歯周病で手遅れの症状は?年代別のリスク・抜歯リスクを抑える治療法

「歯がグラグラする」「噛むと痛い」「歯茎から膿が出る」「口臭がきつい」――。

歯周病は痛みなどの自覚症状がほとんどないまま静かに進行し、気がついたら「もう手遅れかも」とご自身で感じてしまうほど、症状が悪化することがあります。

また、厚生労働省や日本歯周病学会においても、歯周病は糖尿病や動脈硬化などの全身疾患と関係が深く、予防・治療が必要であると指摘されています。

そこで今回は、歯周病の年代別のリスクや、できる限り抜歯を避けるための「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」を用いた精密治療法をお伝えします。

ご自身のお口や全身の健康を維持するために役立ててください。


歯周病の「手遅れ」の症状とは?|まずはセルフチェック

歯周病は進行度合いによって「歯肉炎」「軽度歯周炎」「中等度歯周炎」「重度歯周炎」というステージに分類されます。
そのうち、一般的に「手遅れ」と言われるような状態は、最も進行した『重度歯周炎』の段階であり、「歯槽膿漏(しそうのうろう)」とも呼ばれます。

重度の歯周病(歯槽膿漏)になると、歯を支える組織の崩壊により、最終的に歯が自然に抜け落ちたり、抜歯が必要になったりするリスクがあります。

以下のセルフチェックリストに一つでもあてはまる症状がある場合、なるべく早く歯科医院を受診することをおすすめいたします。

【セルフチェックリスト】
①歯がグラグラ揺れる・指で触ると動く

②歯茎から黄色い膿が出る

③生ごみや腐った玉ねぎのような強い口臭が続く

④噛むと痛い、噛み合わせに違和感がある

⑤歯茎が下がり、以前より歯が長く見える(歯肉退縮)

⑥急にすきっ歯や出っ歯になるなど、歯並びが変わる

⑦触れていないのに歯が自然に抜け落ちる(自然脱落)

それでは、これらの症状の裏で、お口の中がどのようなリスクを抱えているのかを確認していきましょう。

①歯がグラグラ揺れる・指で触ると動く

何もしていなくても歯が前後に揺れる、あるいは指で触ると明らかに動く(動揺する)状態は、歯を支えている骨である「歯槽骨(しそうこつ)」の大半が溶けている状態であるとされています[参考文献1]。

歯槽骨という土台を失った歯は、食べ物を正常に噛み砕く(咀嚼:そしゃく)ことが著しく困難になる場合があり、食事のたびに歯が傾いて強い違和感を覚えることもあります。

この場合、歯科医院での精密な噛み合わせ調整や暫間固定(ざんかんこてい:隣の歯と連結して固定する処置)が必要になるケースが一般的です。

②歯茎から黄色い膿が出る

歯茎を指で押したとき、あるいは何もしていなくても歯と歯茎の間から粘り気のある黄色い膿がにじみ出てくる症状がある場合、「歯周膿瘍(ししゅうのうよう)」と呼ばれる急性炎症が疑われます。

歯周膿瘍とは、歯周ポケット(歯と歯茎の境目のすき間のこと)の内部で増殖した歯周病菌と、それに対抗して戦った白血球の死骸が膿となって溜まり、行き場を失ってお口の中に排出されるものです。

歯周膿瘍になると、歯周組織や歯槽骨の崩壊が進み、放置すると歯の脱落や抜歯が必要になるリスクが高まるおそれがあります。

③生ごみや腐った玉ねぎのような強い口臭が続く

市販の歯槽膿用の洗口液(せんこうえき)や歯磨き粉によるブラッシングをしても消えることのない、生ゴミや腐った玉ねぎ、あるいは温泉地のような独特の強い口臭は、重度の歯周病特有のものと言われています。

重度の歯周病(歯槽膿漏)において増殖する主要な悪性細菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス等)は、血液やタンパク質を分解する際に「揮発性硫黄化合物(きはつせいいおうかごうぶつ)」と呼ばれる強い悪臭を放つガス(メチルメルカプタンや硫化水素)を大量に放出します。

さらにこのガスは、口臭の原因となるだけでなく、歯茎の粘膜をさらに化学的に傷つけ、炎症を悪化させる有害な作用も持っています。

④噛むと痛い、噛み合わせに違和感がある

「硬いものを噛むとキーンと響くように痛む」「歯が浮いたような感じがして噛み合わせが合わない」という自覚症状がある場合、炎症が歯の根の周囲にあるクッション組織「歯根膜(しこんまく)」にまで波及している可能性が高いです。

健康な歯根膜は噛む力を適切にコントロールする役割を担っていますが、歯周病菌の侵入によって歯根膜が炎症し、充血したり破壊されたりすると、軽い力で接触しただけでも神経が敏感に痛みを感知するようになります。

また、歯を支える骨の弾力性も失われているため、噛む衝撃が直接骨に伝わり、強い痛みを引き起こすリスクがあります。

⑤歯茎が下がり、以前より歯が長く見える(歯肉退縮)

「鏡を見ると、昔に比べて歯が細長く見える」「歯の根元に食べ物がよく挟まるようになった」という症状がある場合、歯周病の進行に伴う「歯肉退縮(しにくたいしゅく)」が疑われます。

歯茎の下にある歯槽骨が溶けて低くなると、骨の上を覆っている歯茎(遊離歯肉:ゆうりしにく・付着歯肉:ふちゃくしにく)も退縮してしまいます。

また、露出した歯の根元(セメント質)は本来の頭の部分(エナメル質)に比べて柔らかいため、歯肉退縮を引き起こすと虫歯(根面虫歯:こんめんむしば)になりやすい上に、冷たい水が激しくしみる「知覚過敏(ちかくかびん)」を起こしやすくなるというリスクがあります。

⑥急にすきっ歯や出っ歯になるなど、歯並びが変わる

成人してから「前歯の隙間が広がってきた」「上の前歯が徐々に前に突き出てきた(フレアアウト)」といった症状が出た場合、歯周病による「病的新移動(びょうてきしんいどう)」が疑われます。

本来、歯は全方位からの適度な圧力(奥歯が噛み合う力、舌が押し出す力、唇や頬の筋肉のバランス)によって定位置をキープしています。

しかし、歯槽骨が溶けて歯を支える力が失われると、噛み合わせるたびに歯が外側へ逃げるように押し出されてしまいます。

これにより連鎖的に全体の噛み合わせのバランスが崩れていき、特定の歯に過剰な負担がかかる悪循環に陥るリスクがあります。

⑦触れていないのに歯が自然に抜け落ちる(自然脱落)

歯の動揺を長期間放置し続けた結果、ある日突然、食事中や軽い接触のタイミング、あるいは睡眠中に歯が自然に抜け落ちる(自然脱落)ことがあります。

この場合、歯根膜や歯槽骨といった歯を支えるための歯周組織が崩壊してしまったと考えられ、隣接する他の歯の骨や歯周組織にも同様のリスクがある状態です[参考文献1]。

放置すれば次々と連鎖的に歯が抜け落ちていき、「手遅れ」となるおそれもあるため、一刻も早く歯科医院の受診をおすすめいたします。

【年代別】ライフスタイルの変化と歯周病

歯周病は年齢や性別に関係なく、乳歯が生えた子どもから高齢者の方まで、誰にでもなるリスクがあります。

ただし、年代に応じてライフスタイルの変化と共に注意すべき点があるので、ご自身やご家族にあてはまる傾向がないか確認してください。実際に、30代〜60代の約7割に何らかの歯肉の異常が見られ、50代以降において歯を失う原因の第1位は歯周病であると報告されています[参考文献3]。

10代・20代はとくに注意「侵襲性歯周炎(若年性歯周炎)」

10代から20代、そして30代前半など比較的若い世代は、通常の歯周病と違って急速に進行する「侵襲性歯周炎(しんしゅうせいししゅうえん)」に注意が必要です。

侵襲性歯周炎は、歯茎の赤みや腫れといった「見た目の変化」は少ないものの、前歯や第一大臼歯(だいいちだいきゅうし)など特定の歯の骨が急速に溶けていく厄介な症状です。

なお、若い世代が多くかかる歯周病であるため、かつては「若年性歯周炎(じゃくねんせいししゅうえん)」と呼ばれていました。

【10代・20代の歯周病リスクを高める主な原因】
①遺伝的要因(家族歴がある)

②免疫システムの異常反応

③ホルモンバランスの変化

④喫煙

10代から20代にかけては、進学や就職に伴う環境変化によるストレス、夜更かしによる睡眠不足や不規則な生活習慣が拍車となって、侵襲性歯周炎にかかりやすくなると言われています。

また、若いうちからの喫煙も、侵襲性歯周炎だけでなく、通常の歯周病を悪化させる要因になりえます。

そのため、「まだ若いから大丈夫」と考えずに、学校や職場の定期歯科検診を利用してお口の健康チェックを行いましょう。

30代・40代の働き盛りに多い「サイレントキラー」的な歯周病

30代・40代は、一般的に社会的な責任が重くなり始めるころです。

とくに現代は「共働き世帯」が多いことから、仕事や家庭においても何かとストレスを感じやすく、睡眠不足にもなりやすい世代です。

【30代・40代の歯周病リスクを高める主な原因】
①慢性的な睡眠不足やストレス

②生活習慣の乱れ

③喫煙

10代や20代の頃と違って、ストレス・睡眠不足・生活習慣の乱れが常態化しがちであるため、30代や40代の働き世代は、免疫力の低下から歯周病になりやすいとされています。

侵襲性歯周炎と違い、一般的な歯周病は、ゆっくりと進行して「気がついたら手遅れ」といったケースがあります。そのため、サイレントキラー(自覚症状なく進行する病気)と言われることもあります。

また、30代~40代は統計的に喫煙率が高い世代でもあるため、タバコに含まれるニコチンによる血管の収縮効果により、歯茎からの出血がわかりにくく、症状に気づきにくいというリスクがあります。

40代・50代女性の急増リスク「更年期と女性ホルモン(エストロゲン)」の低下

40代から50代にかけての女性は、更年期を迎えることで女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌量が急激に減少します。

エストロゲンの作用が低下することで、ドライマウスや骨密度の減少などを引き起こし、結果として歯周病にかかりやすくなると言われています。

【40代・50代女性の歯周病リスクを高める主な原因】
①ドライマウスによる抗菌作用や自浄作用を持つ唾液の分泌量の減少

②骨粗鬆症のリスクの高まりと同時に歯槽骨(歯を支える顎の骨)ももろくなりがち

40代・50代から女性に多く見られるリスクには、ドライマウス対策(例:こまめな水分補給)、骨粗鬆症対策(例:カルシウムやビタミンD・Kの摂取)、大豆イソフラボンやサプリメントなどの摂取でエストロゲンの働きを補うことなどをおすすめします。

【疑問】歯周病は「うがい」や「歯磨き」だけで解決する?

インターネット上やSNS等で「特別なうがい薬(歯磨き粉)を使えば、歯周病は自宅で治せる」といった情報を見かけることがあります。

しかし、日本歯科医師会によれば、どのような高濃度・高機能のうがい薬や洗口液であっても、それだけで歯周病を根本的に治療・完治させることはできない、とされています[参考文献2]。

理由①強固なバリア「バイオフィルム」にはうがい薬の成分が届かない

バイオフィルムとは、お口の中の無数の細菌が互いに結びつき、周囲を粘着性の多糖類(たとうるい)からなる強固な「膜(バリア)」でコーティングした集合体のことです。

イメージとしては、台所の排水口の「ヌメリ」のようなものです。

バイオフィルム内のプラークは水に溶けないため、うがい薬で除去することはできないというのが日本歯科医師会の見解です[参考文献2]。

うがい後に「口がさっぱりした」「口臭が減った」と感じるのは、お口の表面に浮遊している雑菌が消毒され、揮発性ガスが一時的に中和されたことによる効果です。

重度の歯周病(歯槽膿漏)の場合、歯周ポケットの深さが6㎜以上であり、その奥深くの原因菌にうがい薬の成分が直接アプローチすることは困難です。

理由②セルフケアでは歯周ポケットの奥深くの汚れに歯ブラシが届かない

歯周病を予防・進行させないためにはバイオフィルムの除去が重要ですが、毎日のセルフケア(自宅での歯磨き)では、どうしても磨き残しが発生しがちです。

また、プラークが硬くなった歯石を除去するには、専用の器具(スケーラーなど)が必要となります。

そこで、歯科医院ではプロフェッショナルケア(クリーニング・メインテナンス)を行い、歯周ポケットの奥深くに強固にこびりついた歯石を、スケーラーを用いて徹底的に粉砕・除去・清掃して清潔な口腔環境へと導くことを目指します。

「うがいやセルフケアをしていれば安心」と思い込み歯周病を放置すると、気づいたときには手遅れ(抜歯が検討される状態)となってしまうおそれもあるため、定期的なプロフェッショナルケア(歯のクリーニング・メインテナンス)を受けることを推奨いたします。

参考:歯科医院でのプロフェッショナルケア

歯科医院でのプロフェッショナルケアのことを、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning:プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)と呼びます。

【PMTCの概要】

項目概要
① 治療内容歯科用ルーペ等を用いて視野を拡大し、歯肉の下(歯周ポケット内)に隠れた強固な歯石や、細菌に汚染された歯の根(セメント質)を、極細のスケーラーや専用器具で精密に滑沢化(平ら)にして細菌の再付着を抑制する非外科的治療。
② 標準費用保険診療の場合:3割負担で1ブロックあたり数千円(初再診料・レントゲン等の検査費用は別途)。
自由診療(自費)の場合:1回の施術あたり15,000円〜40,000円程度(医院や対象本数による)。後述するマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)が使用されることが一般的。
③ リスク・副作用治療後数日間は一時的に歯がしみる(知覚過敏)、歯茎から軽度の出血がある、歯茎が引き締まることで隙間が広がりやすくなる等のリスクがあります。
④ 治療期間一般的にお口の中を4〜6つのブロックに分割して治療するため、全体で約1ヶ月〜2ヶ月半程度。
⑤ 治療回数分割治療となるため、計4回〜6回程度の通院が必要。

本当に手遅れ?抜歯をなるべく避けるマイクロスコープによる精密治療とは

ご自身では「手遅れ」「抜歯しかない」と諦めてしまっていても、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を利用した精密治療により、歯を残せる可能性があります。

また、歯周組織の崩壊が大きく「このままでは歯を残すのが難しい」という場合でも、すぐに抜歯をするのではなく、失われた歯の組織を修復する「歯周組織再生療法」も選択肢としてあります。

マイクロスコープの拡大視野による精密な治療

歯周病の基本的な治療は、まず歯に付着しているプラークや歯石、バイオフィルム(細菌の膜・塊)を除去することから始まりますが、そこで活躍するのがマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)です。

重度の歯周病(歯槽膿漏)の場合、「歯周ポケットの深さが6㎜以上」となりますが、暗く狭いお口の中を肉眼だけで清掃するのは困難です。

マイクロスコープは肉眼と比較して約20倍まで視野を拡大することが可能であり、LEDのライトの光で深い歯周ポケットの奥の汚れを直接確認しながらの処置を可能とします。

また、マイクロスコープに搭載された動画・写真撮影機能を用いて、治療およびメインテナンス(クリーニング)の様子をモニターに投影することで、歯科医師や歯科衛生士だけでなく、患者さんも処置の様子を確認できるという特徴があります。

動画や写真での説明を行うことで、「何をされているかわからない」といったような「歯科医院でありがりな患者さんの不安」を軽減する(インフォームドコンセントにつなげる)ことにも役立ちます。

メリット①歯質の削りすぎを防ぐ

肉眼での治療で歯石を取り残さないようにするには、健康な歯肉や歯の根元(セメント質)まで余分に削り取ってしまう危険性がありました。

マイクロスコープであれば、拡大視野下での不要な組織破壊や術後の痛み・腫れを最小限に抑えることが期待できます。

メリット②非外科的治療の可能性を拡大(歯茎を切らなくて済む選択肢)

歯周ポケット奥の歯石が取れない場合、歯茎をメスで大きく切り開く「フラップ手術」という外科治療が選択されることがあります。

しかし、マイクロスコープと極細の超音波器具を組み合わせることで、歯茎を切り開くことなく(非外科的に)歯周ポケット深部の感染源を除去し、患者さんの身体的・精神的な負担を大幅に軽減することが期待できます。

失われた骨の回復を目指す「歯周組織再生療法(エムドゲイン・リグロス)」

重度の歯周病(歯槽膿漏)で顎の骨などの歯周組織を失ってしまった場合、専用の薬剤(エムドゲイン・リグロス)を使用した「歯周組織再生療法」という選択肢があります。

歯周組織再生療法は外科治療の一種であるため、精密視野を確保できるマイクロスコープが精密な処置に活躍します。

※歯周組織再生療法は自由診療(自費診療)です。

【歯周組織再生療法の概要】

項目概要
① 治療内容歯周基本治療(※SRP)後に残った深い歯周ポケットに対し、外科的に歯肉を開いて根の表面を徹底清掃した上で、骨が溶けたスペースに専用の再生誘導剤(エムドゲイン:豚の歯胚組織由来タンパク、またはリグロス:遺伝子組換え成長因子製剤)を塗布し、失われた歯槽骨や歯根膜などの歯周組織の再生を促す外科手術[参考文献4]。
② 標準費用保険診療の場合(リグロス使用の一部条件適合のみ):3割負担で手術1歯あたり約20,000円〜30,000円(薬剤費含む)。
自由診療の場合(エムドゲイン等の自費選択):1歯あたり80,000円〜150,000円程度。
③ リスク・副作用外科切開を伴うため術後の腫れや痛み、一時的な出血のリスクがあります。また、骨の溶け方(3壁性骨欠損など特定の条件)によっては、十分な再生効果が得られない場合があります。
④ 治療期間術後の傷口の治癒確認から、骨の再生を促し状態が安定するまで、約6ヶ月〜1年以上の長期にわたる経過観察が必要です。
⑤ 治療回数外科手術自体は1回。その後の抜糸、経過観察、消毒、精密検査のために数回〜十数回の通院。

※SRP=Scaling and Root Planing(スケール・アンド・ルートプレーニング)の略称。
専用の器具である「スケーラー」などを用いて、歯茎の表面や、歯周ポケットの中の歯垢・歯石・バイオフィルムなどの除去を行う処置のこと。

歯周病で手遅れになるのは歯だけではない?全身疾患への影響とは

厚生労働省や日本臨床歯周病学会によると、歯周病と糖尿病の間には、どちらか一方が悪化するともう一方も悪化するという、「双方向の悪循環」が存在します[参考文献5]。

また、歯周病菌(ジンジバリス菌など)は、血流に乗って全身に影響を及ぼし、心筋梗塞や脳梗塞などの原因にもなると言われています[参考文献5]。

さらに、高齢者の方は、「誤嚥性肺炎」と「認知症」にも注意が必要ですので、詳しく見ていきましょう[参考文献5]。

①歯周病と糖尿病の関係(双方向の悪循環)

歯周病が原因の炎症物質(TNF-α等)は、血流に乗って全身に回り、骨格筋や脂肪組織において、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の働きを阻害(インスリン抵抗性の上昇)します。

その結果、糖尿病患者における血糖値のコントロールに悪影響が出ることがあります。

【POINT】
厚生労働省などの発表によると、歯科医院での徹底的な精密クリーニングによって歯周病の炎症を鎮静化させると、ヘモグロビンA1c(HbA1c:血糖値の指標)の数値の改善に繋がることが報告されています 。

また、高血糖状態が続くと、白血球の機能が低下して感染防御力が弱まり、歯茎の微小循環(血流)が障害されます。

これにより、歯周組織の修復機能が低下して歯周病の進行が早くなり、悪化の原因となると言われています。
糖尿病患者の方は歯周病治療も並行して行うことが望ましいとされる所以です。

②心筋梗塞や脳梗塞などの血管閉塞・動脈硬化リスク

歯周病の原因となる細菌は、血流に乗って全身に運ばれ、血管壁にプラーク(コレステロールなどの塊)が蓄積して血管が狭く、硬くなる「動脈硬化(どうみゃくこうか)」を誘発・促進することがわかっています。

さらに、この蓄積した塊が剥がれ落ちて血栓(けっせん)となり、心臓の冠動脈を詰まらせれば「心筋梗塞(しんきんこうそく)」、脳の血管を詰まらせれば「脳梗塞(のうこうそく)」という、後遺症を残すおそれのある血管閉塞性疾患の引き金となりえます。

③高齢者が気を付けたい「誤嚥性肺炎」と「認知症」との関連

お口の中に歯周病菌が蔓延している状態は、呼吸器や脳の健康にとっても重大なリスクとなります。
特に高齢者の方やご家族が高齢である場合、以下の2点によく注意してください。

【誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
高齢期や脳梗塞後遺症などで飲み込む力(嚥下機能:えんげきのう)が低下すると、睡眠中などに唾液と一緒に大量の歯周病菌が誤って気管から肺に入り込んでしまいます。
肺の中で歯周病菌が繁殖することで引き起こされる誤嚥性肺炎は、高齢者の主要な死因の一つとなっており、口腔衛生の管理(口腔ケア)がその予防において大きな役割を担っています。

【認知症(アルツハイマー病)
近年の分子生物学的研究において、アルツハイマー病患者の脳内から歯周病の原因菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)や、その放出する毒素(ジンジパイン)が高頻度で検出されていることがわかりました。

歯周病菌が脳内に侵入することで、アルツハイマー病の代名詞である異常タンパク質(アミロイドβ)の蓄積を加速させ、認知機能を低下させる一因となっていることが示唆されています。

重度の歯周病でよくある質問と回答(Q&A)

「歯周病の手遅れの症状」(重度の歯周病:歯槽膿漏)について、インターネット上で欲みられる質問と回答を掲載いたします。

Q1. 歯茎の腫れや出血が自然に治まったのですが、治ったと考えていいですか?

A1. 完治ではなく、一時的に症状が落ち着いている状態と考えられます。

歯茎の腫れや出血は、体の免疫力と細菌の勢力のバランスによって変動します。

一時的に腫れが引いたのは、単に「急性期(きゅうせいき)」から、痛みや腫れをほとんど出さないまま静かに骨を溶かし続ける「慢性期(まんせいき:サイレント期)」へと移行した可能性が考えられます。

お口の奥に潜むプラークや歯石(バイオフィルム)を取り除かない限り、水面下で骨の融解は絶え間なく進行しています。速やかに歯科医院を受診して、内部の感染源を取り除くことをおすすめいたします。

Q2. 歯が少しグラグラするのですが、これはもう絶対に抜歯になりますか?

A2. 必ずしも抜歯になるとは限りません。

歯がグラグラ揺れるのは、骨が溶けていること(歯周病)だけでなく、噛み合わせのバランスが崩れて特定の歯に過剰な力が集中している「咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)」が原因である場合も多々あります。

この場合、不要に強く当たっている部分の噛み合わせを微調整したり、隣の健康な歯と連結して固定する暫間固定を施したり、マイクロスコープによる精密な感染源除去を行うことで、抜歯を回避して歯を残せる可能性があります。

手遅れだと諦めてしまう前に、精密治療に対応できる医院での検査をおすすめします。

Q3. 歯周病の治療はかなり痛みがあると聞きましたが本当ですか?

A3. 治療中は適切な麻酔処置を行うため、強い痛みを感じることはほとんどないとされています。

「手遅れ」と称されるような重度の歯周病において、歯茎の深い部分を清掃するスケーリングや外科手術を行う際は、十分な局所麻酔を施した上で処置を行うことが一般的です。

また、マイクロスコープを用いた治療は、肉眼での治療と比較して精密な処置が可能であり、無駄に歯や歯茎に傷つけないよう細心の注意を払って処置が行われます。

そのため、治療中のみならず「治療後の痛みや腫れ」も格段に少なく抑えることに繋がります。

むしろ、痛みを恐れて治療を先延ばしにし、さらに骨の破壊が進んで歯の神経が死んでしまったり、膿が激しく溜まったりしてしまうと、激しい苦痛を伴うことになります。

Q4. 抜歯を回避するためにマイクロスコープでの精密治療を希望する場合、どのような手順になりますか?

A4. まずは、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を実際に導入しており、かつ歯周病治療に注力している歯科医院を探すことから始めましょう。

マイクロスコープを導入している歯科医院の多くは、公式ホームページ等でマイクロスコープを用いた精密根管治療や精密歯周治療の取り組み、専門的な診査体制(歯科用CTや高倍率のプロービング検査など)を紹介しています。

そうした医院を受診し、セカンドオピニオンとして「抜歯せずに自分の歯を残す治療法はないか」と、客観的な診査・診断を希望することが、最初のステップとなります。

まとめ

歯周病が「手遅れ(抜歯を検討する段階)」に近い状態になると、お口の中では骨の消滅、歯の激しい動揺、膿の流出といった、トラブルを抱えることになります。

また、歯周病は、糖尿病の悪化、心筋梗塞、誤嚥性肺炎、さらにはアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めることがあり、注意が必要です[参考文献5]。

しかし、歯科医院でのPMTC(プロフェッショナルケア)や、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使った治療により、重度の歯周炎でもなるべく歯を抜かずに保存できる可能性があります。

「まだ若いから」「歯医者に行くのが怖いから」と見て見ぬふりをしたり、「もう手遅れだ」と一人で悩んだりせず、ぜひマイクロスコープ精密治療の扉をたたき、あなたの大切な天然の歯を生涯にわたって守り抜くための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


出典・参考資料

  • [参考文献1] 日本歯科医師会「テーマパーク8020」『歯周病について』
  • [参考文献2] 日本歯科医師会 Webマガジン「歯の学校」『クイズで学ぼう!歯周病予防の基本のキ』
  • [参考文献3] 厚生労働省「歯周病罹患の現状と対策について」
  • [参考文献4] 特定非営利活動法人 日本歯周病学会『臨床ガイドライン・各種指針』
  • [参考文献5] 一般社団法人 日本臨床歯周病学会『歯周病が全身に及ぼす影響』

※本記事は、一般的な歯科医学情報の提供および口腔保健の啓発を目的としたものであり、特定の個人に対する特定の治療方針や病理診断を決定・保証するものではありません。実際の治療にあたっては、必ず信頼のおける歯科専門医の診査・診断をお受けください。