬代などもすべて合算できます。

歯科医院によってはデンタルローンやクレジットカードでの分割払いに対応している場合もあります。治療開始前に、支払い方法を一度相談してみることをお勧めします。

MTAセメント治療前に知っておくべき重要ポイント

MTAセメントの治療前に知っておくべき重要ポイントは以下のとおりです。

①治療期間と平均的な通院回数
②治療中・治療後の痛みの程度と持続期間
③治療後の食事制限や日常生活の注意点
④信頼できる歯科医院の選び方
⑤カウンセリングで確認すべき質問リスト

①治療期間と平均的な通院回数

MTAセメントを使った治療は、一般的に数回の通院で完結するのが特徴です。

初回はレントゲンやCTでの診査とカウンセリングを行い、2回目にラバーダム防湿下で感染部を取り除きMTAを充填します。その後、硬化の確認や症状の安定を確認するために再診が必要で、最終的に補綴物や修復物を装着して治療を終えます。

保険制度上のルールで、「生活歯髄に対して直接覆髄を行った場合、歯髄の生存を1か月以上確認したうえで補綴物を装着すること」と定められているため、少なくとも1か月以上かかります。自由診療の場合はそういった制約はないため、治療が早く終わるケースもあります。

歯の根の先の病巣が大きい場合や、外科的な処置を伴う複雑な症例では、これ以上に通院回数が増えることもあります。

②治療中・治療後の痛みの程度と持続期間

「MTAセメントではどのくらい痛むのだろうか」と気になるところですが、治療中は局所麻酔をしているため、痛みを感じることはほとんどありません。痛みを感じるようであれば、麻酔を追加することもあります。

麻酔が切れた後は、数日間程度、軽い痛みや違和感が出ることがあります。しかしこれは、治療の刺激に対する歯や周辺組織の正常な回復反応です。処方された痛み止めを服用しながら、様子を見ていきましょう。

痛みが続く期間の目安は、通常数日〜数週間程度で徐々に落ち着いていきます。

ただし、以下のような症状が現れた場合は、回復過程の痛みとは異なる可能性があります。

  • 痛みが日に日に強くなる
  • 処方された鎮痛剤が全く効かない
  • 歯茎が大きく腫れてきた
  • 噛むと激しい痛みがある

上記の症状を我慢せずに、すぐに治療を受けた歯科医院へ連絡してください。

③治療後の食事制限や日常生活の注意点

MTAセメント治療では、セメントが完全に硬化して歯の状態が安定するまでの間、食事に関して以下の点に注意してください。

注意点具体的な食べ物
硬いものを避けるナッツ・煎餅・氷など
刺激物を控える熱すぎるもの・冷たすぎるもの・香辛料の多い食事
粘着性の高い食品キャラメル・ガム、・お餅

食事だけでなく、ブラッシングや血行が良くなる行為(飲酒・入浴・サウナ)にも注意しましょう。

④信頼できる歯科医院の選び方

MTAセメント治療は、どの歯科医院でも同じ質で受けられるわけではありません。治療を成功に導くには、歯科医師の高度な技術と、それを支える充実した設備が必要です。

後悔のない治療のために、以下のチェックリストを参考に歯科医院を選びましょう。

チェック項目チェックのポイント
MTAセメント治療の実績が豊富か・MTAセメント治療の症例数や治療実績があるか。
・歯科医師が関連学会や研修会で専門知識を学び続けているか
精密な治療を行うための設備が整っているか・マイクロスコープがあるか
・ラバーダム防湿があるか
・歯科用CTがあるか
事前の説明が丁寧で分かりやすいか・デメリットやリスク、費用、代替案を説明してくれるか
・納得できる回答をしているか

⑤カウンセリングで確認すべき質問リスト

治療を受けるかどうかを最終的に決める前に、カウンセリングで疑問や不安をすべて解消しておくことが重要です。納得して治療に臨むための質問リストは、以下の表のとおりです。

内容具体的な質問
治療の適応と成功率・私のこの歯の状態に、MTAセメント治療は本当に最も良い選択肢でしょうか?
・この治療を行った場合、私の症例での成功率はどのくらいと予測されますか?
・もし治療がうまくいかなかった場合、どのような再治療が必要になりますか?その流れと費用も教えてください。
費用と支払い・今回の治療でかかる費用の総額の見積もりをいただけますか?(被せ物など全ての費用を含めてください)
・見積もり以外に、追加で費用が発生する可能性はありますか?
・自由診療の場合、費用の内訳(技術料、材料費など)を教えていただけますか?
・クレジットカードやデンタルローンでの分割払いは可能ですか?
治療計画とリスク・治療が終わるまでの具体的な通院回数と期間の目安を教えてください。
・この治療では、マイクロスコープやラバーダムは使用しますか?
・MTAセメント以外の治療法(根管治療や抜歯)を選んだ場合の長期的なメリットとデメリットも教えてください。

まとめ

MTAセメント治療は、これまでなら諦めていたかもしれない大切な歯を残せる可能性を秘めた方法です。費用は保険適用か自由診療かで大きく変わり、自由診療は高額に感じられるかもしれません。しかし、精密な設備と歯科医師の高い技術によって、歯の将来を長く守るためのものといえるでしょう。

大切なのは、ご自身が納得して治療を選ぶことです。まずは信頼できる歯科医院で相談し、ご自身の歯の状態や治療法、費用に関する説明を受けてみてください。

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