歯茎から膿が出る原因と治療法、注意点を解説

歯茎に膿が溜まることは、単なる口腔トラブルではなく、深部の感染を示す重要な警告信号かもしれません。

口臭の悪化、歯茎の白いできもの、歯が浮くような違和感、口内の異常な味など、見落としがちな初期症状にも注意が必要です。

早期発見と適切な処置が、痛みの軽減と歯の保存につながります。

本記事では、歯茎から膿が出る原因と治療法について解説します。


これは歯茎が膿んでいる?

歯茎が膿んでいるかもしれない状況についてお伝えします。

歯茎に白いできものがある

歯茎に白い腫れや突起を発見した場合、それはフィステルと呼ばれる膿の排出路である可能性があります。

フィステルは歯の根先や歯茎の深部で感染が発生し、膿が体外へ排出されるために自然に形成された通路です。

これは皮膚上の「おでき」に似ていますが、重要な違いは、フィステルが深部の慢性感染の証拠であることです。

歯茎表面に白色から黄色の小さな隆起があり、指で軽く圧迫すると液体(膿)が出てくることがあります。

歯が浮くような感覚や圧迫感がある

特定の歯が浮いているような違和感や圧迫感を覚える場合、それは歯根膜の炎症や歯を支える骨(歯槽骨)の感染が原因かもしれません。

歯根膜は歯と骨をつなぐ重要な組織ですが、ここに炎症が生じると血流が増加し、その結果として歯が浮いたような不快感が現れます。

症状が進行すると、歯を噛み合わせるだけで痛みを感じる「咬合痛」という状態になることがあります。

具体的には、硬い食物を噛んだときに鈍痛を感じたり、「この歯だけが高く感じる」「食事中に歯が押されるような違和感がある」といった症状が現れます。

このような状態を放置すると、膿の蓄積が継続し、最終的には周囲の骨を溶かして歯のぐらつきや脱落につながる恐れがあります。

膿のにじみ・膿の味がする

口の中で不快な味がする、あるいは液体状のものが歯茎からにじみ出てくる感覚がある場合、それは内部に溜まった膿が外部へ排出されている状態かもしれません。

膿の存在は見た目だけでは判断しづらいこともありますが、口内で異常な味を感じることで気づくケースもあります。

医学的には、感染が深部まで進行し、骨や歯根の先端部に膿瘍(のうよう)が形成されると、内部の圧力によって膿が歯茎の隙間やフィステルから漏れ出します。

この膿が口腔内に流れ出ることで、特徴的な苦味や金属臭を生じさせます。

患者の体験としては、「苦いような」「鉄っぽいような」「しょっぱいような」味が突然あるいは断続的に感じられることがあります。

こうした味の原因が食べ物に由来するものではないと感じた場合は注意が必要です。

歯茎から膿んだときの応急処置

歯茎から膿んだときの応急処置方法をご説明します。

口内を清潔に保つ

歯茎から膿が出ている状態は、すでに局所的な感染が進行していることを意味します。

この状況では、口腔内の清潔さを保つことが最優先事項となります。

対策としては、柔らかい毛先の歯ブラシを使用し、痛みのある部分に強い力をかけないよう、やさしく丁寧にブラッシングすることが大切です。

殺菌成分を含むうがい薬(クロルヘキシジン系など)を使って、1日に2~3回のうがいを行うことも効果的です。

また、刺激となる熱い飲み物や甘い飲料は避け、水や常温のお茶などで口内を清潔に保つことも推奨されます。

痛み止めを服用する

歯茎の膿みに伴う痛みは、炎症による神経への圧迫や組織の腫れが原因となっています。

この痛みを一時的に緩和し、日常生活の質を維持するためには、適切な鎮痛剤の使用が役立ちます。

市販されている解熱鎮痛剤(NSAIDs)には抗炎症作用も備わっているため、痛みを軽減するとともに腫れを抑える効果も期待できます。

具体的にはロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)やイブプロフェンなどを、添付文書の用法・用量に従って服用するとよいでしょう。

患部を冷やす

歯茎に炎症が起きている部位では血流が増加しており、熱感や腫れといった症状が現れます。

このような場合、外側から冷却することで血管を収縮させ、一時的に腫れと痛みを和らげる効果が得られます。

具体的な方法としては、頬の外側から保冷剤や冷たいタオルを当てることが挙げられます。

適切な冷却時間は10~15分程度です。

ただし、直接皮膚に氷を当てることは避け、必ず清潔なタオルや布で包んでから使用するようにしましょう。

歯茎に膿んだときの注意点

歯茎に膿んだときの注意点(やってはいけないこと)をお伝えします。

無理に膿を出そうとする

歯茎に膿がたまったとき、多くの方が「早く膿を出して楽になりたい」という思いから、自己流の処置を試みてしまいがちです。

例えば、指や爪で膿のある部分を強く押したり、針や爪楊枝のような先端の尖ったもので患部を突いたりするかもしれません。

しかし、このような行為は医学的に危険です。

なぜなら、表面に見える膿は、実は歯の根の奥や歯茎の深部にある「感染性病巣」の結果として生じているものだからです。

表面から無理に膿を押し出しても根本的な治療にはならず、かえって感染を周囲の組織に広げるリスクが高まります。

さらに深刻な場合には、細菌が歯茎内部や血流に入り込み、顎骨炎や全身感染(敗血症)といった重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。

歯ブラシなどで患部を刺激する

歯茎に膿があるとき、「清潔にすれば治る」という考えから、腫れている部分を強くブラッシングしてしまうことがあるかもしれません。

また、フロスや歯間ブラシで無理やり食べかすを掻き出そうとしたり、電動歯ブラシの強いモードで患部に当ててしまったりすることも少なくありません。

このような行為が危険な理由は、膿が出ている歯茎は炎症によって毛細血管が拡張し、組織がもろくなっている状態だからです。

強い刺激は粘膜をさらに傷つけ、炎症の範囲を広げたり、出血や再感染のリスクを高めたりします。

口腔清掃は大切ですが、膿がある患部を刺激することは避けましょう。

市販薬だけで済ませようとする

歯茎から膿が出ても、歯科医院に行くのが面倒だったり怖かったりして、市販薬だけで対処しようとする人もいるでしょう。

ロキソニンやイブプロフェンなどの痛み止めを飲んで「痛みが引いたから大丈夫」と思ったり、市販のうがい薬や抗炎症薬でしのごうとするケースです。

しかし、これには大きな問題があります。

痛み止めは炎症による「痛みの感覚」を一時的に和らげるだけで、膿の原因となる感染は残ったままだということです。

歯茎から膿が出ている状態は、体からの重要な警告信号です。

痛みがあるなしにかかわらず、早めに歯科医院を受診し、専門家による適切な診断と治療を受けることが最も大切です。

歯茎に膿む原因と治療法

歯茎に膿む原因と治療法をご説明します。

歯周病

歯周病は、歯と歯茎の間の隙間(歯周ポケット)に細菌が蓄積し、歯肉や歯を支える骨に慢性的な炎症を引き起こす疾患です。

この病気が進行すると、徐々に歯を支える骨が破壊され、最終的には歯茎に膿がたまるようになります。

主な症状としては、歯茎が赤く腫れる、歯を指で押すと白い膿がにじみ出る、歯がグラグラと動くようになる、口臭が強くなるなどが挙げられます。

これらの症状は徐々に進行していくため、初期段階では気づかないことも少なくありません。

歯周病による膿みの治療法としては、以下のような方法があります

・スケーリング(歯石除去):歯と歯茎の間に溜まった歯石を専用器具で除去します

・ルートプレーニング(歯根の清掃):歯の根の表面を滑らかに磨き、細菌の付着を防ぎます

・必要に応じて歯周外科手術を行い、深いポケットを減らします

根尖病巣

根尖病巣(こんせんびょうしょう)は、虫歯が歯の神経まで進行したり、過去の根管治療(神経を取る治療)が不十分だったりした場合に、歯の根の先端部(根尖)に膿の袋ができる状態です。

この膿が慢性的に存在し、徐々に広がって歯茎に排出されるようになることがあります。

特徴的な症状としては、該当する歯に「浮いたような」違和感がある、歯茎に白いできもの(フィステルと呼ばれる膿の出口)ができて押すと膿が出る、噛むと鈍い痛みを感じるなどが挙げられます。

しかし、症状がほとんどなく痛みを伴わないケースも多いため、発見が遅れやすいという特徴があります。

根尖病巣の治療法としては、以下のような方法があります

・感染した歯の根管治療(以前に根管治療を受けている場合は再根管治療)

・膿が大量にたまっている急性期には切開して膿を排出する処置

・通常の根管治療で完治が困難な場合は、歯根端切除術(歯の根の先端部分を外科的に切除する手術)

・歯の状態が非常に悪い場合には抜歯が必要になることもあります

歯根破折

歯根破折は、強い力(歯の食いしばりや歯ぎしり、事故など)や、神経を取った歯の脆弱性が原因で、歯の根にヒビが入ってしまう状態です。

このヒビから細菌が侵入し、感染と膿の形成につながります。

歯根破折は見た目だけでは判断しづらく、診断が難しいケースが多いのが特徴です。

主な症状としては、噛むと強い違和感や痛みがある、歯茎が腫れる、膿が出る、繰り返し同じ場所にフィステルができる、などが挙げられます。

被せ物(クラウン)が入っていても、その下から膿が出るケースもあります。

歯根破折の治療法は、以下のような方法があります(破折の程度によって異なります)

・軽度の亀裂の場合:保存できる可能性があり、被せ物で歯を補強します

・縦割れや深い破折の場合:多くのケースでは抜歯が必要となります

・歯を失った場合には、ブリッジ、インプラント、入れ歯などによる補綴(欠損部分の修復)治療が必要になります

歯根嚢胞

歯根嚢胞は、歯の根の先(根尖)に慢性的な感染が長期間続くことによって、体の防御反応として膿の袋(嚢胞)が骨の中に形成される状態です。

この嚢胞は徐々に大きくなり、周囲の顎の骨を溶かしながら拡大していく特徴があります。

初期段階では症状がほとんどなく、定期的な歯科検診でのレントゲン撮影によって偶然発見されることも少なくありません。

嚢胞の中に膿が蓄積してくると、歯茎が腫れ始めます。

さらに進行すると、嚢胞が破れて膿が歯茎に排出される通路(フィステル)ができ、歯茎に白いできものとして現れることがあります。

歯根嚢胞の治療法としては、以下のような方法があります

・根管治療(再治療を含む):原因となっている歯の内部の感染を徹底的に取り除きます

・歯根端切除術:嚢胞が大きい場合には、歯茎を切開して根の先端と嚢胞を外科的に取り除きます

・抜歯と嚢胞摘出:歯の保存が難しい場合には、歯を抜いて嚢胞を完全に取り除く処置が必要になることもあります

不可逆性歯髄炎

不可逆性歯髄炎は、虫歯が深く進行して歯の神経(歯髄)が強く炎症を起こした状態です。

この段階に至ると、もはや自然治癒は望めず、やがて神経は壊死(死滅)し、内部に感染が広がって膿の原因となります。

特徴的な症状としては、冷たいものや熱いもので激しくしみる(しかも刺激が取れた後も痛みが長く続く)、何もしていなくてもズキズキと痛む、夜間に痛みが強くなって眠れなくなるなどがあります。

さらに進行すると、歯の根の先に炎症や膿が及び、歯茎が腫れることもあります。

不可逆性歯髄炎の治療法としては、以下のような方法があります

・抜髄処置(神経の除去)と根管治療:炎症を起こした神経を完全に取り除き、歯の内部を消毒・充填します

・急性症状が強い場合は、仮の排膿処置と抗生剤の投与を行うこともあります

口腔がん(とくに歯肉がん)

口腔がんは歯茎に発生する悪性腫瘍の一種で、初期症状が歯周病や化膿と非常に似ているという特徴があります。

そのため「単なる炎症だろう」と考えて放置されやすく、早期発見が遅れることがあります。

実際には、がん組織の一部が壊死したり感染したりすることによって膿のような分泌物が出ていることがあります。

特徴的な症状としては、歯茎に硬いしこりができたり、なかなか治らない潰瘍(ただれ)が見られたりします。

また、触れると出血しやすく、膿に似た浸出液が出ることもあります。

長期間(2〜3週間以上)治らない腫れや痛みが続く場合や、それまで合っていた入れ歯や歯がかみ合わなくなった場合も注意が必要です。

口腔がんの治療法としては、以下のような方法があります

・口腔外科での検査・確定診断(生検):適切な治療方針を決定するために必要です

・手術による切除:がん組織を取り除く最も一般的な治療法です

・放射線治療:単独または手術と併用して行われることがあります

・化学療法:進行したケースや転移がある場合に用いられます


まとめ

歯茎に膿が溜まる状態は、単なる口腔内のトラブルではなく、身体からの重要な警告信号です。

膿みを示す典型的な症状には、口臭の悪化、歯茎の白いできもの(フィステル)、歯が浮くような感覚、そして口内での異常な味覚などがあります。

この状態は、歯周病、根尖病巣、歯根破折、歯根嚢胞など様々な原因によって生じます。

応急処置としては、柔らかい歯ブラシでの優しい清掃、適切な鎮痛剤の服用、患部の冷却、そして十分な休養が効果的です。

しかし、自己流の処置は危険です。

膿を無理に出そうとする、患部を強く刺激する、血行を促進する行為、そして市販薬だけで対処しようとすることは、症状を悪化させる恐れがあります。

歯茎の膿みは、歯科医による専門的な診断と治療が必要不可欠です。

治療法は原因によって異なりますが、根管治療、スケーリング、外科的処置などが一般的です。

早期発見と早期治療が、歯の保存と健康回復への近道となります。

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