インプラントは「天然歯に近い噛み心地」として選ばれる治療ですが、加齢に伴う健康状態や生活環境の変化により、インターネット上では「高齢者は悲惨な結果になる」とデメリットが強調されることもあります。
若いうちに入れたインプラントが、将来的なお口のトラブルの原因、すなわち「老後のリスク・失敗・後悔につながるのでは」と不安に思うのは当然のことです。
本記事では、インプラント治療で高齢期に起こりうる具体的デメリットやリスクを解説します。
また、老後の後悔をなるべく避けるために、「精密な治療やメインテナンス体制の重要性」、それらを見据えた「適切な歯科医院選びの基準」まで分かりやすくお伝えします。
高齢者のインプラントにおけるリスク・失敗・後悔とは?
日本補綴(ほてつ)歯科学会によると、老後のインプラント問題が顕在化しやすくなるのは「70代以降」が一つの目安とされています。
70代以降は身体の衰えや持病、生活環境(介護を要する状況など)の変化によって、インプラントのセルフケアや通院メインテナンスが難しくなることが示唆されています。
たとえば、50代・60代に健康状態や生活環境に問題がなく治療を行ったとしても、70代以降でインプラントを継続するかどうか、また、新たにインプラントを選択するかどうかは検討が必要です。
ここでは、高齢期を迎えた患者本人が直面しやすい具体的な3つのリスクを解説します。
老後リスク①:「インプラント周囲炎」の要因増加

日本口腔インプラント学会の『口腔インプラント治療指針(2024年版)』によれば、高齢者ほど、インプラントの土台を支える骨が溶けてしまう「インプラント周囲炎」の発症リスクが高まる傾向にあります。
なお、インプラント周囲炎とは、インプラントを埋入した部位の周辺に起こる歯周病に似た病気のことで、インプラント脱落(抜けてしまうトラブル)の主な原因の一つです。
老後は加齢によって唾液の分泌量が減り口内細菌が繁殖しやすくなるうえに、手指の筋力低下などから毎日の細やかな歯磨き(セルフケア)が難しくなるため、「プラーク(歯垢:しこう)」が蓄積しやすくなり、結果としてインプラント周囲炎のリスクが高まります。
そのため、高齢者ほど「高額な費用を払ってせっかく入れたインプラントが思ったよりすぐ外れてしまい悲惨な目に」といったようなデメリットに直面しやすい傾向にあるといえます。
【知っておきたいPOINT】
天然歯には歯根膜(しこんまく)と呼ばれるクッションのような組織があり、細菌の侵入を防ぐ防御壁の役割を果たしています。
しかし、人工物であるインプラントには歯根膜が存在せず、周囲の粘膜との結合も弱いという構造的な弱点があります 。
インプラント周囲炎は、年齢に関係なく、20代・30代といった若年層にも起こりえます。
しかし、70代以降など高齢層は唾液量の減少やセルフケアの難化に伴ってリスクがとくに高まるため、入念な注意が必要とされています。
老後リスク②:持病(糖尿病や骨粗鬆症など)による影響

年齢を重ねるにつれて罹患しやすくなる全身疾患(持病等)も、老後にも長期的にインプラントを維持するうえでの大きなリスクとなります。
例えば、老後になって糖尿病によって高血糖の状態が続くと、組織の免疫機能が低下して傷の治りが遅くなり、インプラント周囲炎の発生リスクを上昇させます。
また、高齢女性に多い骨粗鬆症(こつそしょうしょう)自体がインプラントに悪影響を及ぼすだけでなく、治療のために「骨吸収抑制薬(こつきゅうしゅうよくせいざい)」(骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐことにより骨密度の低下や骨の弱まりを抑える薬)を服用している場合は、より入念な注意が必要です。
厚生労働省および日本口腔インプラント学会等の公表資料によると、重度の虫歯や歯周病などによるお口の中の強い炎症や、抜歯などの外科手術をきっかけとして、顎の骨が壊死してしまう「薬剤関連顎骨壊死(やくざいかんれんがっこつえし:MRONJ)」という重篤な合併症を引き起こすリスクが存在します。
そのため、高齢期にインプラント治療を考えている方は、なるべくデメリットを抑えてリスク管理を行う観点から、カウンセリング時に現在服用しているお薬について歯科医師へ必ず事前に伝えることが重要と考えられています。
老後リスク③:万が一の再治療・撤去にかかる身体的・経済的負担

インプラントのトラブルが重症化した場合、高齢期の身体や生活設計に対して、少なからぬ負担が生じる懸念があります。
たとえば、インプラント周囲炎が進行してインプラント体がグラグラになったり、脱落・破折したりした際は、外科的な撤去手術が必要になるケースがあります。
体力や免疫力が低下した高齢期において外科手術は身体的な負担が大きく、全身状態の管理(基礎疾患のコントロールなど)が厳密に求められます。
また、インプラントは原則として公的医療保険が適用されない自由診療(自費診療)であり、治療費は全額自己負担です。
老後の年金生活など限られた生活費の中で、高額になりがちな再治療費を捻出することは経済的な負担となるほか、加齢によって顎の骨が痩せ細っていると、そもそも再度のインプラント埋入自体が困難になるリスクもあります。
【知っておきたいPOINT】
厚生労働省および歯科医学的な各種調査や専門学会の指針などによると、老後のインプラントにまつわるトラブルのリスクをなるべく抑えるには、治療開始の段階から「埋入時における精密な治療」と「長期的かつ精密なメインテナンス体制」が重要とされています。
※これらを踏まえた具体的な「歯科医院選びの基準」については、この記事の後半で詳しく解説します。
【介護・家族目線】親が認知症や要介護になった場合のインプラントの管理リスク
インプラントの老後リスク(デメリット)は、患者本人だけでなく、将来介護を担うご家族にとっても切実な問題になりえます。
たとえば、身体的なサポートが必要な状態(要介護状態)になった際に生じる「インプラントの管理リスク」について解説します。
管理リスク①:自力でのブラッシング困難による口腔内トラブルの増加

老後、加齢に伴い脳血管障害やパーキンソン病、あるいは認知症などを発症すると、患者自身で適切な口腔内清掃を行うことが困難になる傾向にあります。
また、日本口腔インプラント学会の調査等、歯科医学的な知見においては、認知症が進行すると手先の運動機能の低下だけでなく、記憶力や判断力も低下するため、毎日の口腔ケアの習慣自体が失われがちであるとリスクが指摘されています。
その結果、高齢化に伴って口腔内の衛生状態が悪化していき、重度のインプラント周囲炎を引き起こしかねません。
【知っておきたいPOINT】
前述の通り、骨粗鬆症の薬などを服用している場合、インプラント周囲炎を起点とした「薬剤関連顎骨壊死(やくざいかんれんがっこつえし)」のリスクも増加することがわかっており、本人だけでなく健康サポートをする家族や介護者にとってもデメリットになりえます。
管理リスク②:介護者(家族や施設スタッフ)によるケアの手間と難しさ

老後に要介護状態になった場合、固定式のインプラントは、取り外して洗える入れ歯(義歯)に比べて、第三者による清掃の難易度が格段に上がります。
インプラントの構造は複雑であり、歯茎との境目などの細かい汚れを落とすには専門的な知識と技術が必要です。
また、日本口腔インプラント学会では、認知症の症状によっては、口を開けることを拒否されたり、ケア中に動いてしまったりと、介護者の負担が非常に大きくなるケースがあると指摘しています。
【知っておきたいPOINT】
日本口腔インプラント学会の『口腔インプラント治療指針2024』では、老後の要介護状態に起こりうるデメリットを見据え、清掃しやすいようにインプラントの上部構造(じょうぶこうぞう:人工歯の部分)の形態をなだらかに改変するといった対応が推奨されています。
管理リスク③:通院困難な場合の対応と訪問歯科診療における限界

身体機能の低下により歯科医院への自力通院が難しくなった場合、自宅や施設で受けられる「訪問歯科診療」を利用することになりますが、受けられるケア・メインテナンスには設備上の限界があります。
一般的な訪問歯科診療では、口腔ケアや簡単な虫歯治療、入れ歯の調整などは可能ですが、歯科医院と同等の精密な機器は持ち込めません。
たとえば、「歯科用CT」による顎の骨の立体的な診断や、「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」の拡大視野(肉眼比20倍程度)を用いた精密なメインテナンスを行うことは困難とされています。
その結果、インプラントの外科的な撤去や、大掛かりな部品の交換といった高度な処置は訪問先では対応が難しいことが一般的です。
日本口腔インプラント学会の調査でも、高齢者特有のこうしたインプラントのトラブルが生じた際には、ご家族の付き添いのもと、設備のある専門機関(大学病院など)へ患者を移送しなければならない負担が発生するリスクがあると指摘されています。
【知っておきたいPOINT】
インプラント周囲炎のリスクを減らすには、原因となる口内細菌の温床である「プラーク(歯垢:しこう)の除去」が有効とされていますが、訪問診療下での除去、肉眼や歯科用ルーペ(倍率2~10倍程度)での処置には限界があります。
一方で、日本顕微鏡歯科学会などの学術団体によると、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を導入している歯科医院では、20倍程度まで視野を拡大し、歯と歯の境目や歯周ポケットの奥までの処置を可能とするため、より精密なケア・メインテナンスが可能とされています。
老後にありがちなインプラントのデメリットをなるべく回避するには、設備の整った歯科医院への来院サポートが可能かどうか家族に相談するのも一つの選択肢です。
老後のデメリットを考えたら「入れ歯」を選ぶべき?
「インプラントの老後におけるデメリットを考えたら最初から別の方法がいいのでは?」と考える方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、インプラント以外の選択肢である「入れ歯」の老後リスクと、老後の生活環境を見据えた考え方について解説します。
入れ歯にもある老後のデメリット(合わなくなる、手入れの手間)

入れ歯を選択すれば老後は全くトラブルが起きない、というわけではありません。
日本補綴(ほてつ)歯科学会などの知見や一般的な歯科医学的な調査によると、作製当初はぴったりと合っていた入れ歯であっても、加齢に伴うお口の環境変化(顎の骨が痩せるなど)によって徐々にズレが生じ、「噛むと歯茎が痛い」「食事の途中で外れやすい」といった不具合が発生するリスクが指摘されています。
こうしたお口の変化に対応するため、入れ歯を使用する場合も、定期的に歯科医院で入れ歯の内面を削って調整したり、数年ごとに作り直したりすることが一般的です。
また、高齢期においては、認知症などの病気に限らず、加齢による「うっかり物忘れ(健忘)」なども起こり得るため、「どこに置いたかわからなくなってしまった」「外出先や施設で紛失してしまった」といった、取り外し式である入れ歯ならではの管理トラブル(デメリット)も少なくありません。
QOL(生活の質)の維持と、将来の介護を見据えた設計変更(オーバーデンチャー等)の検討
老後の歯科治療において重要なのは、「日々の生活の質(QOL:クオリティオブライフ)をどう高めるか」と「将来の介護負担をどう減らすか」のバランスを取ることです。
インプラントは、入れ歯と比較して天然歯に近い感覚で食事や会話を楽しめる点で、QOLの維持に貢献します。
一方で老後の管理リスク・介護者の負担リスクに不安がある場合は、「オーバーデンチャー(インプラント入れ歯)」という選択肢を検討するのも一つの方法です。

オーバーデンチャーとは、顎の骨に埋入した最少2〜4本程度のインプラントを固定源(留め具)として、その上から取り外し可能な入れ歯を「カチッ」と接続して装着する仕組みです。
インプラントならではの「固定力と噛み心地」を得つつも、将来的に要介護状態や認知症になった際には、ご家族や介護スタッフが取り外してお口の中の清掃ができるため、将来のリスク・デメリットと現在のメリットの双方を賢く両立できる治療設計と言えます。
インプラント治療を検討する際は、単に「今しっかり噛めるか」だけでなく、将来的なお口の環境変化に備えて、オーバーデンチャー等の「将来的な仕様変更・移行」が柔軟に行えるかどうかを、カウンセリング時に歯科医師へ事前に相談してみることを強くおすすめします。
オーバーデンチャー(インプラント入れ歯)の治療概要
オーバーデンチャーを検討される方に向けて、治療概要や費用・デメリットなどを記載しますので、ご確認ください。
| 項目 | 概要 |
| 治療内容 | 顎の骨に最少2〜4本程度のインプラントを埋入し、それを固定源(留め具)として取り外し可能な入れ歯を接続して装着する治療です。 |
| 標準的な費用 | 片顎で税込約50万〜200万円 (下顎は約40万円〜200万円程度、上顎は約140万円〜200万円程度) ※自由診療のため、全額自己負担となります。 また、歯科医院ごとに費用設定が異なり、必要な処置や選択する素材ごとに費用が変動します。 |
| 治療期間の目安 | 約3〜6ヶ月 ※個人の健康状態により前後します。 |
| 通院回数の目安 | 7〜10回程度 ※個人の健康状態により前後します。 |
| 主なリスク・副作用 | 外科手術を伴うため、術後の腫れや痛み、出血のリスクがあります。 また、日々の適切な歯磨きや歯科医院でのメインテナンスといった口腔内の清掃を怠ると、インプラント周囲炎を引き起こす可能性があります。 |
デメリットを上回る?老後もインプラントを維持するメリット
老後に起こりうるトラブルを知ると不安になるかもしれませんが、インプラントにはそれらのデメリットだけでなくメリットも存在します。ここでは、老後におけるインプラントの本来の価値を客観的に解説します。
老後のメリット①:しっかり噛めることで食事の喜びと栄養状態を保つ

インプラントは顎の骨に直接固定されているため、天然歯(自分の歯)に近い感覚で噛むことができ、食べ物をしっかりと咀嚼(そしゃく)できるのが大きなメリットの一つです。
日本補綴歯科学会などの知見や一般的な歯科医学的なデータによると、一般的に、入れ歯の噛む力は天然歯の20〜30%程度に留まると言われていますが、インプラントは天然歯に遜色のないレベル(およそ80~90%)まで噛む力を回復させることが可能とされています。
厚生労働省が推進する「健康日本21(第三次)」においても、「よく噛んで食べることができる者の増加」が、健康寿命を延ばすための重要な目標として掲げられています。
肉や野菜などの硬いものや繊維質のものも制限なく食べられることは、日々のQOL(生活の質)の向上だけでなく、高齢期に陥りやすい低栄養状態を防ぐという医学的な観点からも非常に大きな意義があります。
老後のメリット②:噛む刺激による認知機能低下予防への期待

インプラントによって自分の歯と同じように「しっかり噛んで食事をとる」ことは、脳への適度な刺激となることが知られています。
近年の歯科医学や脳科学における研究・調査によると、咀嚼(そしゃく:食べ物を噛み砕くこと)によって顎をしっかりと動かすことで、脳周辺の血流が促され、活性化につながると考えられています。
もちろん、インプラント治療が認知症などの病気に対して直接的な治療効果を保証するものではありません。
しかし、歯を失った状態のまま放置したり、お口に合わない入れ歯を使い続けて柔らかいものばかりを食べたりする状態を避けることは、老後の全身の健康や、健やかな認知機能の維持を支える重要な要素の一つと言えます。
老後のメリット③:健康な残存歯への負担を減らし、歯の喪失を防ぐ

インプラントは、顎の骨にしっかりと自立する人工歯であるため、ブリッジのように周囲の健康な歯を削ったり、部分入れ歯のように金属のバネ(留め金)を隣の歯にかけたりする必要がありません。
部分入れ歯やブリッジなどの他の治療法と比較して、残存歯(まだ残っているご自身の健康な歯)にかかる咬合(噛み合わせ)の負担を軽減できる点が、歯科医学的にも大きな特徴(メリット)とされています。
ただし、糖尿病や骨粗鬆症など老後に多く問題化される全身疾患が医師の管理のもとで適切にコントロールされ、かつ、インプラント治療後にお口の中の徹底した感染予防(歯科医院での定期的なメインテナンス)が継続されることが重要です。
顎の骨が壊死するなどの合併症リスクをできる限り抑えるには、全身とお口の双方の健康管理が欠かせません。
そして、若いころからの健康管理や歯科医院でのケア・メインテナンスは老後、高齢者になったときの健康な口腔環境を長く守るための有効なアプローチの一つです。
老後のインプラントのデメリットをできる限り抑える|後悔しないための歯科医院選びの基準3つ
「インプラントにすると老後に悲惨なトラブルが生じるのでは」といった不安やデメリットをできる限り回避するためには、最初の「歯科医院選び」が重要です。
「天然歯のような噛みやすさ」といったメリットだけでなく、数十年後の老後や介護期のデメリットも見据えて、信頼できるインプラント医院を選ぶための基準を3つ解説します。
基準①:最初の「治療の精密さ」が将来のインプラント周囲炎リスクを左右する
日本補綴(ほてつ)歯科学会等の調査によると、インプラントの脱落を招く主な原因である「インプラント周囲炎」は、被せ物(上部構造)と土台のわずかな段差や、固定する接着剤(セメント)の取り残し部分に細菌が繁殖することによって引き起こされやすくなるとされています。

そのため、最初の治療段階における「適合の精密さ(いかに隙間なくぴったりと装着できるか)」が、インプラントを長持ちさせ、老後のリスク・デメリットを抑えるうえで非常に重要な鍵を握ると考えられています。
近年では、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)や口腔内スキャナーなどのデジタル技術を活用し、肉眼では捉えきれない精密なレベルで細菌が侵入する隙間を極限まで減らす、精密な治療を提供する歯科医院が増えています。
治療を検討する際は、こうした精密な治療を行える高度な技術や設備がしっかりと整っているかを確認することが大切です。
基準②:治療後も長く付き合える「メインテナンス体制(かかりつけ医)」の有無
老後もインプラントの快適さを維持するためには、治療終了後の継続的なメインテナンス(定期検診や専用器具でのクリーニング)が不可欠と言えます。
なぜなら、高齢者が特に注意したい「顎の骨が露出して壊死してしまう薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」は、インプラント周囲炎が大きな原因の一つとされているからです。

厚生労働省の「健康日本21(第三次)」でも、「歯周病の予防」や「歯科検診の受診者の増加」が国民の健康づくりの柱とされています。
若年期から高齢期にわたって、お口の中のわずかなトラブルを早期に発見し、適切に対処してくれる専門家(かかりつけ歯科医)を見つけ、二人三脚で長期的なメインテナンス体制を築くことが、将来の健康とお口の安心を長く保つためのポイントではないでしょうか。
基準③:高齢者の全身状態(持病など)を考慮できる設備(CT等)と知識
高齢者に限らず、インプラント治療における外科手術やメインテナンスをなるべく安全に行うためには、歯科用CTを用いた三次元的な顎の骨(顎骨)の画像診断が重要とされています。
さらに、高齢期になると高血圧や糖尿病、骨粗鬆症などの持病を抱えたり、日常的に複数の薬を服用したりするケースが増加します。

とくに、腎機能が低下している方にはお体に負担の少ない鎮痛薬(痛み止め)を選択したり、脳梗塞や心疾患の予防で血液をサラサラにする薬(抗血栓薬)を服用している方は注意が必要です。
あらかじめ主治医(内科医等)と密に連携(対診)したうえで、出血リスクに配慮した適切な治療計画の立案や確実な局所止血管理を行ったりといった、高度な医学的配慮が求められるためです。
高齢者のインプラント治療においては、治療中の血圧や脈拍、血中酸素飽和度をリアルタイムで測定できる「生体情報モニター」などの全身管理設備を備え、必要に応じて医科と密な連携を図ることができる、総合的な知識と体制を持った歯科医院を選ぶことが重要です。
インプラントと老後に関するよくある質問と回答(Q&A)
老後のインプラントのデメリットやリスクについて、よくある質問と回答をまとめました。
現在高齢者の方や、インプラントを生涯にわたって使用したい方は、治療の前に参考にしてください。

Q1. 70代、80代でもインプラントの手術は受けられますか?
A1. はい、お体の健康状態や全身管理の体制が整っていれば、高齢であっても治療を受けられるケースは多くあります。
インプラント治療において、年齢だけを理由にした明確な上限は設けられていないからです。
なお、高齢になると高血圧などの持病(基礎疾患)を持つ割合は高くなりますが、健康状態には大きな個人差があります。
そのため、たとえ50代や60代、あるいはそれ以下の世代であっても、お体の状態によってはインプラント治療が適応にならないことは十分にあり得ます。
日本口腔インプラント学会の指針等においても、単純な年齢だけで可否を判断するのではなく、歯科用CTによる精密検査や血液検査、かかりつけの内科医等との緊密な連携など、事前の適切な医学的評価に基づいた総合的な判断が極めて重要であるとされています。
Q2. 介護施設に入居した後、インプラントのメインテナンスはどうすればいいですか?
A2. 自力での通院や十分な歯磨きが困難になった場合は、訪問歯科診療の利用を検討するとともに、お口の状況に合わせてインプラントの構造を「清掃しやすい形態」へ変更する対応が推奨されます。
具体的には、歯科医師の処置によって固定式の被せ物を取り外し可能な形態(オーバーデンチャーなど)へと改変することで、ご家族や介護施設のスタッフでも容易に清掃できるようになり、お口の中の感染リスクを抑えることが可能とされています。
将来的な介護への懸念がある場合は、このような老後の設計変更に柔軟に対応できるインプラントシステムや、訪問歯科診療と連携している歯科医院をあらかじめ選んでおくことが大切です。
Q3. インプラントの寿命(20年後など)がきたらどうなりますか?
A3. インプラントそのものに「何年で使えなくなる」といった一律の耐用年数(寿命)は定められていませんが、一般的な目安(臨床データ)としては10〜20年以上の高い維持率が報告されています。
人工関節などと同様に、インプラントは顎の骨と強固に結合するチタン製であるため、素材自体が経年変化によって自然に壊れてしまうような決まった「寿命」は存在しません。
一方で、インプラントを長期間使用する中でお口の環境や噛み合わせの変化、部品の摩耗などが生じることは避けられないリスクの一つです。
そのため、多くの歯科医学的な統計において「10年で約90〜95%以上が維持される」というデータが一般的な指標として示されており、「インプラントの寿命は10〜20年程度」と言われる理由となっています。
また、お口のケアを怠ることで「インプラント周囲炎」が進行し、インプラントを支えている骨(歯槽骨)が大きく吸収されてしまった場合には、治療後わずか数年であってもインプラントを外科的に除去(撤去)せざるを得なくなることもあります。
だからこそ、インプラントの寿命を「20年後、その先」へと長く延ばせるかどうかは、トラブルを未然に防ぐための「継続的なメインテナンス(プロフェッショナルケア)」をいかに継続できるかという点にかかっています。
まとめ
「インプラントは老後が悲惨」と言われる背景には、加齢に伴うインプラント周囲炎のリスク増加や、全身疾患(持病)の影響、そして要介護状態になった際のセルフケアの難しさといった、高齢期特有のいくつかのデメリットが存在します。
しかしながら、自分の歯(天然歯)のようにしっかりと噛める機能性は、日々の食事の喜びや全身の良好な栄養状態を保つうえで、非常に大きなメリットをもたらします。
老後のトラブルやデメリットをできる限り抑えるには、歯科用CTやマイクロスコープ等を用いた精密な治療によって初期の感染リスクを減らし、将来の全身状態まで考慮して総合的な治療・メインテナンス計画を立ててくれる歯科医院を選ぶことが極めて重要です。
将来を見据えた計画的な治療と、信頼できるかかりつけ歯科医での継続的なメインテナンスによって、不安の少ない豊かで健康な老後を目指しましょう。
出典・参考資料
- [参考文献1]
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
『口腔インプラント治療指針2024』
https://www.shika-implant.org/publication/guide/ - [参考文献2]
公益社団法人 日本口腔インプラント学会
「口腔インプラント治療における薬剤の知識をアップデート」(日本口腔インプラント学会誌 第36巻4号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsoi/36/4/36_248/_pdf/-char/ja - [参考文献3]
厚生労働省
『国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針の全部を改正する件(健康日本21・第三次)』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21_00006.html - [参考文献4]
公益社団法人 日本補綴歯科学会
『超高齢社会におけるインプラント治療』(日本補綴歯科学会誌 2018 年 10 巻 4 号 p. 314-32)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/10/4/10_314/_article/-char/ja/
※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。実際の治療にあたっては、必ず歯科医師にご相談ください。
口腔外科の関連コラム
老後のインプラントのデメリット対策|高齢者のリスク・失敗・後悔とは?
インプラントは「天然歯に近い噛み心地」として選ばれる治療ですが、加齢に伴う健康状態や生活環境の変化により、インターネット上では「高齢者は悲惨な結果になる」とデメ...
オールオン4は後悔する?デメリット・失敗例・リスクと対策・医院選び
多くの歯を失ってしまった場合の治療法として「All on 4」(以下、オールオン4)がありますが、様々なトラブルにより術後に後悔するケースもあります。たとえば、...
フィステルの放置は大丈夫?1ヶ月・1年・10年の期間別抜歯リスク
昔から歯茎にある白いできものを、「痛くないから」とそのままにしていませんか。あるいは、歯科医院での診察で経過観察(様子見)となった後、「このまま放置でいいのか?...
歯茎の白いできもの(フィステル)とは?膿の袋ができる原因と治療法
歯磨きの最中などに、ふと歯茎にぷくっとした「ニキビ(おでき)」のような白いできものを見つけて、気になっていませんか?単なる口内炎と思っていたできものが、実は「フ...
