【医師監修】インプラントとブリッジの違い|費用・寿命・治療の特徴を詳しく解説

「歯が1本くらいなくても生活に支障はない」と、抜けた歯をそのままにしていませんか?実は、1本の歯の隙間が、噛み合わせの不具合や体のゆがみなど、将来の健康寿命に影響を及ぼす可能性があります。

失った歯を補うインプラントやブリッジは、健康リスクを防ぐ大切な治療です。ただし、費用や治療期間だけで選ぶと、数年後に後悔してしまう場合もあります。

この記事では、インプラントとブリッジの費用や寿命、治療の特徴を比較しています。あなたの将来の健康と口の状態を見据えて、最適な選択ができるよう準備していきましょう。

この記事を監修した医師

谷川 淳一
Tanigawa Junichi

歯科医師。日本口腔インプラント学会専修医。小児歯科治療や小児矯正、インプラント治療を得意とし、他の歯科医師への指導も行う。
患者様一人ひとりと真摯に向き合って治療方針を決めていくことを信条としている。


歯が抜けたまま放置は危険|体全体に影響する

歯を失ったまま放置すると、口内や体全体に以下のような問題が起こり得ます。

【口内に起こる変化】

  • 噛み合わせの崩壊:空いたスペースに隣の歯が倒れ込むなど歯並びが乱れる場合がある
  • 顎の骨が痩せる:顎の骨は噛むことによる刺激が必要だが歯が無くなった部分は刺激がないため骨が痩せていく
  • 他の歯への負担増:残った歯に食事などで過度な負担がかかる

【体全体への影響】

  • 認知機能への影響:噛む行為が減ることで脳への適切な刺激が減る
  • 消化不良:食べ物を十分に噛み砕けないことで胃や腸に負担がかかる
  • 体のバランスの乱れ:噛み合わせのズレが顎周りの筋肉のバランスを崩し全身の歪みにつながる

このように、歯が抜けた状態の放置は、多くの健康リスクを伴います。

歯が抜けたときの3つの治療法

失った歯を補う主な治療法として、以下の3つを解説します。

①インプラント|見た目・機能ともに天然歯に近い

②ブリッジ|隣の歯を使って固定する治療法

③入れ歯(義歯)|取り外し可能で幅広い症例に対応

①インプラント|見た目・機能ともに天然歯に近い

インプラントは、見た目も噛み心地も天然の歯に近い治療法です。歯を失った部分の顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上にセラミック製などの人工歯を装着します。顎の骨としっかり結合するため、ぐらつかず安定した噛み心地を得られます。

インプラント治療の特徴は以下の4つです。

  • 高い機能性:自分の歯のようにしっかりと噛むことができる
  • 優れた審美性:天然の歯と見分けがつきにくい見た目を再現できる
  • 周囲の歯を守れる:隣の健康な歯を削らずに治療できる
  • 顎の骨を維持できる:噛む力が顎の骨に伝わり、骨が痩せるのを抑える効果がある

機能性・見た目・耐久性のバランスに優れた治療法で、長期的に安定した結果が期待できます。

②ブリッジ|隣の歯を使って固定する治療法

ブリッジは、失った歯の両隣の歯を支えにして人工の歯を固定する治療法です。健康な歯を削って土台を作り、その上に橋のように人工歯をかけて固定します。取り外しの必要がないため、自然な感覚で食事や会話を楽しめます。

ブリッジ治療には以下のような特徴があります。

  • 安定した装着感:固定されているので違和感が少ない
  • 比較的短い治療期間:インプラントに比べると治療期間が短い
  • 費用を抑えられる:保険が適用される素材であれば費用を抑えることが可能

ブリッジ治療は、健康な歯を削る必要があり、支えとなる歯に負担がかかる点には注意しましょう。長期的に見ると、土台の歯の寿命を縮めるリスクがあるため、歯の状態に合わせて慎重に治療法を選ぶことが大切です。

③入れ歯(義歯)|取り外し可能で幅広い症例に対応

入れ歯は、失った歯を補うための取り外し可能な装置です。1本から対応できる部分入れ歯と、すべての歯を失った場合の総入れ歯があります。多くの症例に対応でき、外科手術が不要な点が特徴です。

入れ歯治療は保険が適用されるため、他の治療法に比べて費用を抑えられる点もポイントです。ただし、毎日自分で取り外して清掃する必要があるため、慣れるまで時間がかかる場合もあります。

近年の研究では、歯を補うことで噛む力が回復し、脳の働きや認知機能の維持に役立つ可能性があるといわれています。(※1)入れ歯は見た目や機能を補うだけでなく、全身の健康を支える治療法でもあります。

インプラント・ブリッジ・入れ歯の違いを比較|費用・期間・特徴

歯を失った際の治療法には、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3つがあります。それぞれに費用や見た目、治療期間などの違いがあり、どれを選ぶかで仕上がりや快適さが大きく変わります。

ここでは、治療法を選ぶ際に知っておきたい5つのポイントを解説します。

①1本あたりの費用相場と内訳

②審美性・機能性・耐久性の比較

③治療期間と通院回数の目安

④各治療法のメリット・デメリット

⑤適応ケースと治療選択の基準

①1本あたりの費用相場と内訳

歯1本あたりの治療費の相場は以下のとおりです。

  • インプラント:約30〜50万円(自費診療)
  • ブリッジ:約1〜15万円(一部保険適用可)
  • 入れ歯:約5千〜15万円(一部保険適用可)

インプラントの費用には、CT撮影など精密な検査料や診断料が含まれます。人工歯根を埋め込む手術費用、セラミックなどの人工歯の費用も必要です。治療後も定期的なメンテナンスが必要で、費用がかかります。

ブリッジと入れ歯は、保険が適用される場合は、使用できる素材や治療法に決まりがありますが、費用を抑えることができます。自費診療を選ぶ場合は、セラミックなど、より質の高い素材の選択が可能となります。

②審美性・機能性・耐久性の比較

治療法によって見た目や噛む力、耐久性は大きく異なります。以下の比較表は一般的な目安ですが、自分の希望やライフスタイルと照らし合わせて考える参考にしてください。

治療法審美性噛む力(機能性)耐久性(寿命目安)
インプラント天然歯に最も近い見た目天然歯の約80~90%程度回復10年以上
ブリッジ素材によって自然な仕上がり可天然歯の約60~80%程度回復約7〜8年
入れ歯(義歯)金属のバネが見えることがある天然歯の約10~40%程度回復約5年

それぞれに特徴があり、希望や予算、歯の状態に応じて選ぶことが大切です。

③治療期間と通院回数の目安

以下に治療期間や通院回数の目安を治療法ごとにまとめました。

【治療期間の目安】

  • 入れ歯:約2週間〜1か月
  • インプラント:約3か月〜1年
  • ブリッジ:約1〜2か月

【通院回数の目安】

  • 入れ歯:4〜6回程度
  • インプラント:5〜10回程度
  • ブリッジ:3〜5回程度

インプラント治療では、顎の骨に埋め込んだ人工歯根が骨としっかり結合する期間として上記の期間が必要です。そのため、他の治療法よりも時間がかかります。

ブリッジや入れ歯は、外科手術を伴わないため、歯の型をとって装置が完成したら装着・調整という流れとなります。そのため、比較的短期間で治療を終えることが可能です。

④各治療法のメリット・デメリット

それぞれの治療法のメリット・デメリットを以下の表にまとめています。

治療法メリットデメリット
インプラント・自分の歯のように噛める
・見た目が自然で美しい
・周りの健康な歯を削らない
・顎の骨が痩せるのを防ぐ
・費用が高額
・外科手術が必要
・治療期間が長い
・全身状態によっては適さない
ブリッジ・固定式で違和感が少ない
・比較的治療期間が短い
・保険適用できる場合がある
・土台を作るため健康な歯を削る
・土台の歯に負担がかかる
・清掃が難しくむし歯になりやすい
入れ歯・費用を安く抑えられる
・多くの歯を失った場合にも対応可能
・外科手術が不要
・取り外して清潔に保てる
・硬いものが噛みにくい場合がある
・装着時の違和感や異物感がある
・発音しにくいことがある
・定期的なメンテナンスが必要

⑤適応ケースと治療選択の基準

どの治療法が最適かは、人により異なるので、自分がどのタイプに当てはまるか以下を参考にしてください。

【インプラントが向いている方】

  • 嘔吐反射や異物感が強くて入れ歯が難しい方
  • 残っている健康な歯を削りたくない方
  • 自分の歯と同じように食事や会話を楽しみたい方
  • 見た目を重視し入れ歯の取り外しに抵抗がある方
  • 顎の骨量が十分で外科手術に耐えられる健康状態の方

【ブリッジが向いている方】

  • 失った歯の両隣に支えとして使える健康な歯がある方
  • 外科的な手術はできるだけ避けたい方
  • 比較的短い期間で治療を終えたい方

【入れ歯が向いている方】

  • 糖尿病や骨粗鬆症などの持病がありインプラント手術が難しい方
  • 多くの歯を補う必要がある方
  • 治療費をできるだけ抑えたい方

最終的な治療法は、歯科医師と話し合い、それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで決定しましょう。

精密治療が治療成果を左右する理由

インプラントやブリッジ治療の成功を左右するポイントは精密さです。治療のすべての工程で精密さが重要な理由として、以下の3つを解説します。

①ブリッジ治療は支台歯の精度が寿命を左右(マイクロスコープ活用)

②インプラント手術や上部構造の適合確認にも拡大視野が有効

③精密なメンテナンスで再発を防ぐ(周囲炎対策)

①ブリッジ治療は支台歯の精度が寿命を左右(マイクロスコープ活用)

ブリッジ治療は、失った歯の両隣にある健康な歯を削り、土台(支台歯)にします。この支台歯をどれだけ精密に削り、形を整えられるかがブリッジの寿命を左右します。精度が低いと、ブリッジと歯の間にわずかな隙間ができ、そこからむし歯菌が入り込んで再治療が必要になることもあります。

そこで役立つのがマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)です。マイクロスコープを使うことで、歯科医師は肉眼の20倍以上まで拡大して治療を行えます。その結果、歯を必要最小限しか削らず、ブリッジを歯に適合でき、むし歯の取り残しのリスクを大幅に低減できます。

こうした精密な治療が、ブリッジの長持ちと歯の健康維持につながります。

②インプラント手術や上部構造の適合確認にも拡大視野が有効

インプラント治療では、わずかなズレが大きなトラブルにつながるため、精密な視野での治療が不可欠です。マイクロスコープや拡大鏡を使うことで、以下のようなメリットがあります。

  • 手術の精度を高められる:インプラントを埋め込む位置や角度を正確に確認でき、神経や血管を傷つけるリスクを減らせる
  • 上部構造の適合性を確認できる:被せ物とインプラントの隙間を細かくチェックでき、細菌の侵入を防げる
  • 長期的な安定性を保てる:噛む力が均等にかかるよう調整でき、インプラントのぐらつきや破損を防止できる

拡大視野を活用した精密治療は、安全性を高めるだけでなく、インプラントの寿命を延ばすためにも欠かせない要素です。

③精密なメンテナンスで再発を防ぐ(周囲炎対策)

インプラントは天然の歯より細菌に弱いため、治療後の精密なメンテナンスが欠かせません。毎日の歯磨きに加え、歯と歯ぐきの境目を意識してデンタルフロスや歯間ブラシで丁寧に清掃しましょう。

歯科医院では、レントゲンで骨の状態を確認し、噛み合わせの調整や専用器具によるクリーニングを行います。これにより、インプラントへの過度な負担を防ぎ、トラブルを早期に見つけることができます。

特に注意が必要なのが「インプラント周囲炎」です。気づかないうちに骨が溶け、最悪の場合インプラントが抜け落ちることもあります。定期的な検診と正しいケアが、長持ちにつながります。

費用について知っておきたいこと

治療費を考えるときは、「どの治療が高い・安い」だけで判断しないことが大切です。どのくらい効果が続くかや、その後のケアにかかる費用も考えましょう。

長期的に経済的な負担を減らすために、以下の3つのポイントを解説します。

  • 治療後まで含めた総額で考える
  • 長く使える治療が結果的に負担を減らす
  • セルフケアが治療を長持ちさせる

治療後まで含めた総額で考える

治療費を比較する際は、初期費用だけではなく、治療後に定期的にかかる維持費用、将来的な再治療のリスクも考慮しましょう。

ブリッジは、初期費用を抑えられる点がメリットですが、支えている健康な歯が将来むし歯や歯周病になる場合があります。その際は、ブリッジを外し、土台の歯の治療も必要になるため、費用がかさむことがあります。

インプラントは初期費用が高額ですが、周囲の歯に負担をかけません。継続して適切なメンテナンスを行えば、長持ちする可能性が高い治療法です。

どちらも治療後の定期検診やクリーニングは、歯の寿命を左右します。治療費の内訳や、メンテナンスの費用、頻度の事前確認が大切です。

長く使える治療が結果的に負担を減らす

初期費用が高くても、長期間快適に使える治療法を選ぶことは、最終的に心身や経済的な負担を減らすことにつながります。耐久性が高く、再治療のリスクが少ない治療は、生涯の医療費を抑えることができる可能性があります。

近年では、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)冠のような素材も登場しています。この素材は軽くて丈夫なだけでなく、生体適合性(体へのなじみやすさ)も高いです。(※2)質の高い素材は、長期的な安定が期待でき、再治療リスクを減らすことが期待できます。

台湾の高齢者約6万5千人を対象とした大規模な研究では、しっかり噛める歯の維持が全身の健康維持につながることも示しています。歯が20本以上ある人と比べ、歯が少ない人ほど認知機能が低下するリスクが高いと報告されています。(※3)

入れ歯などで歯を補い、本数を維持することで認知機能の低下リスクを軽減できる可能性も示されているので、しっかり噛める歯の維持は将来的にも大切です。

セルフケアが治療を長持ちさせる

治療の価値を長持ちさせるためにも、セルフケアは重要です。自宅での日々のケアと、歯科医院での定期的なケアを並行させましょう。

インプラントの場合は、天然歯よりも細菌への防御力が弱いため、インプラントと歯ぐきの境目の汚れの除去を意識しましょう。この境目に汚れが溜まるとインプラント周囲炎を引き起こす可能性が高まります。

ブリッジの場合も、ブリッジと歯ぐきの間に汚れが溜まりやすいです。そのため、歯間ブラシやスーパーフロス(ブリッジ専用のフロス)を使って丁寧に汚れを除去する必要があります。

ブリッジを支える歯も、ダメージを受けるとブリッジ全体が使えなくなるため念入りに清掃しましょう。

信頼できる歯科医院を選ぶための3つのポイント

後悔しない治療を受けるために、信頼できる歯科医院を選ぶポイントは以下の3つです。

①豊富な実績と経験がある

②CTやマイクロスコープなど精密治療に必要な設備がある

③患者さんの声を聞きながら治療方針を決めていく

①豊富な実績と経験がある

インプラントやブリッジ治療は、歯科医師の技術や知識によって結果が変わる治療です。多くの症例を経験してきた歯科医師は、仮に問題が起きた場合でも、さまざまな状況に対応できます。

信頼につながる歯科医院の実績は以下のとおりです。

  • 公式サイトでの情報公開:治療実績などが具体的に公開されている
  • 歯科医師の専門性:日本口腔インプラント学会などの専門医や指導医の資格がある
  • カウンセリングでの対応が丁寧

②CTやマイクロスコープなど精密治療に必要な設備がある

精密な治療を行うためには、歯科用CTやマイクロスコープなどの設備が整っている歯科医院を選ぶことが重要です。これらの設備があることで、治療の安全性と仕上がりの精度が大きく向上します。

歯科用CTでは、顎の骨や神経、血管の位置を立体的に確認でき、インプラントなどの外科処置を安全に行うことができます。マイクロスコープは肉眼の20倍以上まで拡大して見られるため、歯を削る量を最小限に抑え、被せ物が隙間なく適合しているかを確認できます。

これらの機器がそろっている医院は、見た目の美しさだけでなく、安定した治療を提供できる信頼性の高い環境といえます。

③患者さんの声を聞きながら治療方針を決めていく

信頼できる歯科医院は、患者さんとのコミュニケーションを大切にし、一緒に治療のゴールを目指してくれます。以下の4つのポイントを満たしているかをチェックしてみてください。

  • 丁寧なカウンセリング:患者さんの悩みや希望をしっかり聞く時間を確保してくれるか
  • わかりやすい説明:治療の選択肢についてメリットだけでなくデメリットも説明してくれるか
  • 同意に基づいた治療:医師が一方的に治療法を決めるのではなく患者さんが納得したうえで治療法を決められるか
  • 質問しやすい雰囲気:気軽に質問できる雰囲気があるか

丁寧なカウンセリングで個々の状況を聞き取り、治療計画に反映してくれる歯科医院が推奨されます。最終的に信頼関係を築ける歯科医師と出会うことが、安心して治療を受けるための鍵となります。

まとめ

インプラントとブリッジには、それぞれ優れた点と注意すべき点があります。どの治療法が最適かは、あなたの口の状態や、どんな治療を望むかによって異なります。

まずは、自分が治療に求めることをしっかり考えてみましょう。その想いを丁寧に聞き、一緒に最善の方法を探してくれる歯科医師を選ぶことが大切です。この記事をきっかけに、信頼できる歯科医院へ相談する第一歩を踏み出してみてください。


参考文献

  1. Ma Therese Sta Maria, Yoko Hasegawa, Aye Mya Mya Khaing, Simonne Salazar, Takahiro Ono.The relationships between mastication and cognitive function: A systematic review and meta-analysis.Jpn Dent Sci Rev,2023,59,p.375-388.
  2. Noha Taymour, Ahmed Abd El-Fattah, Sherif Kandil, Amal E Fahmy, Naif H Al-Qahtani, Abdulrahman Khaled, Yousif A Al-Dulaijan, Mohamed Abdel-Hady Gepreel.Revolutionizing Dental Polymers: The Versatility and Future Potential of Polyetheretherketone in Restorative Dentistry.Polymers (Basel),2024,17(1),80.
  3. Yi-Chang Chou, Shih-Han Weng, Feng-Shiang Cheng, Hsiao-Yun Hu.Denture Use Mitigates the Cognitive Impact of Tooth Loss in Older Adults.J Gerontol A Biol Sci Med Sci,2024,80(1),glae248.