昔から歯茎にある白いできものを、「痛くないから」とそのままにしていませんか。
あるいは、歯科医院での診察で経過観察(様子見)となった後、「このまま放置でいいのか?」と密かに不安を抱えている方もいるかもしれません。
結論からお伝えすると、歯茎の白いできものが「フィステル(歯茎にできる膿の出口)」である場合、放置すると歯を支える顎の骨が溶けだして最終的に抜歯につながるリスクがあります。
1ヶ月、1年、そして10年と時間が経過するごとに、抜歯リスクの高まりや口内環境の悪化が懸念されるのです。
本記事では、フィステルを放置した「期間別」の具体的な症状と抜歯リスクについて解説します。
また、フィステルの再発防止のため、歯科用CT・マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)による精密治療の重要性もお伝えするので、歯科医院探しの参考にしてください。
目次
【進行度別】フィステルを放置するとどうなる?期間ごとの症状と抜歯リスク
フィステルができている状態は、すでに歯の根の先(顎の骨の中)で細菌が繁殖し、膿が溜まっていることを意味します。
時間の経過とともに進行する症状とリスクを、3つの段階に分けて解説します。
放置初期(数ヶ月〜半年):痛みはほぼないが、顎の骨は溶け始めている
- 症状の重症度:比較的低い
- 抜歯リスク:比較的低い
フィステルができ始めた初期段階では、日常的な痛みはほとんどありません。
歯磨きの最中や食事の最中にできものに当たって、歯茎にニキビのような白いふくらみがあることに偶然気づく程度です。
「単なる口内炎かもしれない」と思う方もいらっしゃいますが、放置すると水面下で症状が悪化するリスクがあります。
虫歯の悪化や、重度まで進行した歯周病、あるいは過去に神経の治療をした歯の内部での「再感染」などにより、根の先端に細菌が生み出した膿が溜まっているかもしれません。
この細菌が発する毒素によって、歯の根の周囲にある顎の骨が少しずつ溶かされ始めているのがこの時期と言われています。
放置中期(1年〜数年):腫れと消退を繰り返し、歯がグラグラしてくる
- 症状の重症度:中
- 抜歯リスク:中
1年または数年単位でフィステルがある方は、体調によって歯茎のできものが大きく腫れたり、潰れて中から嫌な臭いのする白っぽい膿が出たりを繰り返すようになっていないでしょうか?
フィステルの放置期間が長引けば長引くほど、再発によって歯を支えている周囲の骨(歯槽骨:しそうこつ)が広範囲にわたって失われている可能性が高くなります。
土台となる歯槽骨が失われてしまうと、硬いものを噛むと違和感があったり、指で触ると歯がグラグラと揺れ動いたりする症状が現れやすくなります。
放置末期(10年前後〜):歯根嚢胞(しこんのうほう)への巨大化や激しい痛み、そして「抜歯」
- 症状の重症度:極めて高い
- 抜歯リスク:極めて高い
数年から10年前後という長期間にわたって放置した場合、顎の骨は大きく破壊され、歯の根の周囲に「歯根嚢胞(しこんのうほう)」と呼ばれる大きな膿の袋を形成する確率が高まります[参考文献1]。
フィステルを10年にも及ぶ長期間放置すると、根管治療(こんかんちりょう:歯の神経の管の治療)だけでは治癒が難しく、外科的な手術、あるいは抜歯も検討されます。
さらに、フィステルを末期まで放置するリスクは歯を失うことだけにとどまりません。
長期間放置されたフィステルは、ある日突然、顔の形が変わるほど大きく腫れ上がり、夜も眠れないほどの激しい痛みを引き起こす「急性転化」を起こすことがあります。
重篤なケースでは、細菌が顎の骨を超えて周囲の組織へ感染を広げる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」へと発展し、入院による点滴治療必要になることもあります[参考文献3]。
また、フィステルの原因の一つでもある歯周病は、口腔内の細菌が作り出す慢性的な炎症を引き起こし、血液に乗って全身を巡るとされています。
厚生労働省の報告でも、口腔内の感染を放置することは、心疾患や脳卒中、糖尿病といった全身疾患の悪化に悪影響を及ぼすリスクが指摘されています[参考文献2]。
歯医者で「様子見(経過観察)」と言われるのはなぜ?
歯科医院でフィステルが見つかった際、すぐに治療を開始せず「しばらく様子を見ましょう」と言われることがあります。
これにはいくつか理由があります。例えば、すでに根管治療を行っている最中であり、治療の効果が現れて内部の病巣が縮小し、フィステルが自然に消えるのを待っているケースです。
また、乳歯から永久歯への生え変わり時期にある子供の場合なども、経過観察となることがあります。
しかし、原因に対する治療を何も行っていない状態で、長期間の放置が推奨されることは基本的にありません。様子見と言われた場合でも、不安があれば「なぜ経過観察なのか」を歯科医師にしっかりと確認することが大切です。
「痛みがない=治ったから大丈夫」は要注意|痛みがなくても放置が危険な理由とは?
フィステルは自然治癒しないため、「歯茎の腫れが引いた」「痛みがないから大丈夫」という自己判断で放置すると悪化のリスクが高まります。
【POINT】
フィステルは、顎の骨の中に溜まった膿が、行き場を失って骨を突き破り、歯茎の表面にまで到達したトンネルの出口であり、瘻孔(ろうこう)とも呼ばれています。
風船に穴を開けると空気が抜けるように、フィステルという出口が開通していることで、内部に溜まった膿が常に外へ排出されます。
結果として、歯茎の内部の圧力が上がらず、痛みを感じにくいとされています。
痛みがなくても、根の奥の「感染源」は拡大し続けている
フィステルから膿が漏れ出して痛みを感じなくなっても、歯の根の奥深くには細菌の塊である「感染源(病巣)」は残存しています。
表面の歯茎のできものが一時的に消えたように見えても、根本の原因である内部の細菌を取り除かない限り、水面下で骨を溶かしながら感染が拡大し、症状の悪化につながります。
免疫力の低下など、疲れたときに急に悪化するリスク
「仕事が忙しくて疲れている時だけ腫れる」「睡眠不足の時だけ気になる」という症状に心当たりはないでしょうか。
これは、普段は人間の免疫力が細菌の活動をなんとか抑え込んでいる状態(均衡状態)にあるためです。
しかし、疲労やストレスで体の免疫力が低下すると、途端に細菌の活動が優位になり、炎症が急激に強まって腫れとして表面化することがあります。
とくに、フィステルが腫れたり引いたりと長期間再発を繰り返す場合は、歯科医院への受診をおすすめいたします。
「怒られる?恥ずかしい?」長期間フィステルを放置して歯医者に行きづらい方へ
「10年も放置してしまったから、歯医者に行ったら怒られるのではないか」「ボロボロの口の中を見せるのが恥ずかしい」と、受診をためらっている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、患者様が痛みや不安を抱えながら勇気を出して来院されたことを理解し、治療の前にカウンセリングの時間をしっかりと確保している歯科医院も少なくありません。
放置してしまったフィステルだけでなく、虫歯や歯周病、噛み合わせなど、口腔内全般を健康に導くには、歯科医師への相談から始めてみてはいかがでしょうか。
恥ずかしさや不安を乗り越えて一歩踏み出すことが、ご自身の歯を守るための大きな解決策となります。
長期間放置したフィステルでも抜歯を回避するには?|歯科医院選びの基準
長期間放置してしまったフィステルは、細菌が根の奥深くで強固な塊(バイオフィルム)を形成しているため、治療の難易度が高いとされています。
しかし、「抜歯しかない」というわけではなく、大切なご自分の歯を残すためには、「歯科用CT」と「マイクロスコープ」による精密な診断と治療が重要です。
【POINT】
歯科医院や歯科医師によって、備えている設備や得意とする治療分野は異なります。
もしも現在、悩みや不安を抱えている場合、納得のいく治療を選択するために、別の歯科医院でフィステルの治療方針について聞く「セカンドオピニオン」を検討することをおすすめします。
【診断】まずは「歯科用CT」で進行度の精密な診断を
私たちの目に見えている「フィステル」は、一部分であり、歯茎の表面にできた膿の出口のみです。
とくに10年など長期間にわたり放置してしまったフィステルの場合、病巣がある「顎の骨の中」の状態を確認する必要があります。
そのため、治療を開始する前に、まずは「歯科用CT」を用いて顎の骨の状態を三次元(立体)的に撮影することが重要です。
レントゲンは二次元(平面)的な撮影に留まり、骨が重なっている部分だと病巣の正確な大きさや、骨がどの方向にどれくらい溶けているかを見逃してしまうリスクがあるためです。
また、口腔写真やレントゲン写真のみでは見つからなかった新たなフィステルや歯やお口の病気も、歯科用CTであればより精密な診断が期待されます。
【治療】拡大視野を可能にする「マイクロスコープ」での精密治療・外科処置
フィステルは、歯の根の先の部分にできることが多く、歯の根の中にある神経や血管(歯髄:しずい)が通る管(根管:こんかん)の感染を取り除くとなると、0.1ミリ単位の非常に精密な処置が要求されます。
肉眼では非常に難易度が高くなりますが、患部を約20倍に拡大できる「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」を活用することで、歯の根の先端まで直接見ながら治療することが期待できます[参考文献4]。
また、フィステルの原因である膿の袋を除去するために、歯茎の切開を伴うような外科手術になった場合も、マイクロスコープの拡大視野は精密な処置に貢献します。
患部のみを過不足なく取り除くようにすることで、結果として再発防止につながり、傷跡も可能な限り最小限に留めることが期待されます。
長期間放置したフィステルに関するよくある質問と回答(Q&A)
ここでは、長期間治らないフィステルに関して、患者様から多く寄せられる疑問にお答えします。
Q1. 10年放置したフィステルでも、絶対に歯を残せますか?
A1. 放置期間が長いほど難しくなりますが、症状によっては歯を残せる可能性もあります。
しかし、10年という長期間の放置により、歯を支える骨がほとんどなくなってしまっている場合や、歯の根自体が縦に真っ二つに割れてしまっている(歯根破折:しこんはせつ)場合は、マイクロスコープを用いた精密治療をもってしても抜歯を避けられないケースがあります。
まずは歯科用CTでの精密診査を行い、ご自身の現在の症状と今後の治療方針を歯科医院で相談することをおすすめいたします。
Q2. 治療にはどれくらいの期間と回数がかかりますか?
A2. 症状の進行度合いや骨の溶け具合によって大きく異なります。
なお、マイクロスコープを用いた精密根管治療の場合、1回の治療時間を長く(1時間〜1時間半程度)確保し、少ない通院回数(数回程度)で集集中して細菌を除去する方針をとる医院が一般的です。
期間としては数週間から数ヶ月程度が目安となります。
Q3. レントゲンで異常なしと言われましたが、フィステルがあります。なぜですか?
A3. 一般的な歯科用レントゲンで撮影する画像は二次元的(平面)であり、歯や顎の骨が重なって写るため、初期段階の骨の溶けや、特定の角度にある病巣が死角になってしまい、黒い影(異常)として確認できないことがあります。
フィステルを形成している感染源の特定には、歯科用CT(三次元)での精密な再検査が重要です。
Q4. 歯周病が原因のフィステルだと言われました。放置すると他の歯も抜けますか?
A4. はい。治療せず放置することによって口腔内に感染拡大のおそれがあります。 なぜなら、歯周病は一部の歯だけの問題ではなく、お口全体に広がる感染症だからです。
歯周病が原因でできたフィステルを放置し続けると、原因となっている歯の周囲の骨が溶けるだけでなく、その隣の健康な歯を支えている骨まで連鎖的に溶かされてしまい、最終的に複数の歯を同時に失うリスクが高まります。
Q5. フィステルを自分で潰して膿を出してもいいですか?
A5. 不衛生な指や針でフィステルを潰すと、傷口から別の細菌が入り込み、二次感染を引き起こし、症状を急激に悪化させるおそれがあります。
また、表面の膿を出しても、顎の骨の奥にある根本的な細菌の塊が残っている限り、数日後には再び膿が溜まります。根本的な解決にはならないため、速やかに歯科医院を受診することをおすすめします。
Q6. フィステルと口腔がん(歯肉がん)の違いは何ですか?
A6. 見た目が似ている場合がありますが、原因と症状が異なります。
フィステルは歯の根の感染が原因で膿が出る穴ですが、口腔がんは腫瘍です。
フィステルは潰れると膿が出ますが、がんは治りにくい潰瘍(口内炎のようなもの)や硬いしこりを伴うことが多く、出血しやすい傾向があります。
自己判断は非常に危険ですので、2週間以上治らないできものがある場合は、早急に歯科医院や口腔外科を受診してください。
まとめ:フィステルの放置は危険|抜歯を回避するため早めに精密検査を
フィステルは、痛みがないからといって放置してもよい症状ではありません。
1ヶ月、1年、そして10年と放置する期間が長引くほど、目に見えない顎の骨の中では破壊が進み、最終的には抜歯や全身疾患といった重大なリスクもあるからです。
また、「もう手遅れかもしれない」と悩んでいる方は、 マイクロスコープや歯科用CTといった精密な設備が整った歯科医院の受診をおすすめいたします。
お口の健康を取り戻すために、まずは一歩勇気を踏み出して、お近くの精密治療を得意とする歯科医院にご相談ください。
出典・参考資料
[参考文献1]. 公益社団法人 日本口腔外科学会『嚢胞(のうほう)』 https://www.jsoms.or.jp/public/disease/setumei_noho/
[参考文献2]. 厚生労働省『歯周病検診について』 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/periodontal_disease.html
[参考文献3]. 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト KOMPAS『歯性感染症』 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000217/
[参考文献4]. 一般社団法人 日本歯内療法学会『患者のみなさまへ(歯内療法とは)』 https://www.jea.gr.jp/citizen/
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、医学的診断や治療を代替するものではありません。個別の症状や治療法については、必ず歯科医師に直接ご相談ください。
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