歯磨きの最中などに、ふと歯茎にぷくっとした「ニキビ(おでき)」のような白いできものを見つけて、気になっていませんか?
単なる口内炎と思っていたできものが、実は「フィステル」と呼ばれる膿の出口かもしれません。
「痛くないから」「疲れているだけかも」と放置したり、気になって自分で歯茎のできものを潰したりするのは、症状をさらに悪化させてしまうリスクがあります。
本記事では、口内炎との見分け方、フィステルができる原因、再発を防ぐためのマイクロスコープを活用した精密治療について解説します。
目次
歯茎のできものにはどんな種類がある?フィステルとの見分け方
歯茎のできものは、「フィステル(サイナストラクト)」だけでなく「口内炎(アフタ性口内炎)」や「初期の口腔がん(腫瘍:しゅよう)」の可能性もあります。
見た目、できやすい原因に違いがあるので、それぞれ確認していきましょう。
※1~2週間以上経過して自然治癒しない場合や、徐々に悪化する場合は、自己判断せずにただちに歯科医院で診察を受けてください。
口内炎(アフタ性口内炎)
歯茎にできる口内炎はアフタ性口内炎とも呼ばれ、粘膜表面の一時的な炎症であり、通常は1~2週間程度で自然に治ります。
見た目は、直径2ミリ~10ミリ程度のぷくっとした形状で、ニキビ(おでき)のように中央が白~黄色で周囲が赤みを帯びているのが特徴です。
食事や歯磨きで触れると痛みがあり、栄養バランスの乱れやストレス過多、免疫力の低下が原因となって起こりやすいとされています。
また、比較的繰り返しやすい(再発しやすい)ことも知られています。
初期の口腔がん(腫瘍)
歯茎にできる初期の口腔がん(腫瘍)は、口内炎のように白っぽい見た目をしていることが多いですが、硬く盛り上がったような感触で触っても痛みがほぼない、という違いがあります。
また、できものが赤くただれたり、徐々に大きくなったりするケースもあります。
口腔がんの主な原因は、喫煙や過度の飲酒、口腔内の不衛生な状況、と言われています。
歯茎のできものが「2週間以上経っても治らない」「硬いしこりがある」といった場合は、自己判断せず早急に歯科医院で診察を受けることが重要です [参考文献4]。
フィステル(サイナストラクト)

フィステルも、初期の口腔がんと同様、歯茎にできる口内炎とよく似た見た目をしています。
「歯の根元」部分にできやすく、とくに「過去に根管治療(こんかんちりょう)をした歯」や「詰め物や被せ物の治療を行った歯」の付近だと、フィステルの可能性が高まります。
フィステルは、口内炎と違って歯茎表面の炎症ではなく、歯の根の先(口腔内)の炎症が原因でできた膿の出口(膿の袋)です。
そのため、舌や指で押すと白~黄色っぽい膿が漏れ出ることもありますが、基本的に痛みはないことが多いです。
なお、フィステルは「サイナストラクト」または「瘻孔(ろうこう)」とも呼ばれます。
なぜフィステルには「痛みがない」ことが多いのか
フィステルに痛み感じない主な理由は、「膿の逃げ道(瘻孔)」がすでに開通しており、歯茎の内部の圧力が下がっているためです。
初期段階で膿が骨の中に密閉されている時は、内圧が高まるため「夜も眠れないほどズキズキ痛む」「歯が浮くような激しい痛みがある」といった症状が出ます。
しかし、膿が骨を溶かして歯茎のできものの穴(フィステル)から排出されると、パンパンに張っていた風船の空気が抜けるように圧力が下がり、痛みが消失・軽減するのです。
痛みがなくなったからといって「治った」わけではなく、むしろ炎症が慢性化して骨を溶かし続けている状態と言えます。
歯科医院で「様子見」と言われる理由
歯茎のできものがフィステルだった場合、歯科医院で「痛みがないならしばらく様子見しましょう」と言われるケースが存在します。
これは、急性症状(激しい痛みや強い腫れ)がない場合や、被せ物を外しての再治療のリスク(歯が割れるなど)を考慮しての判断であることが一般的です。
歯科医院でその後の治療方針を相談し、ご自身の症状やお口の状態に合った治療を検討しましょう。
「痛くないから」は危険!フィステルを放置・自力で潰すリスク
フィステルは口内炎とよく似ているため、歯茎のニキビのような感覚で、「痛くないしそのうち治るだろう」と放置してしまう方も多くみられます。
しかし、自然治癒することはなく、症状の悪化や再発リスクがあるため、放置や自力で潰すことは避けてください。
放置により内部で感染が広がり抜歯の原因となるリスク
フィステルを長期間放置すると、歯を支えている周囲の顎の骨が細菌によって少しずつ溶かされていきます。
骨が広範囲にわたって失われると、歯を支えきれなくなりグラグラと揺れ始め、最終的には「抜歯」を余儀なくされるリスクが高まります。
さらに、日本口腔外科学会でも指摘されている通り、顎の骨の内部に溜まった膿が周囲の組織へ広範囲に波及すると、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」と呼ばれる重篤な感染症に発展する可能性もゼロではありません [参考文献2]。
自力で潰すことにより二次感染と再発のリスク
白く膨らんだ歯茎のできもの(フィステル)を見ると、つい針で刺したり、指で押し潰したりしたくなるかもしれません。
しかし、不衛生な手や針で傷をつけると、そこから別の細菌が入り込み、二次感染を引き起こす危険性があります。
また、表面の膿を押し出しても、歯の根の奥深くにある細菌の塊(病巣)は残ったままです。
数日後には再び膿が溜まって同じようにプクッと腫れるだけでなく、かえって症状を複雑化させる原因にもなるため、根本的な解決には至りません。
なぜできる?フィステルができる主な3つの原因
では、なぜ歯の根の先に膿が溜まってしまうのでしょうか。その原因は、主に以下の3つに分類されます。
1. 進行した虫歯(根尖性歯周炎)による神経の死
フィステルの代表的な原因の一つが、放置された深い虫歯が引き起こす「根尖性歯周炎(こんせんせいしゅういえん)」です。
虫歯菌が歯の表面を溶かし、歯の内部の神経(歯髄:しずい)にまで到達すると、ズキズキとした激しい痛みを伴いながら神経が死んでしまいます。
歯の神経が死ぬと痛みを感じることはなくなりますが、神経組織が細菌の温床となり、根の先端(根尖:こんせん)から細菌や毒素が顎の骨に押し出されることで、膿の袋(フィステル)を形成します [参考文献1]。
2. 過去に治療した歯の再感染
過去に「歯の神経を抜く治療(根管治療:こんかんちりょう)」や「詰め物や被せ物(補綴治療:ほてつちりょう)」をした歯があると、フィステルができやすいとされています。
歯の根の内部(根管:こんかん)は、木の根のように複雑に枝分かれしているため、過去の治療において、肉眼だけでは確認できない微小な細菌や汚れが取り残されていた場合、数年後にそれらが再び増殖して感染を起こすのです。
また、被せ物や土台の隙間から新たな細菌が侵入して再感染を引き起こすケースも少なくありません。
3. 歯の根のひび割れ(歯根破折)や重度な歯周病
神経を抜いた歯は、歯の内部に水分や栄養が供給されなくなるため、健康な歯に比べて歯質が脆く(割れやすく)なる傾向があります。
そのため、強い噛み合わせの力や歯ぎしりなどによって、歯の根にヒビが入ったり割れたりすること(歯根破折:しこんはせつ)があります。
この歯にできたヒビの隙間から細菌が入り込み、繁殖することでフィステルを形成します。
また、重度に進行した歯周病によって深い歯周ポケットができ、そこから細菌が感染して根の周囲に膿が溜まり、歯茎から排出されるケースもあります。
フィステルは薬で治る?|マイクロスコープを活用した精密治療の重要性
結論から言うと、原因となっている細菌の住処(感染源)を物理的に取り除く必要があるため、フィステルは薬による内服だけでは根本的な治癒が見込めません。
抗生物質などの薬の成分は血液に乗って患部に運ばれますが、すでに神経が死んでしまった歯や、過去に神経を抜いた歯の内部には、血液が循環していないからです。
そのため、一時的に周囲の歯茎の腫れが引くことはあっても、原因となっている歯の根の中の細菌は生き残っており、再発リスクがあります。
マイクロスコープによる拡大視野での精密な治療
代表的なフィステルの治療法は「根管治療(こんかんちりょう)」です。
しかし、歯の神経や血管が通る管である根管(こんかん)は、直径1ミリにも満たないほど細く、暗く、複雑に枝分かれしています。
フィステルの再発リスクを防ぐには精密な治療が求められますが、そこで貢献するのが「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」です。
マイクロスコープは肉眼と比較して約20倍ほど視野を拡大し、搭載されたライトによる明るい光で根の奥深くまで直接確認しながら精密な処置を行うことを可能にします。
そのため、肉眼では見逃してしまうような隠れた感染源や微小なヒビを発見し、治療の精度を上げることが期待されています。
マイクロスコープを導入している医院でフィステルの治療を受けることは、歯を長持ちさせるための有効な選択肢となります。
外科的処置(歯根端切除術)にもマイクロスコープは有用
精密な根管治療を行っても、根の先端の形状が複雑すぎる場合や、被せ物の土台が太くて外せない場合には、外科的なアプローチが検討されます。
代表的なものが「歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)」です。
歯茎を外側から切開し、感染して膿の袋がついている根の先端部分を直接切り取って、専用の薬で蓋をする処置です。
このような外科手術においても、切断面の微小な状態を確認・処置するためにマイクロスコープが活用されています。
フィステルに関するよくある質問と回答(Q&A)
ここでは、フィステルに関してインターネット上で多く見られる質問とその回答を掲載します。
Q1. 治療後、フィステルはどれくらいの期間で消えますか?
A1. マイクロスコープによる精密治療を行った一般的なケースだと、数週間から数ヶ月程度でフィステルは消退し、徐々に回復していくことが期待されます。
ただし、個人差や症状の進行度合いによって治癒期間は異なります。
Q2. 疲れた時だけ腫れて、また消えるのですが治ったのでしょうか?
A2. 歯茎のできものがフィステルの場合、自然治癒はしません。消えたと思っても再発します。
疲労やストレス、睡眠不足などで体の免疫力が低下した時に、内部の細菌の活動が活発になり腫れが生じます。
体調が戻り免疫力が上がると腫れが引くというサイクルを繰り返しているだけで、根本の感染は残存しています。
Q3. フィステルの治療は痛いですか?
A3. 治療中は局所麻酔を使用するため、痛みを和らげた処置が可能です。
ただし、急性の炎症が強く出ている(ひどく腫れている・激痛がある)状態だと麻酔が効きにくいため、まずは薬で炎症を落ち着かせてから、本格的な治療に入るケースもあります。
Q4. レントゲンに写らないフィステルもあると聞きました。なぜですか?
A4. 一般的な歯科用レントゲンは平面(二次元)的な写真であり、他の骨や歯と重なって病巣が写りにくいケースや、骨が溶け始めた初期段階では黒い影として確認できないケースがあります。
正確な診断のためには、顎の骨を立体(三次元)的に撮影できる歯科用CTでの検査が有効です。
Q5. 10年など長期間放置してしまったフィステルでも治療できますか?
A5. フィステルを長期間放置すると骨の吸収が大きく進み、治療の難易度は高くなります。
抜歯になるリスクもありますが、精密根管治療や歯根端切除術によって歯を残せる可能性はゼロではありません。できる限り早く歯科医院を受診し、精密検査を受けられることを推奨いたします。
まとめ:なかなか治らない・繰り返す歯茎のできものは歯科医院で精密な検査を
歯茎のできものを痛みがないからと2週間以上放置したり、自分で潰したりするのは控えてください。
また、何度も腫れを繰り返している方や、なかなか治らずに不安を抱えている方は、セカンドオピニオンを検討してもよいでしょう。
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)や歯科用CTといった精密な設備が整った歯科医院に相談し、ご自身の歯を守るための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
出典・参考資料
[参考文献1] 社会福祉法人 恩賜財団 済生会『根尖性歯周炎 (こんせんせいししゅうえん)とは』 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/apical_periodontitis/
[参考文献2] 公益社団法人 日本口腔外科学会『炎症|口腔外科相談室』 https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_ensyo/
[参考文献3] 日本歯科医師会 テーマパーク8020『口の中の腫瘍』 https://www.jda.or.jp/park/trouble/cancer_mouth.html
[参考文献4] 公益社団法人 日本歯科衛生士会『口腔がんを正しく理解して早期発見につとめましょう』 https://www.jdha.or.jp/topics/health/c/153/
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、医学的診断や治療を代替するものではありません。個別の症状や治療法については、必ず歯科医師に直接ご相談ください。
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