【医師監修】歯が抜けたときの治療|インプラント・ブリッジ・入れ歯の違いを解説

「歯が1本抜けただけ」と、つい放置してしまっていませんか?たった1本の歯を失っただけでも、口の中のバランスが崩れると、その影響が他の部分にも広がっていってしまいます。

歯並びの乱れや残った歯の虫歯リスク増大に留まらず、頭痛や肩こり、消化不良といった全身の不調にまで繋がることもあります。

この記事では、歯を失った際の3大治療法である「インプラント」「ブリッジ」「入れ歯」を徹底比較。それぞれのメリット・デメリット、費用や期間の違いを詳しく解説します。後悔しない選択をするために、最適な治療法を知りましょう。

この記事を監修した医師

明石 陽介
Akashi-Yosuke

愛知学院大学歯学部卒業

口腔外科、一般歯科診療に携わり
現在は、愛知県内の歯科医院にて訪問歯科診療を中心に活動。通院が難しい方にも安心して歯科治療を受けていただけるようサポート。
義歯治療や摂食嚥下の支援にも力を入れ、患者様一人ひとりの生活に寄り添った診療を大切にしている。


抜けた歯を放置するリスク

ここでは、抜けた歯を放置するリスクとして「①口内トラブル」と「②全身への影響」について詳しく見ていきましょう。

①口内トラブル

抜けた歯をそのままにしておくと、周りの歯や噛み合わせに少しずつ影響が出てきます。本来あるべき場所に歯がないだけで、口の中のバランスはゆっくりと変わってしまうのです。

口内に起こるトラブルは以下の4つです。

  • 歯並びと噛み合わせが乱れる 
  • 汚れが溜まりやすくなり虫歯や歯周病のリスク増える
  • 顎の骨が痩せる
  • 治療の選択肢が狭まる 

抜けた歯を放置すると口腔内の環境が変化し、歯を元の場所に戻す「再植(さいしょく)」や「インプラント治療」など、治療の選択肢が少なくなる可能性もあります。

②全身への影響

歯が抜けることによる影響はお口の中だけで終わりません。やがて全身の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。歯を失うことは食事や会話といった日常の基本的な活動に直結します。

全身への影響は以下の4つです。

  • 消化不良と栄養不足 
  • 頭痛・肩こり・顎関節症 
  • 顔の見た目の変化
  • 認知機能への影響

特に高齢者の場合は、柔らかいものばかりを選んでしまい栄養が偏る原因や、歯を失って噛む回数が減ることで脳への刺激も減少し認知機能に影響を与える可能性も指摘されています。

歯が抜けたときの正しい対応

事故や転倒など外傷によって歯が抜けてしまった場合、その直後の対応によっては歯を元に戻せる可能性があります。

ただし、歯周病や虫歯で自然に抜けた歯の再移植は一般的に困難です。

ここでは「①抜けた直後にやるべきこと」と「②歯科医院を受診するタイミング」を具体的に解説します。

①抜けた直後にやるべきこと

転倒などの外傷で歯が丸ごと抜けたとき、歯の根の表面にある「歯根膜(しこんまく)」という細胞を生きたまま歯科医院へ運べるかどうかが、治療の成否を分ける最大の鍵となります。

歯が抜けたときは、以下の手順で慌てずに対処してください。

1.抜けた歯を見つけたら、歯の頭の部分(普段見えている白い部分)を持ち回収する

2.清潔なガーゼやティッシュを丸め、歯が抜けた穴に当ててしっかり噛み止血する

3.抜けた歯を乾燥させないように保管する

歯の保存には、歯の保存液の他、成分無調整の牛乳、生理食塩水(コンタクトの保存液)などが有効です。(※1)

上記の液体が手に入らない場合は、飲み込まないよう注意しながらお口の中(頬と歯ぐきの間)に入れておくのも有効な方法です。

回収する際に注意しないといけないのが抜けた歯の取り扱いです。良かれと思った行動が、治療に大きな影響を及ぼすこともあります。

歯が抜けた時に絶対にやってはいけないことを表にまとめました。

禁止行為正しい対処法
歯の根をゴシゴシ洗う保存液の中で軽くすすぐ
ティッシュや布で包む乾燥を防ぐため保存液に入れて保管
水道水に長時間つける歯根膜の細胞がダメージを受けるため、保存液入れて保管

歯根膜は指で触れるだけで大きなダメージを受ける、デリケートな細胞です。回収や保管は慎重に行いましょう。

②歯科医院を受診するタイミング

応急処置が済んだら1分1秒でも早く歯科医院を受診してください。外傷で抜けた歯の再植は、以下のように時間経過とともに成功率が著しく低下します。

受診時間治療の成功率
抜けてから30分以内歯根膜の細胞へのダメージが最小限で済み、再植の成功率が最も高くなる(※2)
抜けてから2時間以内牛乳や保存液で適切に保管できていれば、2時間以内でも再植の可能性はあるが時間が経つほど成功率は下がる(※2)

受診する際は事前に電話で「外傷で歯が抜けた」と状況を伝えておきましょう。歯科医院側も緊急の受け入れ準備を整えることができ、来院後すぐに治療を開始できます。

歯が抜けた場合の3つの治療法を比較

歯が抜けたときの治療法にはそれぞれ特徴があり、優れた点と注意点が存在します。顎の骨の状態や残っている歯の健康状態、ライフスタイル、費用に関するご希望などを総合的に考え最適な治療法を選ぶことが大切です。

治療法は主に以下の3つがあります。

①インプラント

②ブリッジ

③入れ歯(義歯)

①インプラント治療

インプラント治療は歯を失った部分の顎の骨にチタン製の人工歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯を装着する方法です。

項目内容
特徴・天然歯に近い見た目と噛み心地を得られる
・周囲の健康な歯を削る必要がない
・顎の骨が痩せるのを防ぐ効果が期待できる
注意点・外科手術が必要
・治療期間が比較的長い
・保険適用外で、費用は高額になる傾向がある
・治療後の定期的なメンテナンスが必要

長期的な安定性と見た目の美しさを保つには、インプラントをつける周りの骨や軟組織の安定性が重要です。(※3)

②ブリッジ治療

ブリッジ治療は失った歯の両隣にある健康な歯を土台として削り、そこに橋を架けるように連結した人工の歯を被せて固定する方法です。

項目内容
特徴・固定式で安定感がある
・比較的、治療期間が短い
・条件が合えば保険が適用される
注意点・健康な両隣の歯を削る必要がある
・支えとなる歯に大きな負担がかかる
・清掃が難しく、むし歯や歯周病のリスクが高まる

ブリッジと歯ぐきの間には食べかすが詰まりやすいので、丁寧に清掃してむし歯や歯周病にならないように注意しましょう。

③入れ歯(義歯)治療

入れ歯(義歯)治療は、失った歯を補うための取り外し式の装置を入れる方法です。1本だけ歯がない場合から全ての歯がない場合まで、幅広いケースに対応できます。

残っている歯に金属のバネなどをかけて固定する「部分入れ歯」と、歯ぐき全体で支える「総入れ歯」があります。

項目内容
特徴・歯をほとんど削らずに済む
・外科手術が不要
・多くのケースで保険が適用され、安価に作製できる
注意点・慣れるまで違和感や話しにくさを感じる場合がある
・食べ物に制限が出ることがある
・バネをかける歯に負担がかかる

従来の入れ歯の「ズレる」「痛い」といった悩みを軽減するため、最近ではインプラントを支えとして利用する「インプラント支持の入れ歯」という選択肢も注目されています。

各治療法のメリット・デメリット比較

各治療法にはそれぞれにメリットとデメリットがあります。それぞれの特徴を詳しく比較してみましょう。

各治療法の特徴を表にまとめました。

治療法メリットデメリットおすすめする人
インプラント・ご自身の歯のように自然に噛める
・見た目が美しく、機能性が高い
・周囲の健康な歯を削らない
・顎の骨が痩せるのを防ぐ効果がある
・歯ぐきとも強固に結合し、長期的に安定しやすい
・外科手術が必要になる
・治療期間が比較的長い
・保険適用外のため費用が高額
・全身疾患や骨の状態により適応できないことがある
・残っている歯を一本でも多く守りたい方
・自分の歯と同じ感覚で食事や会話を楽しみたい方
・見た目の美しさを重視する方
ブリッジ・固定式で安定感がある
・比較的短い期間で治療が完了する
・使用する素材によっては保険が適用される
・入れ歯に比べて違和感が少ない
・両隣の健康な歯を削る必要がある
・支える歯に大きな負担がかかる
・歯と歯ぐきの間に汚れが溜まりやすい
・失った歯の本数が多いと適応できない
・外科手術に抵抗がある方
・比較的早く治療を終えたい方
・ある程度の費用で、取り外しのない歯を入れたい方
入れ歯・両隣の歯をほとんど削らずに済む
・外科手術が不要
・保険適用の場合、比較的安価
・取り外して清掃できる
・多くの歯を失った場合にも対応できる
・硬いものや粘着性のあるものが噛みにくいことがある
・違和感や話しにくさを感じやすい
・ずれたり外れたりすることがある
・固定するための金属のバネが見えることがある
・費用をできるだけ抑えたい方
・外科手術が体質的に難しい方
・多くの歯を一度に補う必要がある方

それぞれの特徴からあなたのライフスタイルや価値観、お口の状態に合わせて最適な治療法を選択をしましょう。

次に「治療期間と通院回数の目安」と「治療費用の比較」について詳しく見ていきましょう。

治療期間と通院回数の目安

治療にかかる期間や通院回数は、選ぶ治療法によって大きく異なります。お仕事や生活のご都合に合わせて治療計画を立てるためにも、それぞれの目安を把握しておきましょう。

各治療法の治療期間や通院回数の目安を表にまとめました。

治療法治療期間の目安通院回数の目安
インプラント上顎で4〜5か月下顎で3〜4か月(※4)骨の状態や治療計画による
ブリッジ約1〜3ヶ月3〜5回程度
入れ歯約1〜2ヶ月2〜6回程度

インプラントは外科手術で骨とインプラントがしっかり結合するのを待つ期間が数ヶ月必要です。骨の量が足りない場合、骨を増やす処置が必要なため長期化する場合もあります。

ブリッジは支えとなる歯を削って型を取り装着するため、支えにする歯に虫歯や歯周病があれば、その治療を優先して行うため、全体の期間は少し長くなることがあります。

入れ歯はお口の型取りから始まり、噛み合わせの確認、完成した入れ歯の装着と調整を行います。比較的シンプルな工程のため治療期間は最も短いですが、お口に馴染むまで数回の調整が必要になることがほとんどです。

治療費用の比較(保険・自費の違い)

歯の治療には、健康保険が適用される「保険診療」と、適用されない「自費診療」があります。

この2つの違いを表にまとめました。

治療費用治療内容
保険診療病気を治し「噛む」という最低限の機能を回復させることを目的とするため、使用できる材料や治療法に制限がある
自費診療機能性はもちろん、見た目の美しさや快適性、長期的な安定性などを追求できる

自費診療は使用する最新の材料や技術に制限がないため、より質の高い治療の選択肢が広がります。

歯が1本抜けた場合のおおよその費用は以下のとおりです。

治療法保険診療の目安(3割負担)自費診療の目安
インプラント適用外約350,000~500,000円
ブリッジ約20,000~30,000円約300,000円~
入れ歯約5,000~15,000円約150,000円~

自費診療は高額になることがありますが、年間の医療費が10万円(所得により変動)を超えた場合に税金の一部が還付される「医療費控除」の対象となります。高額な治療費がかかると不安になりますが、ご自身の歯の健康のこともよく考えて治療法を選択してください。

治療の質を左右する「精密さ」とマイクロスコープの重要性

歯が抜けた後の治療は、単に失った歯の形を補うことがゴールではありません。いかにご自身の身体の一部として自然に機能させ、長く健康な状態を保てるかが重要です。その成否を分ける最大のポイントが治療の「精密さ」です。

お口の中は常に細菌が存在し、毎日強い力がかかり、温かい食べ物や冷たい飲み物による温度変化に晒される過酷な環境です。このような環境で治療した歯を長持ちさせるには、肉眼では見えないミクロン単位(1ミクロン=0.001ミリ)の精度が求められます。

インプラントやブリッジで求められる精密治療とは

精密治療とは極めて高い精度を追求した歯科治療のことです。特に他の歯や顎の骨と連携して機能するインプラントやブリッジでは、わずかな誤差が将来の大きなトラブルにつながります。

2つの治療法で求められる精密さについて表にまとめました。

治療法求められる精密治療
ブリッジ被せ物と土台の歯の境目に段差や隙間(辺縁不適合)を最小限に抑える
インプラント・インプラントを埋め込む位置・角度・深さをCTデータに基づいてミクロン単位で制御する
・歯ぐきと接する部分の材料選択や形状設計まで考慮した、極めて精密な手術計画と技術が必要

近年の研究では辺縁不適合がわずかでも存在すると、そこから唾液中の細菌が侵入し、土台の歯が再び虫歯になったり、歯周病が進行したりする主たる原因となることが指摘されています。(※5)

マイクロスコープによる処置精度の向上

マイクロスコープは治療部位を最大で20倍以上にまで拡大し、強力な光で影を作らずに照らし出すことができる「手術用顕微鏡」です。

マイクロスコープを使用するメリットは以下の4つです。

  • 診断精度の飛躍的向上 
  • 治療の正確性と低侵襲化 
  • 再発リスクの大幅な低減
  • 仕上がりの美しさの追求

マイクロスコープを使うことで歯科医師は肉眼やルーペ(拡大鏡)では見ることのできないレベルで、歯や歯ぐきの状態を正確に把握しながら治療を進めることが可能になります。

精密さが治療の持ち・見た目・快適さに影響する理由

治療の精密さはその後の「持ち(耐久性)」「見た目(審美性)」「快適さ(機能性)」という、患者さんの生活の質(QOL)に影響を与えます。

治療の精密さが影響を受ける3つの要素について表にまとめました。

項目精密な治療のメリット不精密な治療のリスク
持ち(耐久性)治療箇所が長持ちし、二次的なトラブルのリスクが低い数年で再治療が必要になる可能性が高い(二次う蝕、歯周病、インプラント周囲炎など)
見た目(審美性)歯と歯ぐきの境目が自然で、長期的に美しい状態を維持できる境目の不適合で歯ぐきが黒ずんだり、下がったりする
快適さ(機能性)・違和感がなく清掃しやすい
・食べ物が詰まりにくく、口臭も予防できる
段差に食べ物が詰まりやすく、清掃不良から口臭や歯ぐきの炎症につながる

精密な治療により、歯を入れたあとも自然な噛み心地と心地よい状態を保ちやすくなります。

治療後のケアと再発予防

歯を長持ちさせるためには治療後のメンテナンスが極めて重要になります。

インプラント、ブリッジ、入れ歯は、失った歯の機能を取り戻す素晴らしい治療法ですが、これらはあくまで「人工物」です。ご自身の天然の歯以上に、丁寧で適切なケアを継続しなければ、長期間健康な状態を保つことはできません。

メンテナンスで長持ちさせるポイント

治療した歯を一日でも長く快適に使い続けるためには、歯科医院での定期的な検診が不可欠です。ご自身のセルフケアだけでは、どうしても取り除けない細菌の塊(バイオフィルム)や、自分では気づけない初期の変化があります。

治療を受けたら、以下の表に示すように定期的にメンテナンスを受けましょう。

治療法メンテナンス内容
インプラントネジの緩みや被せ物の状態を確認し、専門の器具でインプラント周囲を徹底的に清掃
ブリッジ被せ物と土台の歯の境目の状態をチェックし、汚れが溜まらないように清掃
入れ歯定期的に入れ歯の適合状態を確認し、必要に応じて調整

治療でどんなに優れた材料を用いても、お口の中が不衛生な環境ではその効果を十分に発揮できません。材料の性能を最大限に活かすには、定期的なメンテナンスで良好な口内環境を保つことが大切です。

歯を失わないためのセルフケアと定期検診

歯科医院でのメンテナンスと同じぐらい大切なのが、毎日のご自宅でのセルフケアです。治療した場所は、天然の歯とは形が異なるため、以下のように少し工夫が必要になります。

治療方法セルフケア
インプラント「ワンタフトブラシ(毛先が小さなブラシ)」で1本ずつ丁寧に磨く
ブリッジ「スーパーフロス」という特殊なフロスを通し、清掃する
入れ歯・入れ歯を外して専用のブラシで洗浄
・就寝時は洗浄剤につけて細菌の繁殖を防ぐ

正しいセルフケアの方法は、お一人ひとりのお口の状態によって異なります。分からないことがあれば、歯科医師や歯科衛生士に相談しましょう。

まとめ

どの治療法にもメリット・デメリットがあり、「これが一番良い」という絶対的な正解はありません。大切なのは、費用や期間、見た目や機能性といった特徴を正しく理解し、ご自身のライフスタイルやお口の状態、将来どうなりたいかを考えて、納得できる選択をすることです。

抜けた歯を放置することはお口全体のバランスを崩す始まりになります。少しでも不安や疑問があれば、まずは信頼できる歯科医師に相談し、精密な診断のもとで、あなたにとって最適な治療法を一緒に見つけていきましょう。


参考文献

  1. 大阪歯科学会 再植歯の保存方法に関する研究
  2. 池田市歯科医師会 歯の豆知識 歯が抜けた
  3. 第52回公益社団法人日本口腔インプラント学会学術大会 p.65~67
  4. 公立大学法人横浜市立大学 大学病院医学研究科顎顔面口腔機能制御学 インプラント治療
  5. 日本歯周病学会『歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス2018』2)歯周病患者へのインプラント治療の利点とリスク(感染)